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「ブレアン、アロウ、君達はすることがあるのだろう?」

「あ、そうでした、そうでした」

「では、二人とも、行ってきなさい」

「はい」

 

神官さまの言葉に、ブレアンとアロウがふと見せる真剣な顔で返事をし、部屋を辞して行った。

そして。

 

「ガルド――悪いが、アンジーの食事を貰ってきてくれるかね?さすがに、夕べも今朝も食べて居ないから、少し何か口に入れさせなくてはいけないだろう」

「判ったっ」

 

ガルドもまた、神官さまの言葉に反応して部屋を出ていく。

そして取り残された、僕達二人。

神官さまは、上手い事全員を部屋から追い出す事に成功し、僕のベッド脇に置かれた椅子に腰を降ろした。

どうやらそれは、意図してのこと――僕も、そこまでは鈍感じゃないから、彼のした事には何か意味があるのだろうと知る。

だけど――――。

 

「どうせ、判っているのだろう?」

 

その言葉に反応はしなかった。

 

「君は、勘違いをしている――孤独に身を委ねてはいけない」

 

孤独――僕は孤独なんだろうか?

いや、そうは思ったことなどない。

今だって、こうして僕を心配してくれる人達がいるのだから、間違いなく一人じゃないと信じられる。

それなのに、神官さまは何を言い出すのか。

 

「彼らが君を除け者にしようと思って、計画から外したわけじゃない事を知って欲しい――ただ、彼らは君を危険な目に遭わせたくはなかったんだよ」

 

一応はね――と思いながら頷けば、神官さまは僕の顔に手を差し出してくる。

そして――。

 

「彼らはずっと苦労をしてきた――だからと言って人の心を考えない今回の行いを、私も許すことはなかった。反省もしている事だろう…だからこそ、君が飛び出して行った後には探し回り私へと助言も欲してきた」

「……そう、ですか…」

「悪い事をした時には反省し、そしてその行いを正すことも出来る子達だ。だから――どうか、あの子達の心配する気持ちも判ってやって欲しい」

 

僕もね、そのくらいは判らない訳じゃないんですよ、神官さま。

そう心の中で答えながら頷いた。

ただね――僕が悲しい気持ちになったのは、僕を腫れ物に触るみたいに扱う彼らの態度なんだ。

僕の力など必要ないんだろうか?ってね。

それだけなんですよ……。

そう言いたい気持ちは心の中に仕舞いこみ、僕は神官さまの言葉に従うことにした。

ふりはしない。

だって、彼にはそんなことをしてもすぐに判ってしまうから。

だから――従ったんだ……。

 

 

 

その後、僕は甲斐甲斐しく面倒を見てくれるガルドを少し鬱陶しく感じながらも、それでも少し嬉しい気持ちもあり大人しく寝ていた。

夜になる頃には体も動くようになり、皆と食事をする事も出来るようになった。

神殿に居る誰もが、一様に心配してくれていたのを知れば、昨日の自分の行いを恥ずかしく思える。

けれど、自分でも制御出来ない感情ってのが僕にもあったのだと知って、少しだけ人間らしい自分を誇りにも思えた。

だって――今までは、こんな風に感情を荒げて何かをするなんて、ほとんどなくって――受動的な考え方、受動的な動き方の方が多かったのだ。

だからね――ほんの少しだけ自分を誉めてもあげたかったんだと思う。

 

「それにしても、夕べのあれ、なんだったんだろうな」

 

夕食を終え部屋に戻ると、ガルドがそんな事を言いながら自分の手を見ている。

その手には包帯が巻かれていて……。

 

「ガルド、その手って…」

「ああ、昨日、アンジーに触った時、何か電気がきただろう?あれで、ちこっと火傷をしたんだけど、たいした事ないぜ?」

 

そう言って包帯を取って見せるガルドの手には、赤く爛れた痕があった。

 

「それ……」

「あの時は痛かったんだけど、その後は痛みもないんだよ。変だろ?」

 

なんて笑うガルドは、僕を安心させる為かその部分を指で押して見せる。

けれど……。

 

「な?痛みがないってのは嘘じゃないだろ?」

「本当は、少し痛いんでしょう?」

「いや、本気で痛みはないんだ。けどな……何だったんだろうな、あれ」

 

それは僕の方こそが聞きたいよ。

いきなりの衝撃で、自分すらも気を失ったんだから。

 

「神官はさー、お前の心の痛みだって言ってたんだけど、アンジーって何か力があるって訳じゃないじゃんな?」

 

片眉を上げ、彼を見つめ返せば、「だよなー」という返事。

その通り、僕には彼らの言うところの力なんてない。

もしあるのなら、自分で自分の身を変える事くらい出来るはずなんだから。

 

「まあ、お前が元気になったから良いんだけどさ」

 

ちょっとだけテレたように笑うガルドへ、僕はそうだねと返すだけにした。

ガルドは、今も僕の心の中にある本当の痛みには気付かないでくれている。

もちろん、アロウとブレアンも。

神官さまだけは騙す事は出来ないけれど、それでも従うって心に刻んでいるから、僕の心が何かを偽っているのだというのには気付かない。

ただ、今の僕に言える事は――彼らを王城へ連れていくことが試練だということ。

そして、竜に会うことが使命だってことだけ。

他には何もいらない。

そう思うことで、僕は心の中にある寂しさを封じ込める事にしたのだった。

 

 

 

 

明日を出発とする夜、僕達は神官さまの部屋に集まり、作戦の再確認をした。

それぞれの意見を出し合いながらの作戦会議は、それなりに充実したものだったのだと思う。

その時、僕一人が口を開かなかった事に、誰一人として疑問に思う者は居なかった。

別に傍観者として、そこに居たわけじゃない。

今更、口を出すほどの話じゃないと、そう思ったから黙っていただけ。

賊を装う為に用意されたのは、顔を隠すための仮面とマント。

僕達は今までのでいいんじゃないかって思ったんだけど、もしもの時の事を考えて今の物とは違う物を使うのだと言う。

元々、僕達の着ているマントは冬用の旅人が使う深い緑色のそれで、少しフードが大きめに作ってあるやつ。

けれど、賊に扮装するのだというやつは、色が真っ黒で、本当に賊らしい感じのするものだった。

 

「これにも、今使っているマントと同じ術を施してある――後は、部屋に戻る前、君の術を解くことにするよ」

 

そう言った神官さまに、僕は承諾するよう一つ頷いた。

 

「明日の朝一で出かけるけれど、この街は朝が早いからこっそりって訳にもいかない。途中までは今まで通りのマントで行くとして、合流場所で着替える事になる。王女がその場所を通るのは、五日後だから何もなければ一個目の町は通過予定ということで、泊まるつもりはない。後、もしもの時に備えて――薬草とか薬などは余分に用意しておいた。何か質問は?」

 

いや、ない――と全員が首を振り、了承の意を見せる。

僕もまた、別にこれと言ってもう反論するつもりもないから、頷くだけにしておいた。

 

「じゃあ、荷物はそれぞれがそれぞれの馬に載せていくってことでよろしくな」

「はいよ」

「判った」

「アロウ、最後に一ついいか?」

「何だブレアン」

 

アロウが締めくくろうとした時になって、ブレアンが渋い顔で僕達の――ううん、僕の顔をしっかりと見据えてきた。

そして。

 

「この間は――いや、ここに来てからアンジーへの態度が悪かったこと、今更だけれど許して欲しい。すまなかった」

 

そう言ったブレアンに、僕は一瞬目を細める。

何を言い出すのかと思えば――僕はもう、そんなことは気にしていないというのに……。

 

「ただ――君が古の…あの言葉の人だと知って、俺達は過敏になり過ぎて居たんだと思う。女の子だと知った事もあるし……だから、どうか、許して欲しい」

 

そうブレアンが言うと、隣りに座っていたアロウもまた、同じように謝ってくる。

そんな二人を見て、僕が『許さない』と言える筈は無い。

だって――今はもう、そんな事など、どうでもいいのだから。

僕には、彼らを責める必要性を感じていない。

だから、「気にしないで」と笑顔を作って、二人に答えておいた。

神官さまも、僕の返事にホッとしたのか満足そうに微笑んでいる。

ガルドは、もうやる気満々なのだろう――この後にある計画で頭が一杯みたいだ。

アロウは…ブレアンの肩に手を乗せて、友人を労わっている。

そんな皆を見て、僕は自分のやるべき事だけを考える事にした。

どうせ、僕はそうしないといけないらしいんだから。

 

「ああ、アンジー…王都に入ったら、事を起こす前に大神殿へ一度向かうように」

 

レン神官さまが僕に言うと、手を差し伸べてきた。

そして――その手の温かさが、まるで自分の心に伝わってきて居ないことに気付く。

以前なら、僕はこの手を温かくて優しくて、心を包んでもらっているような気がしていたはずなのに。

 

「いいね?」

「判りました――」

「気を付けて」

 

その言葉を最後に、僕達は部屋に戻り、明日のために体を休めることにした。

たった一つ――僕の心の中に出来た空洞を抱えながら…。

 

 

 


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