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街を出て二日目。

予定通りに一つ目の町へ到着した。

馬の休憩やら、自分達の休憩やらでゆっくり来たつもりだったけれど、それでも予定通り。

町では、水の補給や馬の餌の補給をしてから、すぐに出て目的地へと向かう。

途中、ガルドが文句を言っていたようだけれど、全てが無視された――というのも、例によって食事の事ばっかりだったから。

そうして三日目の昼、漸くして目的地へと到着した。

その間、彼らの態度が軟化したか?と聞かれたら、僕には判らない。

何しろ、彼らとは一歩距離を置いていたから。

――僕は、必要の無い仲間――

その言葉が、頭から離れないのだ。

ガルドは、前と同じように接してきたけれど、それでも僕にはもう前とは同じように見ることが出来なくなっていた。

心の中にあるのは、彼らから受けた裏切りにも似た仕打ちで傷ついてしまった痛み。

いつだって、誰とだって、同等に付き合ってきた筈だったのに……という思いが、そうさせているのだと思う。

 

彼らの言う、仲間との合流場所は、森の入り口付近――と言っても、街道からは見えない場所に用意してあるとの事。

僕達は、ブレアンの先導の元、その場所へと馬を急がせた。

誰も居ないことを確認してから森の中に入り、少し進んだ所にテントが三つほど設置されているのが確認できた。

そして――。

 

「待たせた」

 

アロウが小さな声で言うと、テントの中から男が三人程出てくる。

そして、アロウとブレアンを確認すると、彼らは僕達を見て――――。

 

「……ハ、ル??」

 

思わず声が漏れてしまっていた。

だって、そこに居たのは、以前、一緒に仕事をした事がある人だったから――気さくで明るくて、そして豪快な性格の主。

 

「え??あ、アンジー?」

 

僕を見つけたハルが、慌てたように声をあげた。

 

「アンジーじゃねぇか!」

 

そう僕の名を呼びながら嬉しそうに駆け寄ってくるのを認め、僕は馬から飛び降りハルを迎えた。

 

「何でお前がここに?!」

 

戸惑っているのだろう人達をよそに、僕達は再会の握手を交わし、そして久しぶりだと軽いハグをする。

そして、それに満足した頃、アロウが苦笑しながら僕達に声を掛けてきた。

 

「ハル――少し静かに頼む――さすがにこの辺は静かだから、お前のデカイ声は目だって仕方ない」

「あ、ああ、悪い悪い――まあ、何だ――あんまりにも吃驚して忘れてた」

 

と、以前会った時と変わらない、陽気な声で、けれど一応は恐縮しながら返事をしている。

その姿を見た途端に、僕は少しだけ気持ちが楽になるのを感じた。

 

 

 

テントの中に荷物を置き、僕達は彼らに紹介されることになった。

ハルを始め、ここにいる者たちは、以前神殿騎士をしていたらしい。

けれど、例の妾妃キリクに気に入られなかった為、神殿を追い出されたという。

以前、ハルがアロウ、ブレアンと一緒の商隊に入ったのも、実は偶然じゃなかったとのこと。

旅先では、よくそうやって連絡を取り合っていたのだと、そう教えてくれた。

他の人達も、今までずっとそうやって彼ら二人と連絡を取り合うため、旅を続けていたらしい。

神殿騎士達の間では、妾妃キリクに対しての反感は大きく、また生まれたばかりの王子を殺そうとしたということで、余計に悪感情の方が勝ってしまったという彼らは、いつでも王子達の味方についてくれるのだという。

何でも、今の王では正常な判断での政治がこなせなくなってしまっているから――正当な後継者を求めているのだと――。

そんな事情をある程度聞いた後、僕達は一つのテントへ案内された。

アロウとブレアンは、僕の事情を知っているから一人で――と思っていたらしいけれど、何も知らないハルは『そっちの兄ちゃんと、俺と三人同じテントでいいか?』なんて聞いてきてくれて、僕は嬉しそうに頷いた。

まだ、彼らには自分の正体を言ってなかったから、その対応が嬉しく思えたのだ。

それなのに――。

 

「アンジー、悪いが彼らにも君の正体を話さなくてはならない」

 

と、徐に言ってくれたブレアン――。

せっかく――僕の非力とは言え、力ある者として同等に扱ってくれる人を見つけたのに……という焦燥にも似た感情が浮かび上がってきた。

ブレアンの言ってる意味を理解していないわけじゃない。

これから一緒に戦う仲間なのだから、知らせるべきなのも、判ってはいる。

けれど――と思うのだ。

彼らもまた、僕の真実を目の当たりした時の対応を――。

 

「あ、何だ??」

 

とハルが首を傾げながら言うのを見て、僕は唇を噛み締めた。

そして、彼らに従うということは、これも了承しなくてはならないことなのだろうと――本当は嫌だという感情を押し込めて、仕方なくブレアンに従い、彼らの使うテントへ集まってもらうことにした。

 

 

 

テントの中はストーブが炊かれ、それなりに温かくなっては居たけれど、それでも冬の冷たい空気が、隙間から流れ込んでくる。

それを感じながら――また、皆の視線を感じながら、僕は諦めにも似た感情を胸に押し込め、マントに手をかけた。

ハルには何が起こるのか想像も付かないのだろう。

僕の様子をジッと見つめ、そして首を傾げていた。

少しだけ手が震える自分が居る――けれど、やっぱりどこか『どうでもいいや』という投げやりになっている自分もいて――ガルドが少し唸って居たけれど聞かなかったフリをしてマントを脱ぎ捨てた。

そして―――。

 

僕の真実を知らなかった人達が、全員で息を呑むのを感じた。

ハルは、その大きくない目を必死に大きく見開かせた後、まるで何かに傷ついたような、そんな痛みのある顔をして見せた。

他の人達は――感嘆するかのような、そんな息を吐き出し、それから目を瞬かせている。

 

「嗚呼――まさか――こんな――」

 

漸く言葉を発したのは誰だっただろう――けれど、ハルじゃないことは確か。

彼は、顔を下に向けて肩を小さく震わせていたのだから……。

彼らは一様に、体を戦慄かせ、そして古の言葉を口の中で言っているみたいだ。

 

「アンジーが……古の…だったなんて………」

 

ハルが、何か小声で呟いたのが聞えた後、ガバリと顔を上げて僕をその強い視線で見つめてきた。

 

「お前がマントで顔を隠していたのは、そのせいか?」

 

そう問われて小さく頷くと、まだ納得出来ないとばかりに顔を横に数度振った。

 

「だが、以前に見た時には、お前の手や顔には火傷の跡があった……」

 

その言葉に返事をしたのは、アロウだった。

神官さまの術で、身を隠していたのだと説明し、尚且つ、今回のレン神官さまが施した術の話を彼らに聞かせる。

その間、僕はハルの事だけを見ていた。

傷ついたような顔をしたハルのことだけを―――。

 

 

 

その後、皆が落ち着きを取り戻すと、ハルが僕のところへやってきた。

 

「女――だったのか……」

 

その言葉に傷つく自分が少し許せなかった。

けれど、ハルは前に会った時と同じように、僕の頭をポンと一つ叩くと――。

 

「まさか、アンジーがこんな凄いヤツだったとは思いもしなかったが――こちら側についていてくれて良かった」

 

そう安心したように呟いたのを聞いていた。

けれど――その手が、どこか余所余所しい事に、気付かなければ僕はもっと幸せだったのに――。

 

「何も気付いてやれてなくて、悪かった」

 

ハルの言葉に、僕は今度こそ、もう以前とは一緒じゃないんだと実感してしまった。

その声が、今までに聞いた事がないほど、他人行儀だったから――。

正に――ここでも僕は、彼らとは同じじゃないと、知らしめられたように―――。

 

 

 


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