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改めて紹介された二人を、僕達は呆然と見据えていた。
レン神官さまは、初めこそ僕達が知り合いだと知って驚きはしていたものの、『これこそが導きというものか』と感動の言葉を貰う始末。
悪いけれど、僕にとっては導きでも何でも良いけれど、これ以上の驚きなんか欲しくないからね――と、内心ひとりごちるくらいしか抵抗することが出来なかった。
ガルドは、途中から平常心を取り戻し、けれど二人には美味しいものを食べさせてもらった経緯があるせいか、至って普通だった。
それ以上に、彼らであったことが自分に有利だと思ったのだろうか、歓迎すらしている様子。
まったく――胃袋直結感情と脳の持ち主め。
それにしても――この二人が、神官さまの仰っていた方達だったとは、思いもよらない事態に僕の脳内は途中途中で停止しそうになっていた。
「まあ、そういう事だから、よろしくな」
と、軽々しく言うアロウに、僕は返事すら出来なかった。
いや、する気力がなかったという方が正しいだろう。
ガックリと項垂れて、二人をフードの中から睨み付けてさえいたんだから。
「それにしても――このアンジーが…本当に古の?」
そんな中、ブレアンが不安そうに問い掛けてくる。
それも当然だろう。
確かに体は小さいものの、彼らにはずっと男の子として接してきたんだから。
ついでに――火傷の痕だって、一回や二回どころか、何度も見られているのだ。
信じられなくても当然と言える。
すると神官さまが、何やらアロウとブレアンの方へ呪文を唱えてみせた。
そして…。
「二人とも、マントを脱いでみてくれるかね?」
神官さまがニッコリと優しく笑いかけながら言ってくる。
ガルドは一瞬だけ躊躇したみたいだ。
確かに、それは判らないことじゃないけれど、彼らも神殿で育ったのだということを思い出したのか、僕と一緒になってマントを脱ぎ捨てた。
そして案の定、その途端に二人の顔が蒼褪める。
「ま、さか――」
「ありえない……」
二人はそう言ってから数分程、茫然自失――それこそ、わーい仕返し出来た!と叫びたくなる程に。
いや、実際、ガルドは叫んでいたけどさ。
そうして、お互いの知られざる一面を知り、受け入れるしかない事実に、ただただ呆れと似た感情を抱いたのだった。
「ところで――アロウ…さまと、ブレアン……さま…は……」
「いや、そんな敬称はいらないぜ?」
必死に敬称を取り付けたのに、アロウがあっさりと否定してくれた。
僕の、ごく僅かな努力を無にしないでよ。とは思ったものの、黙って頷くだけにしておいた。
「じゃあ、アロウとブレアンは、どっちが王子さまで、どっちが宰相さまのお子さま?」
そう問い掛けると、二人は意味深な笑みを見せただけで返事をくれるつもりはないらしい。
それを見ていたレン神官さまも同様。
ガルドと僕は顔を見合わせて、ムゥッと口を尖らせてみせた。
「ぶ…お前ら…ガキじゃないんだから、そんな顔すんなよ――と言っても、言う気はないけどな」
「その内、判ると思う――それまでは、秘密の方がいいだろうな」
神官さまとアロウ、そしてブレアンはそう言うと、それぞれで頷き合い、僕達の質問を無にしてくれた。
何ていう意地悪なんだろう。
「ケチ……」
呟いたのは僕じゃなく、ガルドの方。
やっぱり、精神年齢は僕の方が上だな、なんて思いながらガルドを見やれば、何時もの如く、頬を膨らませた上に口を尖らせている。
それを見た僕達は、一斉に笑い出してしまっていた。
その時になって、神殿のお弟子さんが部屋の扉をノックし、食事を持ってきた事を告げる。
その途端、僕とガルドは慌ててマントを身に着けると同時にフードを深く被った。
それを確認した神官さまが、『中へ』とお弟子さんを招き入れる。
そして、その日の夕食は、再会と新事実を記念し、楽しい時間を過ごした――のだと、思う…きっと。
夜になってから、今まで知らなかった話を聞かせられた。
王族が今では、妾妃――キリクさまとそのキリクさまが連れこんだ者達によって、乗っ取りの計画があるということ。
正妃さまが何度となく、毒殺されそうになったということ。
王女さまは――近々、近隣の国ミードアルスへ追い出されるように嫁入りする予定だということ。
そして、何よりも――国王陛下を抹殺しようと企む連中を妾妃が仲間へ引き入れているということ。
どうやら、キリクさまには子供を産む事は出来なかったらしい。
ずっと長い間、王様から寵愛を貰っていたのにも関わらず、なぜか子供には恵まれなかったと言う。
彼女の他に三人の妾妃が居るらしいけれど、確かに子供が産まれはしたものの全てが女の子で、しかも――全ての子が赤児の内に、育つことなく永眠しているのだと聞いた。
どうやら、寵愛を受けているキリクさまが毒殺したのじゃないか?という噂も出ているらしい。
正妃さまの娘である王女が、何故今まで無事であったのかと言えば、大臣他、彼女を取り巻く全ての人々が守っていたから。
けれど、他の妾妃達の子達が守られなかった訳じゃない。
ただ、後宮という場所に入っている彼女達へ近づけるのは女性のみ。
もちろん、後宮を守る護衛もいるのだけれど、その方達も女性で――それぞれが皆キリクさまには逆らえないのだと言うのだ。
それが何故なのか――どうして今までそれに反論したり、行動を起こそうというものがいなかったのか、僕にはその方が不自然だと思えた。
それらの話を聞き、僕とガルドは部屋に戻ってから、頭の中で必死に整理していた。
と言っても、途中でガルドは諦めたのか、とっとと夢の世界へ旅立って行ったけど――僕は、ある程度、話を聞いたそれぞれを何度となく整理して飲み込んでいった。
どちらにしろ、まだ噂の段階で、全てが真実かどうかは定かではない。
レン神官さまも、確かに王都とは何も関係がないわけじゃないから、それなりの情報は手にしているらしいけれど不確定だと、そう仰っていた。
何しろ、王子達を匿っている手前、目立った行動は出来ないし、また宰相さまとの連絡も取り合うことは難しいらしい。
そのため、全ての情報が不確かでしかないのだ。
だから――僕は、それらを噂だということで、覚書のように頭の中に入れておく事にした。
だって、それ以外に手はないのだから仕方ない……と言うより、僕には今現在、手出しが出来そうにないのだから諦めるしかないのだ。
これからの事は、明日にでも話し合うことになっている。
知らない仲じゃない、アロウとブレアン、そして僕達と神官さまとで――。
まだまだ十分には話足りてない。
今夜は、殆どが吃驚することばっかりで、改めて知った話題ばっかりが中心になってしまったのだから、それも当然かもしれないだろう。
ガルドが半妖だと知った二人の顔。
それを思い出すだけでも、少しだけ憂さ晴らしが出来るというもの。
今夜の夢は――そんな、二人の驚いた顔が何度も出てくる夢がいい。
ガルドが『ざまあみろ』と舌を出した顔の出てくる夢がいい。
今夜だけは――まだ、夢の中でゆっくりと過ごそう。
そう決め込んで、僕は枕に頭を預け、温かい布団に身を委ねると、ガルドと同様、夢の中へと入り込んでいった。




