別れの道の先にはきっと、光がある
俺がこちらの世界に残ることを伝えた勇者は、四人。
高雄姉妹、十河綾香、鹿島小鳩。
聖と綾香には改めて、実はまだ迷いがあったことを含めもう一度伝えた。
また、他の勇者には俺だけ遅れて帰還すると伝える。
伝えるのも送還の当日。
聖は、
『彼らも、三森君がこっちの世界で重要な役割を果たしたのは知っているから。こっちの世界の人たちに頼まれてやるべき事後処理が残っているみたいに説明すれば、それほど疑問には思わないんじゃないかしら? 三森君以外の勇者は、この機会を逃すと帰れない可能性が高いとでも言えばいいし』
”もう戻らない”
”時間差で、戻るかもしれない”
この二つの間には心理的に大きな差が生まれるわ、と。
聖はそう言った。
『”もう戻らない”となると関係性が浅くてもけっこう気になってしまうものなのよね。まあ記憶は消えるんだから、そんなに気にしなくてもいいとは思うのだけれど』
樹は”マジかよ~”と言っていたが、
”でもま、セラスさんのことを考えりゃ仕方ねーかぁ”
そう納得もしていた。
ちなみにイヴが戻ってきたので樹は、
”やっぱまださよならは言わないで、正解だったな!”
にへへ、と笑っていた。
鹿島は、
『それが三森君の選択ならわたしから言うことは何もないよ。それに……さっき言ってたよね? 本当に時間差で戻れる可能性だってあるんでしょ? だから――待ってるよ、三森君』
ちなみに鹿島は今日までに浅葱の埋葬を済ませていた。
特に盛大な葬式的なものは行われなかった。
”浅葱さんはそういうの、好きじゃないと思うから”
鹿島がそう言うので、こぢんまりとした家族葬のような形で行われた。
あと、のちに十河が墓を訪ねたそうだ。
こちらの世界に俺が残ることは、こっちの世界の一部の者にも伝えた。
少なくとも勇者組が帰還するまでは、他にはまだ秘密にしておく。
伝えたのは、
ピギ丸、スレイ。
イヴ、リズ、エリカ。
ロキエラ、テーゼ。
ニャンタン。
ツィーネ。
ジオ、アーミア、キィル、グラトラ、リィゼ。
ムニン。
カトレア。
あとは伝えた者に、
”伝えても大丈夫”
そう思える者に伝えるかどうか、それぞれに任せる形とした。
▽
早朝。
起床した頃は雲が重く垂れ込めているだけの灰色の空だった。
が、今は雲間から白い光が筋となって降り注ぎはじめている。
丸く膨らんだ綿菓子みたいな灰色の雲が、緩慢に流れていた。
湿り気のあった空気が次第に爽やかで暖かな微風へと変わっていく。
各国の代表者は今日、帰国の途につく。
喫緊で話し合う必要があった議題の方針は定まった。
細かな点は今後話し合いを重ね、微調整していくという。
最初に、マグナルの白狼王とシシリー・アートライトが去った。
次に、ガス・ドルンフェッドが黒竜騎士団と共にエノーを発った。
ベインウルフは十河、そして縁のある勇者たちと別れの挨拶をしている。
十河は深い感謝を口にし、彼の世話になった勇者らも感謝を述べていた。
やがて――別れを惜しむ時間が終わる。
ベインウルフは途中までミラ軍に同行するらしい。
彼はウルザの政に関わる立場になるのを今も渋っているそうだ。
ウルザの魔戦騎士団の団長などは、
”必ずや、帰途の中で説得してみせますぞ!”
そんな風に息巻いているとか。
ツィーネなどは、こういう意見だった。
「たとえばだが――竜殺しがウルザの玉座にでもおさまるのも、意外と余は悪くない案と思う。あれならば、それなりによき王になれるであろう」
ツィーネ・ミラ。
狂美帝と呼ばれるこの若き皇帝――友人には、色々と助けられた。
「それでは暫しの別れだな、トーカ」
「ああ」
「こちらの世界にそなたが残ると聞いて正直驚いたが……一方で、嬉しくも思った。ようやくできた友らしい友とも早い別れとなったなと思っていたから、嬉しい誤算だ」
だからあまり別れの寂しさはない、と。
ツィーネは気品ある、柔らかな微笑みを浮かべる。
別れのこの時まで、ずっと皇帝然とした立ち居振る舞い。
自分の太ももを片手でさするツィーネ。
「足を復元してもらえたのもありがたかった。それに今度の神族は、まともそうなのがいい」
「ま、あのクソ女神とは確かに違うな」
ツィーネは苦笑し、そうだな、と返す。
俺はついた息に感嘆をのせ、
「……おまえは、ほんとに出来た皇帝だよ。おまえみたいな皇帝が反ヴィシスの側にいてくれたから、俺もこうしてヴィシスへの復讐を達成できた」
と、ツィーネが手を差し出してきた。
「こたびのヴィシス討伐の件……ミラ帝国現皇帝ファルケンドットツィーネ・ミラディアスオルドシートとして――蠅王、および、異界の勇者トーカ・ミモリに……国を代表し、改めて敬意と感謝を。よくぞ、やってくれた」
ツィーネの握手に応え、その手を握り返す。
「元気でな、ツィーネ」
「多少時間がかかるかもしれぬが……ミラの皇帝としての諸々の後処理を終えたら、予定通り余は帝位を兄のどちらかへ譲り退位するつもりだ。そうしたらまた改めて、そなたのもとを訪ねようと思う」
そうか。
やっぱり、もう退位の意思は変わらないんだな。
しかし――後始末まで皇帝としてしっかりやるんだからな。
今日までは各国の代表者と会議をしていたし……。
休む暇もねぇな、ツィーネは。
なのに身綺麗にしているし、疲労も感じさせない。
こんな小柄な身体なのに……本当に、すごいヤツだ。
ま――疲労感はいくらか、化粧で隠してるみたいだが。
俺は握手したまま、ぐいっ、とツィーネを引き寄せる。
「な――」
そして、そのまま抱擁した。
ツィーネは珍しくちょっと困惑した様子で、
「ト……トーカ?」
「退位するまで、しばらく会わねぇかもしれないから……今、言っとくぞ」
こうして抱き締めてみると、余計にその身体の小ささが伝わる。
自分を殺し――どれほどの重荷を、この身体で背負ってきたのか。
だから、
「これまで、よくがんばったな」
「――――――――」
「あともう少しやることは残ってるみたいだが……全部終わったら”狂美帝”じゃなくツィーネ・ミラとして、自分のためにもっと時間を使え」
ツィーネの身体から、力が抜けたのがわかった。
「――、……そう、だな。ああ……そうしよう……そして……そなたに、会いに来る。ツィーネ・ミラとして」
ミラのオルド家の次期当主、チェスター・オルド。
現当主、老齢の女傑ヨヨ・オルド。
二人は距離を取って俺たちの会話する様子を眺めていた。
チェスターは「へ、陛下……」と驚いた反応をしている。
一方、隣に立っていたヨヨは孫を見守る祖母めいた調子で言った。
「兄弟のルハイト様たちでも、あたしら選帝三家の老当主でも……ミラの人間である以上、陛下にあんなことを言えるモンはいなかった。それこそお亡くなりになった先帝や母君でもなければ、な」
ヨヨがタバコみたいにドト棒を指に挟み、しみじみと続ける。
「そう……陛下が同等と感じる”友人”でなけりゃあ――あんな真似は、そうそうできねぇさ」
チェスターが、自分を情けなく思う風に言う。
「……陛下に必要だったのは、あのような友だったのでしょうか」
しかしヨヨは、
「阿呆。あたしらみたいな”下っ端”も必要だ。同等たぁ言ったが、別にあたしらが陛下にとって大事じゃないってことじゃない。だから、そう落ち込むな」
雲の払われつつある空を、ヨヨが見上げる。
「はぁ……しっかしハウゼンのやつも、最期はヨナトのアッジズで戦死とはね。昔っからあんたは……戦場で死ねたら本望みたいなことを、言ってたからなぁ。ったく……ジジイになって、ようやく念願が叶ったってかい」
やれやれ、とヨヨ。
「ま……ディアス家のことは、次期当主への引き継ぎが済むまであたしがもう少し長生きして支えといてやるよ。だから……そっちに行くのは、そのあとさね」
ヨヨがドト棒を指の間に挟んで目を閉じ、微笑む。
「あれだね……もし生まれ変わりってモンがあるとしたら、次は貴族同士の家のしがらみなんて気にせず……普通に、あんたと一緒になれたらいいなと思うよ。今だけは、素直にね」
どこか長年の想いにケリをつけたような、そんな口調。
ツィーネのひと区切りがついた雰囲気につられたのかもしれない。
にしても、と。
ヨヨがジト目になって、冷や汗まじりに俺を見る。
「あの蠅王……ありゃあひょっとすると、うちの陛下以上に”人たらし”かもしれねぇな……」
▽
ツィーネたちは鹿島など、他のヤツらに別れの挨拶をしに行った。
「狂美帝と別れの挨拶は済ませたのか?」
やって来たのはイヴ――そして、ムニン。
「わたしも狂美帝さんにはお世話になったから、あとで改めてお別れのご挨拶をしなくちゃっ」
「そういやムニンは、しばらくエノーに残るんだってな?」
「ええ、そうなの。アライオンに派遣された外交官的な立ち位置で、しばらくは最果ての国との橋渡し役、って感じかしら」
「ミラの帝都でも似た感じの立ち位置で、調印式とかやってたしな」
渉外役的な能力は意外と高いのかもしれない。
実は、けっこうコミュ力もある方だしな……。
「――というのは表向きの理由で、実は、フギにいっぱい新しいお友だちができちゃったからねっ。今、離しちゃうのはかわいそうだと思って……わたしからリィゼ様にお願いしたの。トーカさんもそれを望んでるみたいよ、って」
「…………」
おい、事後承諾。
「フギもなんだか前より明るくなってきててねぇ? リズちゃんやニャキちゃん、ピギ丸ちゃんやスレイちゃんにはほんと感謝だわ♪ ふふ……あんなに楽しそうなフギの姿、そんなに見ないからっ」
血のつながりがないとはいえ……娘のため、か。
母親としても、ちゃんとしてるんだよな。
そう――ニャキもこのまま、エノーに残ることになった。
ニャンタンや姉妹たちと一緒に。
まあリズとイヴも、当面はエリカと共にエノーに滞在する。
せっかくリズと友だちになったのだ。
ニャキがここに残らない理由も、逆にない。
と、ムニンはウインクして人差し指を立てた。
「そんなわけでトーカさんやセラスさんとはまだまだ、蠅王ノ戦団の一員としてご一緒するつもりよっ? これからも、よろしくお願いするわねっ♪」
「……あ、ああ」
なんなんだろうか、そのポーズは。
「あぁああっ!? トーカさん今、おばさんがなんか無理してるとか思ったでしょ!? ち、違うの! わたし、そもそもまだ若いのよ!? 族長だから威厳がある雰囲気がついちゃって、年齢より上に見えるってだけだと思うのっ! そうよね――イヴさんっ!?」
「え? わ、我に振られても……」
「トーカさん!?」
「いや……そこまでは思ってないが……被害妄想がすぎないか、ムニン。つーかそれって……ムニン自身がそうなんじゃないか、って不安に思ってることなんじゃ……」
「ぇええ!? やだ――そうなの!? ……そうかもっ!?」
相も変わらず――愉快で楽しい族長である。
……うん。
ムニンも、そうかもな。
彼女も――重い荷物をようやく、おろせた感じがする。
「おい、蠅王」
次にやって来たのは、
「おまえたちもこれから発つんだってな、ジオ」
「ああ……世話んなったな。ほんと、大したやつだぜてめぇは」
「しばらくは戦いのことは忘れて、イエルマさんと子どもと一緒に過ごしてやれよ」
「ふん、言われなくてもそのつもりだよ。つーか……てめぇの方もな。色々落ち着いたら、ちったあゆっくりして……あのハイエルフのために時間を使ってやれよ、蠅王」
「ああ――俺も、そのつもりだ」
そしてジオに続き声をかけてきたのは、
「ベルゼギア殿、世話になったな! いやぁ、この王都の飯は美味いのなんのって! 私も、超重要美人特使としてここに残ろうかな!?」
アーミア・プラム・リンクス。
ジオが冷めた目で
「どこが超重要美人特使だよ。外交役はムニンとニャキを置いてくから間に合ってんだよ。寝言は国に戻ってから言え」
「わははは! ジオ殿の嫉妬が、心地よい!」
「どう受け取ったら今の言葉がオレの嫉妬になんだよ……脱皮してさらにアホになってやがんな、こいつ……」
付き合ってられないとばかりに肩を落とすジオ。
彼はそれから背筋をのばし、イヴに声をかけた。
「イヴ・スピード」
「うむ」
「最果ての国に来ることがあれば、うちの豹人どもを集めて総出で歓迎するぜ。そん時はあのダークエルフの子や他の子も連れてこい。その頃にはまあ……食糧問題も解決して、それなりの料理も振る舞えるようになってるだろ」
「ああ……わかった。機を見て、そなたたちの国を訪ねるとしよう。ついでに、久しぶりにウルザに立ち寄るのもよいかもしれぬな」
ふん、と鼻を尖らせて後頭部を掻くジオ。
「にしても……あれだな。てめぇはオレが出会ってきた豹人の女ん中じゃあ、二番目にイイ女かもな。もし今の妻……イエルマに出会ってなけりゃあ、妻に欲しがったかもしれねぇ」
「ふふ……それは、光栄な話だ」
そこにアーミアが割り込んできて、
「あれぇジオ殿!? まさかの、浮ついた気な感じですかな!? あ~あ、イエルマ殿に言いつけてしまおうかなぁ~!? イヴ殿は私も確かにイイ女だとは思うが……それは、いかんのではないですかな!?」
「て、てめぇ――ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! オレにとってはな、イエルマ以上の女はこの世にいねぇんだよ!」
「ふむ、それもついでにイエルマ殿に言いつけてしまおう! そもそもジオ殿はイエルマ殿がいるところで言ってあげればいいのに、どうして本人に直接言ってやらんのですかな!? 照れ屋さんですなぁ!」
「……ちっ、神徒のやつめ……しくじりやがって……」
「ひ、ひどいぞジオ殿!? キィル殿! ジオ殿が、相変わらずひどい!」
キィルはのほほんと、その光景を微笑ましそうに眺めている。
「ほんときみたちって、仲いいわよねぇ」
ジオは憤慨し、
「どこがだ!」
そう否定するが、アーミアはケラケラ笑って肯定する。
「ははは、そうであろう!?」
「――ところでぇ」
キィルが、隣に立つグラトラの肩を指でつつく。
「グラトラくんは、何をさっきからそんな険しい顔で見てるのぉ?」
「……あのダークエルフなのですが」
グラトラの視線の先には――エリカ・アナオロバエルがいる。
エリカは昨日、再会や初対面の挨拶をいくつか済ませた。
そして、今日もこの場に足を運んでいる。
が、本人の意向でまだ最果ての国勢には”アナエル様”だと明かしていない。
「そういえばあのダークエルフの人、昨日くらいから見かけるようになったわよね? リズくんと一緒に離れた場所から蠅王くんたちを支援してた、蠅王ノ戦団の仲間って話だけど」
「あの外見の感じ……文献の描写と似ている気が……もしかして――、……アナエル様では?」
まさかぁ、と笑い飛ばすキィル。
「あなた疲れてるのよぉグラトラくん。そんな伝説のダークエルフがそう都合よくこんなところにいるわけないでしょぉ?」
「いや、疲れてませんが……むむむ……ちょっと、確認してきます」
グラトラが近づこうとするとエリカが、ササッ、とその場から離れる。
するとグラトラの顔つきが、予感が的中したものに変化した。
「やはり――アナエル様っ!? お、お待ちください!」
その言葉に、最果ての国勢が一斉に反応する。
アーミアが目を見開き、
「え? アナエル様だと……? あ、あのダークエルフのエロ美人殿が!?」
即座にジオが、
「おい、マジにあれがアナエル様だとしたら不敬すぎるだろこのアホラミア! つ、つーか……おい蠅王! まさか本当にあれ、アナエル様なのか!?」
「…………」
退散していくエリカに視線で問う。
と、エリカがこっちを振り向いた。
口の動きだけで、
”ご ま か し て”
そう返されたが……。
別に、認めてもいいんじゃないか?
過去に悪さをしたとかじゃないんだし――むしろ逆だ。
それに、ジオたちが悪いヤツらじゃないのも見ててわかっただろう。
なので俺はジオに対し無言で、肯定の頷きを返す。
で、あっさりグラトラたちに確保されるエリカ。
運動不足なのか。
実は、身体能力はそんなに高くないエリカであった。
エリカが、ぐむむむぅ……と涙目になり、観念まじりに声を上げる。
「トーカの、裏切り者ぉーっ!」
ふっと俺は笑いを漏らす。
――嬉しいんだよ、あいつらも。
遡れば大恩人にあたる、アナエル様に会えて。
と、
「まったく……いくらヴィシスを倒して外の世界に土地も貰えたからって、みんなちょっとはしゃぎすぎよね」
アーミアたちが、
”アナエル様!”
エリカにそう殺到する様子を呆れ気味に見ながら、リィゼが近寄ってくる。
「おまえはあの輪に入らなくていいのか?」
「う゛……ほらアタシ、アライオンの騎兵隊が攻めてくる前に、アナエル様に対してかな~り失礼な発言しちゃったでしょ? あの輪に入って、その時のことをジオとかアーミアに蒸し返されたらヤだな、って……」
腕組みしてため息をつくリィゼ。
「あんな失礼なこと、言わなきゃよかったわ……」
「あの時のおまえとは違うんだし、気にすることないだろ」
リィゼが、くにょ、と口を尖らせる。
「それは、そうなんだけど……て、ていうかもぅ――察しなさいよ。口実も、あるのっ」
照れ隠しみたいに、リィゼが蜘蛛足で小石を蹴り飛ばす。
「ジ――ジオたちがアンタの周りで騒がしいから、順番待ちしてたのっ。だからグラトラがアナエル様を見つけてくれて、あの流れになってよかったわ……あ、あと勘違いしないでよね!? 今ではアナエル様のことアタシ、尊敬してるんだから!」
「…………」
まったく……こいつは素直なんだか、素直じゃないんだか。
それから俺は、エリカに群がる最果ての国のヤツらに視線をやった。
「……ニコのこと、残念だったな」
俺が話題をニコに移すと、リィゼもトーンを変える。
「話を聞く限り、ニコは最期まで立派だったわ……ほんと、生きて戻って欲しかったけど。ただ、ニコのことはもう今日までに何度もみんなで話した……思い出と一緒にね。変な話だけど……こんなに長い日数、みんなで顔を突き合せて話したのってすごく久しぶりで……」
アタシ、とリィゼが言った。
「最果ての国のみんなのこと好きなんだな、って思った」
あとね昨日の夜ね、とリィゼが続ける。
「ニコのことでメソメソするのは、そろそろやめようって話になったの。次にメソメソするのは……せめて最果ての国に戻って葬送式をやる時にしよう、って」
「……そうか」
「ニコだって、いつまでもアタシたちが湿っぽいのは嫌がるだろうから。ニコはね、顔や言葉にはあんまり出さなかったけど……さっきみたいにジオとアーミアがギャアギャアやり合って、キィルがそれを微笑ましく見てて、グラトラが辟易したみたいに呆れてる……そんな騒がしい光景を――腕組みして眺めてるのが、好きだったから」
だから湿っぽいのは当分おしまい、と。
露を払うみたいに、リィゼはそう言った。
俺は、
「何か手を貸して欲しいことがあったら、俺は全面的に協力する。その時は遠慮せず、俺を頼れよ」
「……アンタがこの世界に残るって聞いた時ね、正直言うと嬉しかった。もっと寂しい別れ方になるんじゃないか、って思ってたから」
目を伏せ、照れを堪えるみたいな顔になるリィゼ。
やがて彼女は視線を上げ、こちらを見た。
俺たちはそれぞれの笑みを向け合い、視線を合わせる。
「最果ての国は、むしろこれからが正念場かもしれない。だから……がんばれよ」
「……、――ふん! アタシを、誰だと思ってるの!?」
両手を腰に当て、誇らしげに胸を張るリィゼ。
「アタシは――国の頭脳とも言われる最果ての国のアラクネ宰相、リィゼロッテ・オニクよ! これからも全力で、大好きなみんなのいる最果ての国を支えてみせるわっ!」
――あるいは。
子の成長を感じる親心ってのも、こんなものなのだろうか。
俺はそのアラクネの少女の成長を祝福する気持ちで、微笑む。
「ああ、期待してる」
ふふ、と。
リィゼロッテ・オニクは満面の笑みで、言った。
「うん! 期待――しててよね!」




