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「で、計画の方は?」

 

唐突に、彼らの意識を戻したのはアロウだった。

今までに聞いた事もないくらいの、威圧感ある声。

え?と彼を見れば、その顔は今までにない程、真剣な表情を作り出し、それが作り物ではないと教えてくれる。

何時までも、彼らに付き合っているつもりは無かったらしく、ある程度の落ち着きを取り戻したと確認すると、現実へと引き戻したのだ。

そして、彼らもまた、あれだけ放心状態だったのが嘘のように、その声へ反応を示し、本来の彼らへと戻っていく。

ブレアンは、僕の事を気遣ってか、マントを着るよう手渡してくれ、それを合図に僕達も会話へ参加することにした。

 

 

「まず、明日の夜には第一団が、この辺りの警備のために到着する予定になっております」

「人数は?」

「五名ほど――ですが、その内の二名がこちらの手の者です」

「じゃあ、黙らせるのは三人か――出来そうか?ハル」

「大丈夫――取り敢えず縛り付けて隠してある馬車に詰め込む予定だから」

「判った――後は?」

「明後日の昼前には、王女の乗った馬車と一団が到着予定」

「そっちの邪魔者は?」

「総員二十名ほどになりますが――八名はこちらの手の者、後は盗賊や何かに襲われれば、逃げ出すことでしょう――元々、王女を賊に襲わせてという筋書きがあるそうですから…」

「判った……」

 

彼らのくれた情報に、いちいち反応していたのはアロウだけ。

ブレアンは、その隣に座り厳しい顔で頷いているだけだった。

 

「アンジー、悪いが君には一番面倒な事をお願いする事になるが……頼むぞ」

 

そう言って初めて頭を下げたアロウに、僕は片眉を上げつつも頷くだけに留めておいた。

本当のところ、何が面倒なのか?って事には全然気付くことが出来なかったし、どうせ他の人達は護衛という兵士を追い払うだけなんでしょう?

僕は、それを見て王女の乗った馬車を乗っ取れば良いだけ――それなら、それ程の面倒はないと思うんだけど…。

そう思っていると、ブレアンが気付いたのだろう、そっと付け足してくれる。

 

「一応、相手は知らない事になっているし、抵抗もしてくるはず――それと王女は、今回の計画は一切知らないんだ――下手をすれば、本物の賊と間違える可能性がある」

「ああ…そういうこと、か――判った…」

 

返事をし終わると、既に話題が変わっており、王都へ戻る為の馬車やら何やらの手配――また、王女の着替えやその他の話へと移っていった。

僕は、それに置いていかれないよう、ただ黙って聞いてるだけ。

本当のところは――僕には手助けに毛の生えたような事しか出来ないのだから、まあいいかとも思っていたけれど。

 

 

 

夜になると、テントをそれぞれで分けて使うことになった。

ガルドと僕は当然だけど、同じテントへ。

アロウとブレアンも二人で一つ。

残りの一つのテントに、後の数人が入る事になったのだけれど、夜の見張りは交代でする事にした。

と言っても、僕はここでも仲間外れだ。

今まで男だと思っていたからこそ、同じように火の番やら見張りを一緒にしてきたのだけれど、僕が女だと知った途端、彼らの態度は一変した。

ハルは今まで以上に彼なりの丁寧さで接し、他の人達も初めこそ不審に思っていたらしいのに、今では大事なお客様扱い――そしてアロウとブレアンもまた、僕を丁寧に扱う始末――唯一、ガルドだけは何時も通りだったけれど…。

そんな訳で、僕が見張りをすることはなく、合流までの間、何もする事はなくなってしまった。

何しろ、何かを手伝うと言えば恐縮されて、メシを作ると言えば今日は自分が当番だからと断られ、見回りに行くと言った途端、『冗談じゃないっ!』とガルド以外に大反対をされてしまうのだ。

何をしてろっていうの?ってくらいに――。

だから嫌だったんだ――と思っても今更の話。

元々、彼らを信用させるという上で、自分の真実を見せる事は必須だったのだろうし、仕方ないことなのだろう。

けれど――僕には、これが当然の事だったのか?と聞かれたら素直に頷くことが出来ない。

本当に――自分の事を曝す必要性があったのだろうか…。

大体――ガルドなんか、そのままだぞ――と愚痴を零したくなる。

まあ、彼の場合、自分に掛かっている術は妖魔のセイに掛けられているもので、神官には手出しが出来ないのだから仕方ないのだけれど……。

ついでに、神殿騎士をしていた彼らではあるけれど、神官になるのと騎士になるのでは、途中から使う力が違ってくるのだという。

そのせいで、彼らにはガルドがマントを脱いだ所で、火傷の痕がある人にしか見えない。

情けないかな――それを知って、僕もセイに術をかけてもらえば良かった――と後悔しつくしていた。

まあ、元々出来ない相談だったのだけれどね……。

 

 

そうして一夜明けても、結局僕の立場は変わらなかった。

今夜、来るという先発隊に対しても――僕の出番はないらしい……。

元々、一緒に来る人達の中に仲間も居るらしいということだし、僕の出番なんか無かったのかもしれないなと思う。

それにしても、この客人扱いが気になる――というか、気にいらない。

何をしようとしても、全然相手にもしてくれなくって、これじゃ何のために来たのかすら判らないよ。

 

「何だかなぁーー…皆して、お前のこと腫れ物扱いだなあ…」

 

ぼそりと零したガルドの言葉に、片眉を上げて舌打ちをする。

それに気付いたガルドが、軽く鼻で笑う。

 

「ったくさあ、今さらだよな。お前、普通にしてたって女の子〜なんてタイプじゃないのにさ」

 

返事もせずに知らん顔をして見せれば、ガルドは僕の隣りにドカリと座った。

 

「まあ、気にするなよ。って言っても無駄かも知れないけど…後ちょっとだけ我慢しとけって」

 

慰めてくれてるんだろうなって思う。

けれど、それが心の中まで浸透してくることはなかった。

元々、ガルドがこういう風に言ってくれる事は少なかったけれど、今までなら――あんな風な事が無ければ、きっと彼の言葉を素直に受け入れる事が出来ただろう。

だけど、今の僕にはガルドの言葉も上っ面にしか聞えてこない。

 

「とにかく今日はゆっくりして、明日の計画を実行する事だけ考えておこうぜ」

 

ニヤリと笑いながら言う彼に、僕は『そうだな』と返事だけして、不貞寝をする事に決定した。

どうせ、する事なんか何一つとしてないんだからな。

 

 

夜になってから先発隊ってのが到着すると、森の先で一つ目の計画を実行した仲間達。

妾妃キリクの手下だという連中は、森の奥に隠してあったという馬車の中へ拘束し放り込まれた。

もちろん、その際には様々な情報を喋らせたらしいけれど、僕の出番はなし。

見に行く事すら許してもらえず、テントの中にハルと二人で取り残されたのだった。

というか、ハルは僕の監視役として残されたのだけど――。

そうして、新しい仲間を引き入れ、明日の作戦会議が開かれたのだけれど、僕だけはマントを脱ぐことはしなかった。

一度だけ、皆から彼らに顔を見せて欲しいと言われたけれど、一切拒否させてもらった。

そのくらいの意趣返しをしても、文句は言われないと思うのだよね、僕としては。

確かに、今回参加したばかりの人達には悪いと思う――だって、彼らが悪い訳じゃないのだから。

けれど、そうした後の事を考えただけで、気分が悪くなりそうだったのだ……これから、何度となくそういう目に合わなくてはならないのか?と思えばこそ、余計に拒否したくなるのも仕方ないと思って欲しいものだ。

僕の事を知ってる人達は、少しだけ嘆息し、ガルドは『拗ねるなよ』なんて言ってたけど、そういう感情じゃなかった。

意地はあったけれど…僕は見世物じゃない。

ましてや彼らに敬われるような人間でもない。

何より、僕は今回、何もしてないんだ。

だから――拗ねている感はないわけじゃなかったけれど、それ以上に僕は違和感を感じていただけ……この今の状態に対して…。

 

その後、行われた作戦内容は、別に今更聞き直すこともないような内容だった。

彼らは、護衛を威嚇し追い返す。

殺すことはしないけれど、傷つけるくらいはするつもりだってことも言っていた。

僕は――王女の乗っている馬車を乗っ取るだけ。

他は、適当にあしらえとのことで――僕の近くにはブレアンが配置される事になった。

何で?と思ったけれど、彼らにとっては女の子である僕に剣を使わせられないって思っての事らしい。

けど、言わせて貰えば、僕は何度だってこの剣を抜いてきたし、一度はアロウの指示で、商隊の前で剣の打ち合いをしたこともあった。

ついでに、彼らとだって手合わせをしたことなど、何度もあるのだ。

それなのに――本当に、彼らはそんな事すら忘れ去っているらしい。

情けないかな、僕の反論は多数決で却下されてしまうだけ。

唯一、ガルドだけは僕を女の子扱いはしないでくれていたけれど……。

 

 

 


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