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計画を実行する日。

予定の時間近くになっても、王女の馬車がやってくる気配はなかった。

先発隊だった、こちら側の人達が首をひねり始めた頃、僕は凄く嫌な感じがしていることに気付いた。

胸の辺りが、モヤモヤしておかしな感じなのだ。

振り払おうと思っても消えない、そんな感じが頭の中と胸の辺りで渦巻く。

そして――気付いた時には、他の待機している人達を無視して馬を走らせていた。

他の人達が叫んで止めているのにも気にしている余裕すらなかったと思う。

だって――早く行かないと……そんな言葉に頭の中を支配されていたのだ。

一気に馬を走らせ、王女が来るはずの道を辿っていく。

後ろからはガルドの追いかけてくる気配を感じる。

他の人は……たぶん、躊躇っているのだろう。だけど、そんな事を気にしている暇は無かった。

 

「お前、何か感じるのか?!」

 

後ろから追いかけてくるガルドが叫ぶ。

それに返事する余裕なんか、僕にはなくって――ただ、『ああ』とだけ言いながら馬を必死に走らせた。

そして見えてきたそれに、僕は一瞬の躊躇いなく突撃して行ったのだった。

 

「アンジー!」

 

ガルドが叫んでる――けれど、止めるつもりはないらしく、『お前は右へ、俺は左を行く!』と言ってくれていた。

その言葉に了承したとばかり、僕は右の方から突っ込んでいく。

馬車は、まだ大丈夫だ。

けれど、既に他の賊に襲われている護衛達は、馬車を守ることもせずに逃げ出そうとしている。

王女の嫁入りをする割には少ない馬車と護衛の数。

その中でも、豪華な馬車は二つあり、どちらかに王女が乗っている筈なのだ。

剣を抜き、賊を払いながらその馬車を目指す。

馬車を先導していた人も、馬車の手綱を握っていた人も、どうやら既に逃げ出した後らしく、全ての馬車には馬を操る人間が乗り合わせて居ない。

なんて事を――と、心の中で叫びながら、賊を倒していく。

もう、この時には死なせないように――なんていう手加減なんか出来なかった。

後ろから、アロウ達が合流した事に気付いたけれど、僕は必死だったのだ。

護衛は、既に息絶えている者も居て、その中には僕達の方に付く筈だった人達も居たみたいだ。

けれど、そんな事にすら構っていられなかった。

後少し、と言う所で賊が馬車目掛けて走っていくのが見える。

慌てたのは、きっと僕だけじゃなかったはずだ。

懐に隠して持っていた短剣を取り出そうとした瞬間――その賊の体がピタリと止まったのが見えた。

その時……ガルドが術を掛けたのだと知った僕は、ホッと胸を撫で下ろし賊を更に動けなくするよう剣で斬りつけておく。

そうして、漸く辿り着いた馬車の中には、小さな体を震わせている女の人が二人と、剣を抜いて飛び出してくる男の人が一人。

 

「待ってっ!まだ出てきちゃだめだ!」

 

僕の叫び声に一瞬怯んで見せたけれど、僕を追い払おうとその男は馬車から飛び出してきた。

 

「ダメだ!」

 

叫んだその瞬間、賊が彼に向かっていくのが見え、今度こそ僕は持っていた剣をその賊へと突き刺していた。

 

「あぐぅ…」

 

呻き声が聞え、その賊が倒れこむと僕に向かってきた男へ向かい、中に戻るよう指示を出した。

けれど、彼にはどちらも賊に見えていたのだろう。

混乱しながらも、剣を交えさせようとしている。

この時になって、僕は自分の格好を思い出し、身に付けていた仮面とマントを剥ぎ取り投げ捨てた。

 

「僕は、君達を助けに飛んできた――お願いだから、賊を倒しきるまで中で待ってて!」

「……っ!!」

「アンジー! 何をしてるんだ!」

 

僕の姿を見た男が硬直し、そして後ろからはアロウの叫ぶ声。

だけど、僕は知らぬ顔をして彼を馬車の中に押し込めると、残っていた賊を倒すため馬から飛び降り、賊に突き刺した剣を取り返した。

ガルドが近くまで走ってきてくれて、僕の背中側につく。

そして――僕達は、その後、あまり苦労することもなく賊を倒しきり、王女達の馬車を守りきったのだった。

 

 

 

 

 

全てが終わったと安堵した頃、肩で息をしながらも皆が集まってくるのを感じた。

アロウが、凄く怖い顔をしながら近づいてきたけれど、僕は素知らぬ顔をしながら脱ぎ捨てていた仮面とマントを拾う。

 

「アンジー…」

「言っておくけど、説教は聞かないよ――ああしなければ、彼も賊にやられていたんだから……どう見ても、文官か何かでしょう?彼は…剣を持つ腕をしていなかった」

「……だけど…」

 

彼の言葉を途中で遮るように、僕は手を突き出す。

 

「僕の判断は間違って居なかった。あの時、森を勝手に飛び出した事も、仮面を取ったことも」

 

僕がそう言うと、隣りにいたガルドが苦笑しながら言った。

 

「その通り――アンジーの方が間違って無かった。アロウ、お前が怒るのは判るけど、俺はアンジーにつく」

 

渋い顔をしているのは、何もアロウだけじゃなかった。

後ろからやってきたブレアンは、もっと渋い顔をして、尚且つ僕達の事を睨み付けている。

だけど、僕達も怯んではなかった。

 

「悪いけど、言い争いをしてる時間はないんだろ?王女さん達をこのままにはして置けないんだから」

 

そう言いながら、僕は馬車を親指で示す。

すると、彼らは本当に渋々ながら頷き、馬車の中へ声を掛けた。

 

「ノルさま――ノル王女さま……我らは決して怪しい者ではありません。ご安心下さい」

 

ブレアンがそう声を掛けると、その声に反応したのか馬車の中に居た文官らしい、先ほど僕に斬り掛かろうとしてきた男性が扉を開けた。

そして―――。

 

「私の――その名を知ってる貴方は、何方ですか?」

 

か細くて、可愛らしい声が馬車の中から聞えてきて、そして顔を出した。

その顔を見た瞬間、僕は一瞬だけだけれど、思考が止まっていたと思う。

真っ白だと言えるくらいに綺麗な透き通る肌をした女性、それは今まで見てきたどんな女性とも違って見えたのだ。

美しくて、その動きは洗練されていて……見た事もないくらいの豪華なドレスを身に纏い、髪は綺麗に結い上げられている。

僕だって、貴族達を見た事がないわけじゃない。

それでも、ここまで上品だと思える女性には、会ったことも見た事も無かった。

けれど、その中に少しだけ生じる違和感……その顔は――どこかで見覚えのあるような顔で……。

え?と、僕の事を渋い顔で見下ろしているアロウを見る。

そして、今度は王女を――そうして数度、繰り返して気付く。

嗚呼、この二人、凄く似ているんだ――。

赤に近い目の色、銀に近い綺麗な髪、口元や目元……顔の輪郭はそうでもないけれど、細部が良く似ていて…。

 

「アロウ…?」

 

そう声を掛けると、彼は苦く笑う。

そして気付く――。

彼こそが、王女の双子の片割れ――王子だったのだ、と。

 

 

 


本来、40話のところに41話のお話が組み込まれていました。

もうしわけありませんでした!!

改めて訂正いたしましたっ。

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