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「僕は、ローデンの村から来た、アンジー。貴方に会うよう言われて来た――知らないことを、教えてもらいに」

 

僕は、必死にそれだけを言うと、竜をジッと見つめていた。

暫くは、黙っていた竜が、僕を見据えながら、ゆっくりと話し始める。

 

『お前は――それが自分だと、何も知らないと言うが――知らぬ筈はない』

 

そう言われて、僕は戸惑うしかなかった。

だって――それが本当で、それしか知りえてないのだ。

他に何があるというのだろうか――。

 

『お前は、この世界の者ではない――そうだろう?それを知らないと、そう言うか?』

「いいえ、それは――」

『そう――お前は、知らない筈は無い。自分の世界から、この世界にやってきた。本当の名は――封印されているのか――ふむ、しかし、その存在が貴重だということも、また知らぬ筈は無い』

「で、でも――」

 

声を出してから考える。

本当の名前――確かに、僕は自分の真実の名を神官さまに封印されている。けれど、それで困る事は無いはず――と、僕はずっと思ってきた。だって、今はその名前を必要としてないのだから。

 

『お前のその存在は、そこにあるだけで貴重だ――我ら竜と会える――それこそが証拠』

「え?」

『我ら竜は、契約をした神官達と、王だけしか見ることも感じる事も出来ない――それなのに、お前はこうして、我を見、感じることが出来ている』

 

見ることが、出来ない?

今、こうして目の前に居るのに?

感じる事が、出来ない?

だって――こんなにも、存在感があるのに?

これは、現実のものでしかないと、そう判るのに、他の人には見えないということ?

感じる事も出来ないということなのだろうか?

 

『気付いている筈だ――この大国に入った時には、我の存在を感じて居ただろう』

 

そう言われて、僕は目を大きく見開いた。

感じていた?どうやってっ!?

確かに――大神殿で、あの聖域に入った時には、僕のものじゃない感情や言葉が降って湧いてきた。

それは認める。

けれど、大国に入ってからずっと感じていた?

そんな筈は―――ない。

 

『いや、感じていた筈だ。我に同調していた――間違えなく』

「まさかっ」

『お前が、裏切りと感じた瞬間の、あの時にはもう、我の存在を感じ、そして同調していた筈だ』

 

え?

裏切りって……それは、アロウ達との一件のこと?

でも、あれは――。

 

『お前が、あの時に感じた力は、お前のものであって、お前のものじゃない。それは我のものであって、我のものじゃない――あれは、お前と我が同調して作り出した力』

「そんな……」

『我の存在を知り、そして我の心に同調し、そして生まれた、新たな力だ』

「――僕の――力?」

『そうではない。お前のものであっても、お前のものではないと、そう言った筈。あれは、我と同調して初めて作り出す事が出来た力――決して、お前の力ではない。それは、我だけの力でもないが……』

 

それは、どういう意味なんだろう。

竜の力――とも違い、僕の力でもない…そんなものが、どうして?

 

『それこそが、お前の貴重な存在を表している――本来、お前の中にある力と、我らの力が同調した時にだけ、発する事が出来る――あの時、『裏切り』と感じた時に使った力――あれは拒絶の力』

 

そう言われた瞬間、僕は思い出した。

あの時、確かに僕は自分に起こった事で怒りが湧き起こり――自分でも予期しない力でガルドを弾き飛ばしたんだ。

あれは――あれが、そうなの?

あの力が?

そう思い返すと、僕は色んな事が符号していく気がした。

考えてみれば、この大国に入ってからと言うもの、僕自身では経験した事もない感情が心を支配するようになってた。

時には怒り、時には虚無、時には安定――考えてみると、その感情の全てが、僕の思わぬところで感じられていて……。

 

「今までの、それが――?」

『そう、我の力とお前の力が同調して使われた――』

 

同調――。

この竜と同調していたから、僕の心が乱れていたということ?

今までの、それらが全てそうだってこと?

そう考え出したら、納得せざるを得なくなっていく。

段々と――あれらが、僕だけの力じゃないと……。

でも、それならどうして?

 

「僕は――何故、僕はこの世界に来たの?どうして、僕でなくてはいけないの?何で、僕は――」

 

そこまで一気に言って、僕は息が続かず止まってしまった。

それを見た竜は、ゆっくりとその大きな口を開き、僕へと息を吹きかけた。

その息は、決して生き物から出たものとは思えないほどに優しくて――心地よい風。

 

『慌てずとも良い。お前の――問いだな――それら、全てに答える事は、我には出来ない――が、判る事は教えよう』

 

ゆっくりと、まるで子供をあやすように言う竜は、僕の目をジッと見つめ返してくれている。

その目が――余りにも温かくて、優しくて、そして寛大で――安心して、僕は彼の事に問い掛けることが出来たのだと思う。

 

『まず、お前がこの世界へ来た理由は我らと通じる事が出来るから――としか、今は答えられぬ。この問い掛けに答えられるは、我ではないからな。それから、お前でなくてはならない理由も、これに相当する。お前でなくては、我らと通じ合えぬ、そのままだ。何故、お前がここに存在するのか――それこそは、我が答えるものではない』

「で、でもっ!でも竜に会えば答えが――」

『その答えは、我ではなく――竜王こそが答えてくれるもの――』

「竜、王…?竜王って?」

『この世界の、四つの大陸とは違う大陸に居る、我らの長』

「その竜には会えるの?」

『今は無理だろう――我らの――そう、四つの大陸の竜、全てから了承を貰い、そして他の竜達の力を借りねば竜王には会えぬ』

「四つの大陸の――竜…全部?」

 

僕の問いに、彼はゆっくりとその大きな首を縦に振る。

そして――。

 

『我は、お前を認めよう――だが、他の竜達が、同じように言ってくれるかどうかは判らぬ――しかし、これだけは言えよう――お前の、その小さな体に宿る力が彼らの心を癒せば、必ず力を貸してくれるだろう』

 

でも――そんな……四つの大陸、全部の竜と会うなんて――。

 

『お前も知ってる筈だ――竜王に会わなくてはならぬという事を――その身で感じ取っているはず』

 

そう――そんな風に言われる気がした。

何となくだけれど、そんな気がしてた。

だから――頷く事しか出来なくて……僕の、本当に聞きたかった、真実に知りたかった答えはここにはないのだから。

それでも、この竜に会わなくては、僕がどうするべきなのか、どうしなくてはいけないのか、きっと理解なんか出来なかっただろう。

 

「では――竜王に会うためには、四つの大陸に渡らなくてはいけない、ということですね?」

『その通り――また、そうする事で、お前の真実も見つかっていくことだろう』

「判りました――」

 

何で、こんなに素直な返事が出来たのか――それは、自分でも判らないくらいストンと竜の言葉が心に入り込んできたから。

これが、同調というものなのだろうか――。

そう思っていると、竜が小さく笑った気がした。それを感じた瞬間、僕の心が落ち着いていく。ゆっくりと、まるで何かに浸透するかのように――だから、いくつかの質問が出来るくらいの余裕が出てきた。

竜の孤独――確か、アスレン神官さまが、そんな事を言っていたはず。

それを問えば、竜は『孤独なのは、我だけじゃない――が、より孤独なのは我ではない』と言う。

自分は、それ程の孤独を感じてない――と……本当なら、ではどうして彼らがそんな事を言ったのだろう?という疑問が出てくる。すると、竜は『彼らは古の言葉を理解しているようでしていないだけだ……神官達も随分と変わってしまったから』と教えてくれた。

そうなのだろうか――ううん、この竜が言うのだからそうなのだろう…。

そうして、いくつかの話を終えた後、僕は何だか言いようの無い不安に襲われた。

だからこそ、それが頭の中に置かれていたもう一つの、僕が不安に思っている問い掛けなのだと――知ることが出来たのかも知れない。

 

「じゃあ、最後に――何故、貴方は姿を消そうとしているのですか?」

 

何で、こんな問い掛けになったのか、僕には判らなかった。

ただ、姿を見せてくれないというだけのはずだったのだ。

なのに、気付けば僕は、そう問い掛けていた。

 

『――それも問い、だな――』

「はい――」

『その話は、長くなるぞ?』

 

その返事は、まるで茶化しているかのように、ふざけているかのように、少しだけ嬉しそうな感じがした。

ううん、それだけじゃなくて――その奥底にある、竜の悲しみも、実は感じ取れていた。

 

「はい――是非とも、聞かせてください」

 

 

 


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