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食事が終わった後、王女とエイルが退席すると、僕達は大神官さまや宰相さまに聞きたかった事を口にする機会をもらった。

様々な疑問がある中では、僕のしなくてはならない事が進まない気がする――それが、僕の試練だというのならば、余計に聞かなくてはならない気がしたのだ。

まず、竜に会うためにはどうすれば良いのか――ということだけれど、それはレン神官さまから聞いた通り、アロウを王城へ連れて行くことなのだろうかということだ。

この大神殿へ来てからというもの、実は何時も聞きたくて仕方なかったけれど、どうしても怖くて聞くことが出来なかった事。

それを今聞いても大丈夫なのかという不安はあったけれど、何かキッカケがなければ、きっと聞くこともないまま、だらだらとここでお世話になるばっかりな気がしたのだ。

 

「レン神官から試練として、王城へ上がれ――と言われたのでしょう?」

「はい」

「それは、ある意味で真実――ある意味では間違えでもあります」

「どういう、意味ですか?」

「実のところ、何故、神の使いである竜が、我らに姿を見せて下さらなくなったのかが判っておりません。我らも、その原因を探し続けましたけれど、判ってないのが現状。それを探す事が、まず先決だと思いますが…アンジー、貴方が何時言い出してくれるか待っておりましたよ……きっと、貴方の事だから、随分と悩んでらっしゃると思って、こちらからは声を掛けられませんでしたが、一度、竜の眠る聖域に、行ってみませんか?」

「いいのですか!?」

 

大神官の言葉に、僕は心臓が止まるかと思った。

けれど、その後に続いた言葉に、僕はまたガックリと肩を落とす事になる。

 

「竜が――その気配を感じさせていない今、アンジーがそこへ行っても会える可能性は低いと思います。けれど、何かその場で判る事もあるかもしれません――明日にでも一度、聖域を開けますから、行ってみましょう」

「はい」

 

がっくりしながらも、聖域に行けるということで僕は少しだけ気を持ち直すことが出来た――と思う。

けれど、それなら王城へ行く必要があるんだろうか?

 

「じゃあ、王城へは行かなくていいのか?!」

 

と、僕の聞きたかった事は、しっかりガルドが言ってくれて――しかも、かなり嬉しそうなんだけど……。

 

「ガルド――」

「いいえ――竜に会えなければ、やはり王城へ行ってもらい、何かしらの手掛かりを探してもらわなくてはなりません……これは、アンジーにしか出来ないこと……」

「……僕にしか?」

「ええ……本当なら大神官などをさせてもらっている私が調べるべきなのだとは判っておりますが……」

「何せ、王が大神官をなかなか王城へ入れてくれないのだよ、アンジー」

「……」

 

宰相さまが言うには、ここ何代にも渡って大神官さまが王城へと足を踏み入れる事が無かったという。

それは、歴代の王も現在の王も、口を揃えて大神官や神官が王城へ入ることを禁止しているからということらしい。

そして、何よりも謎を解くには――王城のある場所に、大神殿と竜の繋がりが深い場所があるのだけれど、そこへ入れるのは、神官達と王だけなのだそうだ。

そこへ僕が入れるのか?と問えば、『貴方は、この世界へ呼ばれた者――入れない筈はありません』なんていう、凄く不確かな返事を貰う事になってしまったのだった。

けれど――。

 

「でも、それとアロウを王城へって話は――」

「関係ありませんね……レン神官は、確かに王城へと言っていたのでしょうが……彼はきっと、可愛い我が子にも思えるアロウさま達をどうしても王城へ連れて行きたかったのだと、そう思います」

「……そう、なのですか……」

「何だよ、あの神官――嘘ばっかじゃんか」

 

そう呟いたガルドに、僕は小さく嘆息した。

まあ、それはそうなんだけどね……だけど、僕には少しだけ違う考えもあったりする。

それは――。

 

「ガルド……レン神官さまは、決して嘘はついていないよ……もしかしたら、アロウ達を連れて行くことも、竜と会えることになる一つの要因かも知れないじゃないか」

「……ったく、アンジーは甘いよな……」

 

ガルドが唸ると、皆は苦笑をするしかなく、僕は――少しだけ、レン神官さまに抱いていた小さな疑問が何であったのか判った気がした。

それは、本当に小さな小さな事。

アロウ達との事があった後、何故か僕の心の中には、レン神官さまへの信頼が消えてしまっていた。

それは、彼がアロウ達の事を庇っているからだと、そう思っていたのだ。

けれど、そうではなかった。

確かに――レン神官さまは、決して嘘を言ったわけじゃない。

けれど、本当の事を言ったわけでもない――それは、確かに彼が本当の事を言わなかった事が原因。

アロウ達が可愛いから、彼らを助けたいという気持ちが大きかったのだろう。

けれど、その時点で僕の事を心配してなかった訳でもなかった。

だからこそ、僕に声を掛けてくださったのだろうけれど……その言葉が僕に何も伝えてこなかった理由は、そこにあったのだと思う。

 

「今のところ、王城へ潜り込む事は難しいと思う――神官としては当然の事、それ以外の人間も容易く入り込むことが出来ない」

「では、アロウ達は、どうやって入るつもりだったんですか?」

「――兵士に成りすまし、王のところへ行くつもりだったようだが……今は、それも上手く行くかどうか……」

「……じゃあ、どうすれば……」

「なあ、宰相さん、何で、王様は妾妃とか言うやつの言いなりなんだ?」

 

皆で頭を悩ませていたその隣りで、ガルドがそんな事を言い出した。

そう言えば――と、僕もその疑問が頭の中にポンと飛び出してくる。

 

「キリクさま――か……」

「ああ。何か、この間、エイルが言ってた話じゃ、王様って正妃さんのこと、凄く大事にしてたんだろ?それなのに、急に態度が変わるって、そんなにいい女なのか?って思うんだけど、それだけじゃ納得できねぇ…」

「そう……だよね……」

「それに――もし、妾妃の方がいいならいいで判るとしても、どうして子供を殺すとか、そんな話になるんだ?」

「……それは――」

「ああ、それと――何だっけ………」

「占術師……」

「そうそう、それだよ!アンジー、よく覚えてたな!」

「占術師…か……」

 

僕達の疑問は、全てガルドが代弁してくれて――というより、彼もまた疑問だらけだったのだろう。

だから、僕の代弁をしたつもりもないのだろうし、真剣な顔つきからもそれが窺える。

 

「私も、その占術師のことは気になっておりましたが――宰相さま…その者は何者なのですか?」

 

大神官さまもまた、その占術師とかいう者の存在を知らないようで、そんな問いかけをする。

 

「妾妃キリクが、本国から連れてきたと聞いたが――」

「何かさー、エイルの話だと、そいつが呪いをかけてるとか何とか――神官以外で、そんな力がある人間って聞いた事ないんだけど、俺」

「確かに――僕も、力があるのは神官さま以外には聞いた事はありませんが……何か特別な力でも?」

「いや、実際の所は判らん……しかし、そのキリクの傍にはいつもその者が居て――後宮にも一緒に入っている…」

「宰相さまも、その人の事は知らないんですか?」

「と、言うよりも、会わせても貰えぬ――王は、毎日のように会っているようだが…何しろ、後宮には我ら宰相でも入ることは出来ないからな……だが、遠目では見たことがある――顔も姿も、薄い布で全て覆い隠し、どんな容姿かも判らぬが……異様な雰囲気は持っている……としか言い様がないな」

「キリクさまのいらした国――と言えば、ムールスタイン……あちらの国では、確かに占い等を頼りにする所があると聞きましたが――決して、神官のような力はないと聞き及んでおりますよ?」

「――ということは……」

「ガルド?」

 

何か、彼には感じるものがあるのだろうか?

いきなり神妙な顔つきで、うんうんと唸りだした。

ただ、あの王城を外から見ただけでも感じる、変な感覚はガルドだけじゃなく、僕にも感じられるもの。

大神官さまも、その事は気になっているらしく、だからこそ時々正妃さまや王女、そして宰相さまを大神殿へ呼んでは守りの術を掛けているのだという。

今は特に、彼らが危ない状況にあると信じて疑わない大神官さまの言葉は、あの王城を見れば納得せざるを得ないとも言えた。

 

「あのさ――俺は、人間の力ってあんまり判らないんだけどさ……」

「うん?」

「神官とかだと、呪いとか出来るのか?」

「それは無理でしょうね――我らの力は人を守るためにあります――ですから、守るための術はありますが、呪い――所謂、人を傷つけるための力はありません」

「そっか……やっぱ、神官とかが成り代わってて――ってのは無理だな……」

「ガルド??」

「後は……俺達半妖でも、そういう術を使うことは出来ねぇし…妖魔は、そういう力を封印してるってセイが言ってた…てことは……」

 

ぶつぶつと繰り返すガルドに、その場の全員が釘付けになっていた。

そして――。

 

「半精霊、もしくは精霊の力が――あったりしたら……可能性がありそうなんだけどな……」

 

その言葉に、誰もが息を呑まずには居られなかっただろう。

だって――精霊や半精霊が?と疑問に思っても当然のことだと思う。大体において、そんな簡単に出会える存在じゃない者が、どうしてキリクの傍にいたりするというの……。

それなのに、ガルドには何か確信に近いものがあるみたいで……。

 

「俺さ――あんまり、そういうのは知らないんだけど、セイ――、ああ、俺の先生ね、その人が言ってたんだよな――妖魔と精霊では力が同じで異なるって――その力ってのはさ、妖魔が陽の力を欲していたせいで、守護に近い力を持っているんだって……で、精霊達は、自分達を守るために――陰というか、攻撃したり呪ったり…というか、人を洗脳したりする力があるんだって、言ってた。もちろん、その力の差はそれぞれらしいんだけど……妖魔と精霊では反する力が多いらしいんだよな」

 

ガルドの説明に、僕達は目を瞠るしかなかった。

そんな力が――本当に??

それよりも、どうして精霊が!?

大神官さまですら、ガルドを凝視したまま固まってしまっている、その説明に、僕達は納得がいくようで納得が出来ないまま彼を凝視するしかなかったのだった。

 

 

 


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