幕間① 勇者壮五、とりみだす その1
※勇者壮五視点
簡単な訓練のはずだった。
メンバーは教官が選抜した10人と志願者数名。
時間内に実戦訓練用ダンジョンの奥にあるアイテムを取ってくれば目的達成だ。
そこは転生者の身体能力を想定して整備された過酷なものらしい。
だが勇者である俺様なら、ほかのクズどもがクズでも余裕。
なのに、どうしてもダンジョンの中盤くらいから先に進めねえ。
原因は、俺の取り巻きの一人『相沢 中也』の無脳のせい。
コイツが偵察として事前におこなってたマッピングがクソだったからだ。
前と比較にならないくらいまちがいが多い。
敵の弱点への攻撃など的確だった戦闘指示も、今回はガタガタだ。
ったく、少しは使える奴かと思ったのに、クズが。
それでもなんとか休憩できそうなポイントにまでたどり着いた。
「はいはい、気落ちしない、気落ちしない。
初めて見る敵も少なくなかったけど、わたしたちで勝てない相手じゃないわ」
レンさんのそんな言葉。
それをみんな素直に受け入れる。
さすがレンさんだぜ。クズどもとはまるで違う。
足をひっぱるクソ野郎どもがどうにかまとまっているのはレンさんのおかげだ。
もっとも、一番の功績は俺の力だけどな。
いつか俺の女にしてやるぜ。
「そうそう、もう敵の強さもわかったし、切り替えていこう」
さりげない、俺様のフォロー。
レンさんも感じ入ったことだろう。
そこへ悠里が俺たちに近づいてくる。
コイツ、本来この訓練に参加する資格もないゴミだ。
だが志願してきて、その熱意が買われたんだとさ。
まあゴミには違いないが、あの寄生虫野郎をののしるところは見所がある。
顔も悪くないので、いずれ俺様のハーレムに加える予定だ。
それを聞けば泣いて喜ぶだろうぜ。
「それにしても、その指輪、いつもよりずいぶんと明るいですね」
「これ、シュウくんが教えてくれたのよ。
こんなの、わたしも知らなかったわ。
さすがよね」
ん? シュウだと?
けっ、俺のレンさんの慈悲にすがってる分際で、おべっかなんか使いやがって。
俺様だったらそんなみすぼらしい指輪より、豪華なものを用意してやるぜ。
「シュウ君が? へえ、そんな指輪があるんだ。
僕も行きつけの武具店に聞いてみようかな。
なんならみんなで――」
「必要ないわよ?
だってこれ、太陽の指輪ですもの」
「太陽の指輪!?」
ありえない!? まさか太陽の指輪が!?
そんなの聞いたことねーぞ!?
「それがね、正しい使い方をすればこんなに明るく光るんですって!」
「ふ、ふーん。
そうか、まあ、やっぱり鑑定士ってことか。
それにしても、相沢中也君。最近ずいぶんと調子が悪いね?」
胸くそ悪いので、とっとと話題を変える。
「……いえ、その、予習不足でした。
すいません」
「自分を責めなくてもいいわ、アイザワ君。
魔物なんてこの世界に何百種類といるんだから。
それを一人で全部、特徴まで覚えているなんて難しいことだと思うの」
「そうそう、みんなそれぞれ勉強不足だったってことだよ」
正直、無脳野郎にフォロー入れるなんて面倒だ。
が、勇者の地位を保つためにはこういうのも大切。
もっとも、ほかに優秀な奴が入ればとっととこんな無脳、切り捨てるがな。
「……あれ? このマップ、前のものと作った人が違うわね」
適当にだべっていると、レンさんが手に取ったマップを見てそんな指摘をする。
「前のマップはまるでダンジョン内を探索しながら記したような精巧さで。
出現する敵やその攻略まで記されていて。
正直、王都内の一流職人でもここまで書けないってくらい素晴らしかったわ。
なのにこのマップはメモだとしてもここまでヒドくはない、というできで……」
「いえ、その、ちょっと今回は時間がなくて。レンさん」
「そう……でも内容以前に、線の書き方のクセとかがまるで違うのよね……」
「……すいません。
実は、その、前までのマップは全部ほかの人に書いてもらったものでして……」
……ほう。まあ、そりゃあそうか。
こんな無脳野郎にまともなマッピングなんてできるはずもない。
「アンタ!
今までほかから調達したマップを自分が書いたとかインチキしてたの!?」
「まあまあ、ユーリさん。
冒険者もマップを商人から買うことだってあるわ。
それで……、今回は今までの人には頼めなかったのかしら?」
「ええ、まあ」
「……ひょっとして、今までのマップはシュウが書いてたんじゃない?
アイツなら鑑――ゲフゲフ」
クソガキのぶっ飛んだ発言。そんなことありえねー話だ。
大体、戦闘も満足にできない寄生虫がどうやってダンジョンを探索する?
まさか、鑑定眼でダンジョンを外から鑑定でもするのか? ハハッ。
ナンセンスだ。鑑定眼はアイテムや武具にしか使えねえ。
……にしては中也がスゲー動揺しているのがわかる。
まさか……この野郎。
「そうなのかい? 中也君。
シュウ君と二人で……」
俺らしくもなくつい言葉に怒気が。
しかしまさかコイツ、俺をヨイショする裏でまさか、あの寄生虫野郎と組んで。
「違いますよ! 壮五さん! 別に劣等スキル野郎の手を借りたわけじゃない!
ただ俺は、たまたまアイツが教室でマップを書いているのを見たから……。
だから、ちょっと、その……」
「アイツから盗んだの?」
「盗んだっていうの!? シュウくんから!」
「だってあの野郎、マップを譲ってくれって言っても全然聞かないから!!
『これは自分の訓練のために作っただけだ』なんて!
わけ分かんね!!!
だから、俺……」
ハハハハハ!!! お笑い草だぜ!!!
あのクズ、こんな無脳野郎から入魂のマップを盗まれてやんの!!!
どうやって書いたのかはわからねーが。
それをみんなに見せていれば、クラスでの立場も向上したかもしれねーのに!
ざまあねえ、ハハハ!
中也は無脳野郎からグズ野郎に格上げ決定。
気分が良かったところにレンさんが耳を疑うようなことを言った。
「……つまりわたしたち、探索に有用なシュウくんとの縁を自ら切ってしまった」
……おいおい! 有用って、なに言ってるんだよレンさん。
あんな奴のことを良く言うなんて……まさかレンさん、寄生虫野郎のことを。
い、いやいや、まさかまさか。
それに、
「な、なにを言ってるんだい?
彼を退学にしたのは学園であって僕らじゃないだろ?」
「……かもしれないけど。
結局、黙認したわたしたちが追い出してしまったも同然よ。
わたしも欲望に流されちゃったし」
「欲望?」
「うっ、コホン。
とにかくそういうことなら、彼の退学を撤回するように学園に――」
――!
ふざけるな!!!!!!!!
「ダ、ダメだ!!!!!
なんで! なんでレンさんはあんな奴をかばうんだ!!?」
「別に、わたしかばってなんて、ただシュウくんがかわいく――」
「奴なんていなくたって、僕がいるじゃないか! 僕の力があれば!!
それを、なんで寄生虫野郎を! 奴なんか!!! 奴なんかああああ!!!
クソッ!!クソッ!!」
もう、わけわかんねー!!!!!
なんでいつもあの寄生虫野郎は!!!!!!
なんであのカスが!!! あの野郎ばっかり!!!!!!
頭に血が上りすぎて、あとのことはよく覚えてねえ。
気づいたら訓練は終わってた。しかも失敗扱いだ。
クソっ!!!
これも、中途半端にマップなんか作りやがったあの寄生虫野郎のせいだ。
しかも、あのレンさんに色目なんか使いやがって!!!
――そういやあ、確か近々御前試合があるんだったよな。
もし寄生虫野郎が出てきたら、ぶっ潰してやる!!!
まあ、冷静に考えれば万が一にもアイツが出場なんてありえねーだろうがな。
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