はっきり、言うね。
ストックがないので確約まではいかないのですが、次話は4/28(火)21:00頃の更新を予定しています。
◇【鹿島小鳩】◇
――日常に、戻ってきた。
あれから登校生徒も増えて、学校生活も元に戻りつつある。
だけど――教室の空いた席だけはそのまま。
戦場浅葱の席も、机と椅子だけが残っている。
行方不明の場合は席を残すのが一般的だそうだ。
期間がまだ短いと判断されるうちは、特に。
ただ、最近は空席を意識するクラスメイトも減ってきた気がする。
(今日は、どうしようかな……浅葱さんのお母さんのところに、顔を出そうかな?)
いや……今日、浅葱の母親は確かパートの日である。
小鳩とシフトも被っていない。
(じゃあ今日は……別のことをしよう。駅前の書店とか……あ、樹さんを誘ってみるのもいいかも?)
最近、小鳩は樹との距離がだいぶ縮まっていた。
多分あっちの世界にいた時よりも、ずっと。
たまに一緒に出かけたりもする。
いや――樹だけではない。
聖や綾香ともよく話すようになった。
この世界で数少ない”あの世界”の記憶を持っている四人。
なんとなく、共犯関係みたいな感覚があるのかもしれない。
そして小鳩は、その感覚が決して嫌ではなかった。
ただし学校ではあまり積極的に交流はしていない。
急に仲よくなったら違和感が強いだろうから。
なので今は前段階として、樹との仲のよさを少しずつ匂わせている。
(いずれは学校でも、聖さんや十河さんと普段みたいに話せるといいな……)
――窓越しに晴れた秋の空が見える。
今日は、暖かい。
窓が二割くらい開いていて、そこから風が入ってきた。
その微風に、カーテンがふわりと膨らむ。
小鳩は”彼”の席に視線をやった。
(三森君……そっちは、元気でやってる……?)
今、教室では文化祭の出し物について話し合われていた。
行方不明の生徒のことで暗くなってばかりもいられない。
今度の文化祭が、いくらか区切りのきっかけになってくれるといい。
明言はしていないが、実行委員の綾香もそう思っているようだ。
小鳩も綾香には積極的に協力するようにしている。
――まあ、自分にやれることなど少ないのだけれど。
「他に何か案のある人はいますか?」
綾香が壇上から呼びかける。
最近、彼女は髪型を変えた。
カチューシャを外し、高めの位置でポニーテールにしている。
(やっぱり美人だなぁ、十河さんって……)
なんというか、あの髪型になってから凜々しさもアップ。
そんな感じ。
「ぎゃはは! なんだよそれ!?」
教室の後ろの方で、数名の生徒が椅子で不格好な円を作っている。
「ウケるよな!? なっ!?」
談笑しているのは、桐原拓斗のグループ。
今笑っているのは、志波遼太郎と多治見怜雄。
室田絵里衣は、二人を窘めようとしていた。
「二人とも、ちょっとはしゃぎすぎだって……休み時間にしとけば?」
「はー!? えり、なんか最近ビミョーにイイ子ちゃんぢゃねっ?」
多治見に言われ、室田はむすっとなる。
「悪い子よりは、いいでしょ……」
彼女も記憶は消えているはずだ。
だけど召喚前よりちょっと落ち着いた印象がある。
同じグループで仲のよかった苅谷幾美の影響だろうか?
苅谷幾美は魔防の白城戦の際、死亡している。
つまりこちらの世界では、行方不明者の一人。
だから彼女と小山田翔吾の姿は今、桐原グループにはない。
桐原拓斗が、スマホを弄りながら言った。
「ふん……文化祭なんて、広い意味じゃ非生産的でしかねーだろ。高校での思い出作りが将来的に何を生み出すかと言われてもな……一時的な連帯感で気持ちよくなるための、感情労働みてーなもんだ」
「桐原君、今は出し物を決める時間なんだからちゃんと参加して」
そう声をかけたのは、綾香。
しかし桐原はスマホから視線を外さず、反応しない。
綾香の声など聞こえていない――そんな態度。
が、
「スマートフォンも、しまいなさい」
その綾香の、ひと言だった。
途端、教室の空気がピリッと張り詰めた。
軍隊が上官のひと声で瞬時に”気をつけ”をするみたいに――
有無を言わせぬ圧が、教室内の空気を半強制的に正した。
そして、向けられた圧が最も強い場所は誰の目にも明らかだった。
「――――――――、……ちっ」
桐原が舌打ちし、スマホをポケットにしまう。
はしゃいでいた志波や多治見も暫し、呆然としていた。
が、やがて彼らは椅子の位置を戻して席につく。
桐原も不承不承ではあったが、返答とばかりに机と席の位置を直した。
”何か得体の知れない圧が彼らを心ごと黙らせた”
小鳩が抱いたのは、そんな印象だった。
いや、単に十河綾香の叱り方が強かった。
実際のところは、それだけなのだろうけれど。
すると、
「そ、そうだぞ……先生も、十河の言うことが正しいと思うぞ? まあ、規律正しくなんでも厳しくとは言わないが……こういう時くらいは、しっかりやろう? な?」
黒板前の端近くに椅子置いて座っている、担任の柘榴木保。
桐原を刺激しまいという態度を維持しつつ、彼は綾香に追従した。
柘榴木保の態度――特に綾香へのものは現在、大きく変化している。
どうも樹から聞いたところによると、
『なんか綾香のやつ、十河グループ会長の孫の立場を使って学校側になんか働きかけたみたいでさ。いや、本人が言ってたからその立場を使ったってのは間違いねーはず。んで、柘榴木もそれをどっかで知ってビビッちゃったんだろーな。会長の孫にまさかそんな影響力があるとは思ってなかったんだろ。いやまあ……アタシも、びっくりではあるんだが』
てか権力には媚びるんだよなー柘榴木は、と樹は渋い顔をしていた。
確かに、と小鳩は納得する。
召喚直後、彼はヴィシスに対してわかりやすく媚びた態度を取っていた。
ちなみに今のワンシーンを見ていたクラスメイトたちはというと――
「なんか最近の綾香ってさ、頼りになる雰囲気っていうか……けっこう、いい感じじゃない?」
「なんかちょっとカッコイイとこもあるよね? 髪型変えたのもあるかもだけど……凜々しー系?」
「微妙に怖い時もあるけどね……」
「でも最近の委員長、いい……」
「わかる……」
なかなかに好評のようである。
と、一人の男子がこちらをジッと見つめているのに小鳩は気づく。
自然、小鳩も視線を返す形になっていた。
するとその男子が赤くなり、サッと目を逸らす。
「?」
最近、男の子の自分への態度がちょっと違ってきている――気もする。
以前より身だしなみを少し工夫するようになったからだろうか?
そして……以前と違うのは、それを小鳩が自ら進んでやっている点であろう。
(だって……)
今日も空いている彼女の席を、小鳩は見つめる。
『素材が悪くねーのにそれを活かしてないのって、相当にアホだと思う――って話は、前もしたっけ? でもそう、アホアホにゃ~。そりゃあ勘違いストーカー発生とかのリスクはあっけどさ? しかしねぇ……なんでストーカーみてーなカスを怖がってこっちがオシャレとかメイク控えなきゃなんねーの、ってハナシ。それはさておき、話を戻すと……浅葱さんはねぇ、素材がいいのに意識してない――活かしてないやつに、やっぱりイラっとする時があります。ぶっちゃけそういうやつって、社会的損失を出してる説すらあるにゃ~。つーか十中八九、自分も損してるし。はぁ……だからさぁ? おまえみてーなやつのことだよ、小鳩』
ちょっとは意識してないと――また浅葱さんに、怒られちゃうもんね?
△
まだ荻十学園への登校が再開されていない頃――
あの土砂崩れの場所から救助されたあと、小鳩は自宅に帰ってきた。
両親と一緒に。
迎えに来てくれた時、両親は自分の無事をとても喜んでくれた。
両親が泣いていて――小鳩も、その時は泣いてしまった。
こんなに想われていることが、嬉しかった。
靴を脱いでスリッパに履き替えると、もう一人お出迎えがあった。
「にゃあ」
「ふふ、ただいま」
浅葱の亡骸と共に向こうの世界に残った彼。
その彼との繋がりでもある愛猫。
――あなたが繋いでくれた縁は、すごいものだったんだよ?
数日経って落ち着いたあと、小鳩は制服を着て出かけた。
もう大丈夫なの、と母親は心配してくれた。
うん大丈夫、と小鳩は軽快に答えた。
実際、大丈夫だった。
自分のことは、もう。
小鳩が訪ねたのは、戦場家。
玄関の門越しに、チャイムを押す。
そして――ふぅ、と一つ深呼吸。
これでも以前の自分と比べればだいぶ変わった……と思う。
クラスメイトの家を一人で訪ねるなんて。
以前の引っ込み思案な自分だったら、考えられないことである。
『……はーい、どちらさまですかー?』
インターフォンの内蔵スピーカー越しに、女性の声がした。
スピーカー越しでも、似てると感じる。
彼女の声に。
ということはきっと、この声の主が彼女の――――
□■
『そ、そんなこと……ないよ! わたし、お母さんじゃなくて……なれたと、思ってる! 思ってるからっ……』
『へー……何に?』
『友、だちに……ッ!』
あの時、わたしがそう言ったら。
へっ、と。
あなたは鼻で笑って――そして、こう言ってくれたよね?
『じゃあまー……そういうことに……しとこうか……マイ、フレンド……』
■□
だからちゃんと、
「はじめまして、わたしっ――」
はっきり、言うね。
「浅葱さんの友だちの――鹿島、小鳩といいますっ」




