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次の日は、朝からレン神官さまの部屋へ今後の計画を立てるため五人で集まった。
計画――と言っても、一体どうやって王城へ入るのかっていう問題なのだけれど、ね。
「まず、王都に行く前、ある人達と合流することになっている」
「ある、人達?」
「そう――俺達の仲間と言ってもいいかな?」
「……仲間――」
それは、旅をしてる間に作ってきた人達のことだろうか?
と考えて、ちょっと不安になる。
まさかと思うけど、王城に乗り込むとか、クーデターを起こすとか、そんな大それた事を考えてたりしないよね?と――。
「近々、王女が隣りの国へ嫁ぐという話は聞いたか?」
「ああ…街でも噂になってるね」
「その王女の側近をしている者達の手引きで、彼女達と合流する事になっている」
「――本当に?」
「ああ」
アロウの言葉に、僕は吃驚する事ばかりだ。
だって――王女の側近って…王城の中に居た人達ってことでしょう?
どうやって――連絡をつけてたのさ…。
今まで、隠れて生活していたのだし、いくらどちらかが宰相さまのお子さまだって話でも、ちょっと苦しくない?
「ああ、この辺もきちんと説明した方がいいだろうな」
なんて、悪びれずに言うアロウは、僕の顔が怪訝に歪んでいるのを認めたのだろう。
「まず――我らの大陸に、二十年前までは神殿騎士という者達が居たのは知って居るだろう?」
「うん――それは、村の神官さまから聞いた事がある」
「今は、王都の大神殿にしか居ないが、嘗ては各地の神殿に必ず最低二人は派遣されていた程の数が存在した」
「そうなんだ――」
「ああ――けれど、妾妃キリクの言葉により、その神殿騎士は排除されていったのだ」
僕とガルドは顔を見合わせ、眉根を寄せた。
すると今度はブレアンが、話の続きをし始める。
「神殿騎士の中には、こっそり神殿で手伝いをしている人達も居るけれど、存在がバレると神殿自体に迷惑が掛かると言って、その身を傭兵に変え生き長らえている者の方が多数だ」
「傭兵――」
「それだけじゃない――今や王城の中の騎士達もまた、一掃されている」
「じゃあ、それまでの騎士が?」
「そう――今まで騎士としてやってきた者達の…一般家庭から選出されてきた者達は、排除されて傭兵になっている」
まさか――と思わずには居られなかったけれど、彼らの真剣な顔から冗談ではないのだと理解出来た。
ガルドは隣りで、段々と飽きてきたのか欠伸をし始めたけれど、それでも必死に聞く姿勢は崩してない。
まったく――この能天気者め!と、小突いてみたものの、彼は『何だよ』という視線を送ってきただけだった。
「前置きが長すぎたか……まあ、そんな彼らが俺達の仲間になってくれているんだ」
「え?!」
その言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
彼ら曰く、神殿騎士や王城の衛兵をしていた者達が追い出され、そして王子の存在を知るや助ける為に各地を転々としながら、時期を見ていたのだというのだ。
また、その中には王城へ出入り出来る者も少ないながらに存在し、その者達が宰相さまや大臣達と連絡を取ったり、情報を貰ったりしてきてはアロウとブレアンに届けていたと言う。
と言っても、直接、その者達がこの二人に接触するわけにはいかなかったため、伝達に伝達を重ねての連絡入れだったらしい。
まあ、子供の頃には、神殿へ来る事も無かったわけじゃないらしいけれど――その事で神殿に居る二人を危うい目に遭わせる訳にはいかないと、かなり苦労していたと話してくれた。
「とにかく――そう言う事で、彼らの手引きにより王女と接触する事を計画したのだけれど――」
「ねえ――その王女さまは、知ってるわけ?あ、二人が来るってこと」
「いや、それは知らせていない――というより、知らせることを避けている」
「ふーん」
「それと、王女を護衛する衛兵達には、こちら側の人間ばかりが居るわけじゃない」
「――と、言うと?」
「一応、段取りより連絡を取り合ったわけじゃないが――賊を装って、王女達を攫うつもりでいる」
「……へ?」
思わず、僕は凄く間抜けな返事をしてしまったと思う。
それなのに、話をしていたアロウは笑うこともなく、真剣な眼差しのまま、僕達の事を見つめていた。
「面白そう…だな、それ」
と、言い出したのは、隣りに座っていたガルドだ。
それも楽しそうな声を隠すことなく、完全に悪戯をする時と同じ目をして……。
「ガルド!」
「ああ、面白そうだろう?」
「アロウまで!」
嗜める為にガルドの名を呼べば、目の前のアロウまでもが目を細めてガルドに言う。
慌ててアロウを止めようとしたけれど、この後はもう、僕の言葉なんか耳に入れてもくれない二人に呆れながら計画を聞くことになったのだった。
大まかな計画は、まず王女が通るという場所で他の仲間と一旦合流するとのこと。
次に王女の通るという道で待ち伏せをし、賊に成りすまして味方以外の衛兵を追い払い、でもってそのまま王城へ行くのではなく、まずは王女を助ける事が主体らしいのだけれど……。
とにかく、そこで一旦は終了として王女を守りながら王都に入るのだと言う彼ら。
まあ、決して危ない事ばかりじゃないってことは理解出来たけれど、僕にはそれ以前に怖いこともある。
何よりも――この二人が危ない目に遭うのじゃないか?ってこと。
元々、彼らは隠れて生活して来たわけだし、その味方だという人達の中に彼らを良く思って居ない人物は居ないのか。
また、その妾妃キリクって人が相当悪い人だというのであれば、逆に味方の中に誰かを紛れ込ませて、二人を傷つける――いや、暗殺するとか計画しているんじゃないのか?とか…考えたらキリがなくて……。
けれど、そんな不安を抱える僕に、二人は『大丈夫――任せておけ』と苦笑交じりに言うだけだった。
「とにかく――出発は一週間後。それまでに準備をしておいて欲しい」
そうブレアンが言うと、この場はお開きとなってしまい、その後は和やかな食事の時間になってしまった。
始終、ガルドは楽しそうに会話をしていたけれど、僕はまだ不安を隠すことが出来なかった。
そりゃ、彼らにとってはそれなりに計画をして来た事なのかも知れないけれど、途中参加する事になった僕達にしてみれば、前人未到な世界な訳で――。
それなのに、彼らは『要らぬ心配はすんな』の一言で片付けてくれたりした。
それって――もしかしなくても、僕の力なんか必要なしってこと?
なんて、少し捻た考えが頭を過ぎる。
ガルドは、本当に相変わらず、目の前に楽しそうな事があれば飛びつくタイプだし――あ、あと食い物か…。
その後、食事も終わり部屋に戻ろうとした僕達を呼びとめたのは神官さまだった。
というより、僕だけ――を呼びとめて、少しだけ話をしたいと言われた。
ガルドは興味津々だったけれど、とっとと部屋に戻れと追い出して、僕一人、神官さまの部屋に残る事になった。
「アンジー。悪いのだが、良く聞いて欲しい」
「はい」
「君に掛かっている術を取り外す必要がある――」
神官さまの言葉に、僕は一瞬何を言われたのか判らないまま、首を傾げた。
「これから王女さま達と合流する上で――君の容姿を見せる時が来るだろう――けれど、彼ら全てに力がある訳じゃない。だから、その者達の為にも一旦、その術を外すことにしたのだよ」
温かい眼差しで言う彼に、僕は顔を顰めて見つめ返した。
この術を――外す、ということは、他の人達にも僕の正体がバレる可能性が高くなるということ。
それは…僕にも危険が及ぶということでもある。
「ただ、私には他の神官達には出来なかった術を施す事が出来る――」
「え?」
「マントに術を施すのだよ…マントを着ている間は、今と同じ状態を保つ事ができ、尚且つ脱いだ時には本当の姿に戻れる、という代物だ」
少し悪戯っ子のような笑いを見せて言う神官さまに、僕は開いた口が塞がらなかった。
「君の持っているマントと、今後使うことになっているマントに術を施すから、明日にでも持って来なさい」
話はそれだけだよ、と神官さまは僕に部屋へ戻るよう言ってくれた。
ちょっと……いきなり、どんな爆弾発言してくれるの…と、未だ理解出来ない頭を抱えて部屋に戻った僕。
そして――僕は悩んだままの状態で夜を明かすことになったのだった。
そんな状態で――眠れるはずもないままに……。




