オラーキ
僕の名前は、ヒロ、ある辺境の村に住む12歳になったばかりの普通の村人だ。
父親の畑仕事の手伝いで野菜を作り自給自足をする、暖かな陽の下で日向ぼっこをしたりする、そんな生活をしているただの村人だ。
そんな生活をしながら、これからもこの村で平和に暮らして、運命の人と出会い、そのままその人との間に子供が生まれ、家を継いでもらい、家族に囲まれながら死ぬのだろう。
そう思っていた。
今日この時までは....。
1日の仕事も終わり、明日に備えて早めに就寝していた頃、凄まじい轟音と共に目を覚ます。
「なに?なんの音?」
目を擦りながら体を起こし木製の窓を開ける、開けた途端に熱気が部屋の中に充満する、真夜中のはずなのに外は何かに照らされており、すぐにその正体に気づく。
「な、なんで村が!?」
その光景に、頭が真っ白になっていると再び轟音が鳴り響く。
何かの爆発音の様な音が家の近くでなると同時に、凄まじい衝撃波が家を襲い、壁が吹き飛び、そのまま家の外に放り投げられてしまった。
幸いにも瓦礫に紛れることはなく、吹き飛ばされた先で木々に受け止められ体の至る所に擦り傷が出来る程度で済んだのだが、衝撃で動くことは出来なかった。
「あぁ、痛いよ、誰かぁ助けて!なんで、なんでこんな事にッ!」
少年の声に反応するものはなかった。
周囲ではただ、瓦礫がボロボロと崩れる音や家や草木が燃える音だけが耳に聞こえてくる。
少年は、絶望の中でただ1人涙を流すことしかできなかった。
すると、今度は村の反対側から三度轟音が鳴り響く。
その衝撃波で、木が揺れ少年は地面に叩きつけられる。
「うわぁぁっ!痛ッ!」
地面に叩きつけられ、少年は痛みと共に声が出る。
痛みに耐えながら少年は顔を上げる。
そして、眼前を見て絶望する。
そこに広がっていたのは、生まれ育った故郷の崩壊と大きく歪な形をした、悍ましいオーラを放つ、【悪魔】の様な存在が目の前に立っていた。
少年は、その光景を見て、無我夢中で森の中へと逃げ出す様に走り出した。
家族のこと、村のこと、友達のことなど全てを忘れて、ただ、身体が本能が少年をそうさせた。
逃げないと死ぬ、死にたくない!逃げないと死ぬ、死にたくない!逃げないと死ぬ、死にたくない!逃げないと死ぬ、死にたくない!
頭の中は、その絶対的な恐怖に支配されていた。
全身泥だらけになりながらも、転んで傷ができても、息が上がり肺が張り裂けそうになっても少年は 知り続けた。
そして。
ーこの日、少年は全てを失ったー
少年のいた村「オラーキ」壊滅から3日後。
呼吸を荒くして、森の中を駆け抜ける1人の【冒険者】がいた。
「ハァハァ、これぁ、どんだけいるんだよ!あのオッサン嘘つきやがったな、許さねぇからな」
彼は、外套の中には、軽装ではあるものの武装しており、少し長い茶色の髪を頭の後ろで括り、腰にはかなり古めかしい剣を携えていた。
剣以外にも腰にカバンを巻いており、その中から煙玉を取り出し、背後に投げてそのまま走り続ける。
「ハァハァ、これで、まければいいが、ハァ、どうだぁ?」
彼を追いかけていた魔物の群れは、煙幕で目標を見失い、自らの巣へと帰っていった。
追いかけていない事に気づき立ち止まり一息ついていた。
「はぁ、やっとまけたぜ、ギルのオッサンには戻ったらキレてやらねぇとな、それにしても、グリーンパラスの群れがあそこまでの数になってるのなんて聞いた事も見た事ねぇぞ、やっぱりあの人の感は当たってなのかもしれねぇな」
グリーンパラスとは、全長70センチもある大型の蜘蛛の魔物である。
身体は黒色なのだが、名前の通り緑の斑点が付いており、腹部から出る糸も緑色をしている。
毒は持っておらず、その代わり、かなり粘性の高い糸を放つため、一度捕まると、焼却以外はほぼ脱出できないとされている。
基本群れでいても、2〜4匹ほどなのだが、今回のグリーンパラスの群れの数は10をゆうに超えていた、個々がそこまで弱いわけではないため、あまり群れる必要のない魔物がここまで群れをなす数が多いのは異常、としか言えないだろう。
少し息を整え彼は森を進み始めた。
あまり物音を立てずに森を進んでいると、魔物が数匹視界に入る。
「ポブトロルが2匹か、あまり他の魔物を呼びたくねぇし、避けて通りたいけど…」
あたりを見渡すが周りは草木が道を塞いでおり、進めはするものの音が出る為結局は気づかれてしまうかもしれない。
そのままあたりを見渡していると、ふとポブトロルが2匹とも何かを見下ろしているのに気がつく。
男性は目を凝らすとそこには、痩せこけた灰色の髪を持つ子供が全身傷だらけで、生きているのかわからないまま倒れているのが見えた。
「子供!?どうしてこんなところに!」
そのセリフが出ると同時に、男性は走り出していた。
ポブトロル達は、子供の腕を掴もうと棍棒の様な武器を持っていない方の大きな手を伸ばしていた。
「仕方ねぇ」
冒険者は、腰の剣は鞘に収めたまま、右手を前に突き出し、子供に今にも触れそうなポブトロルへと手のひらを向ける。
すると、男性の手が光を放ち白い矢の形状をした魔力の塊を生成し放つ、ポブトロルの頭部に命中し、地面に1匹を倒す事に成功する。
ドォンと重たいものが倒れる音と共に、もう1匹のポブトロルが男性に気づく前に、左手で生み出した魔力の剣を模した塊で胴体を真っ二つにする。
その間、5秒とたたずに2体のポブトロルは、1人の冒険者によって討伐された。
その者は、灰色の髪の少年の手首を優しく触り脈を見る。
「ふぅ、生きてるが脈が弱いな、こりゃあ早く戻って、ミネアに見せねぇとまずいな、任務は一旦中止だ!」
そう語りかけ、冒険者は来た道を戻り森の中を駆け抜けていく。
ー2日後ー
ここは、何処だろう?
目が覚めると視界には見知らぬ天井が広がっていた。
あたりを見渡すために、体を起こそうとするが言うことを聞かなかった。
身体が重い、どうして僕は倒れていたんだっけ?誰が僕を助けてくれたのだろうか?村の皆んなは無事なのだろうか?
そんな不安や疑問が頭を埋め尽くす。
天井をボーッと見ながらそんなことを考えていると、隣から声が聞こえてくる。
「あっ、目が覚めたのねよかったぁ、無事で何処か痛いところはない?」
声をの方に目をやると、ピンク色の綺麗な髪を三つ編みにして肩にかけており、天使の様な可愛らしくも暖かな雰囲気の女性がこちらを覗き込んでいた。
「あなたが、助けてくれたんですか?」
ヒロは、か細い声で女性に向かって問いかけるも、女性は首を横に振る。
そして柔らかな口調で問いの答えをくれた。
「ううん、私じゃないわ、私の仲間にジールって言う人がいるの、あなたを助けたのはその人よ、お礼なら彼に言ってちょうだい」
ジールってどんな人なんだろう、どうして見ず知らずの僕を助けてくれたんだろう。
ヒロはその人物について考えていると、今度は女性から質問をされる。
「それよりも、貴方が生きててよかったわ、えっとぉ、お名前聞いてもいいかしら?」
「あっ、僕は、ヒロって言います」
「ヒロくんねぇ、いい名前ね、私はミネアよ、このクランの医療チームのリーダーなのよ、一応ね」
笑顔のまま、自己紹介までしてくれたミネアさんに和んでいると、聞き覚えのない言葉が何個か出てきたため質問をする。
「ミネアさん、ぼうけんしゃ?くらん?って、何なんですか?あまり聞き覚えのない言葉で」
ヒロの質問に、ミネアは、あぁと言った顔をして、笑顔のまま説明してくれた。
「そうね、ヒロくんはこの世界の状況について知っているかしら?」
「村で少しは勉強しました」
その返事を聞いて、ミネアさんの顔から笑顔が少し消える。
「話せば長くなるから、簡単に説明するわね、今この世界は、魔王誕生に伴って、あちこちで魔族や魔物が活発に動き出して、人族の村々を襲い、人類の生活圏を脅かしているの、魔王は強く元々あった村や街の7割は魔王の手によって壊滅させられてしまっているのが現状よ」
そこまでの説明を聞いて、自分の村を思い出す。
世界中であの地獄の様な、状況が作り出されているのかと思うと背筋がゾッとする。
「そこで、私達はこの災害の様な魔王を倒すべく、クランと呼んでいる大人数のチームのようなものを結成したの、そのクラン【リベラル】から戦闘要員や救助要員、物資運搬などクランに所属している人を私達は、過去の何でも屋にちなんで【冒険者】と呼んでいるの」
リベラル。
そんな組織があるのを一度だけ、父さんから聞いたことがあった。
自分とは無縁の存在だと思っていたがこうしてそのクランに救われてしまっている。
ヒロが感心して聞いていると、ミネアが言いにくそうに、言葉をつぶやく。
「まぁ、でもまだ、人数も40人ほど何だけどね、それに医療チームが私を入れて5人だけなのよねぇ、まぁ練習生はいるんだけどね」
「医療魔法って、難しいんですか?」
困った顔をしたままミネアがヒロを見つめ考えながらも答える。
「う〜ん、そうねぇ、そもそもがその人の持つ魔力器官によって、使える人とそうでない人が居るみたいなの、だからおのずと数が少なくなるのよねぇ」
魔法については詳しくないがそう言うものなのだろう、前に魔法書を呼んだ時何も理解出来ずに放り投げたことを思い出した。
それから、ミネアさんに色々聞いているうちに、すっかり日が落ちており、ミネアさんは早く寝る様にと言って部屋を出て行ってしまった。
今日は色々あったが寝る前に、色々頭の中を整理することにした。
まず、クラン【リベラル】についてだ。
本拠地は大陸中部の西寄りの場所にあり、40人ほどから構成されている組織で、主に魔王の災害【魔災】を受けた村や街を周り、支援をしたり残存した魔物や魔族の討伐を主な仕事としているらしい。
40人ほどの組織ではあるが、戦闘を行える冒険者は20人ほどしかいないらしい、ミネアさんも前は前線に立ち魔物をバッタバッタと薙ぎ払っていたとか、正直冗談だと思っているが真相は謎のままだ。
戦闘要員以外は、物資の運搬、本拠地の修繕、修理、補修にそれから、戦闘要員の武器のメンテナンスや新武器の開発など、様々な仕事をしているらしく、全員が何かしらに秀でているスペシャリストだらけらしい。
そして、1番気になっていた、故郷オラーキについてだが、結論から言って生存者はゼロだったらしい。
被害も甚大で、魔災や魔物のレベルが5段階あるなかの、レベル4の魔災であり、危険な魔物がゾロゾロといたとか…もしかしたらまだいるのかもしれない。
ミネアさんは、生き残っただけでも奇跡だと言っていた。
ジールさんがオラーキの魔災調査に向かっている途中で倒れている僕を見つけてくれたらしく本当に運が良かったと言っていたらしい。
ちなみにジールさんは、戦闘要員をまとめたパーティーが5つあり、その内1つのパーティーリーダーを勤めているらしい、かなり凄腕の冒険者らしいのだが、本人からはあまりやる気を感じられないと言っていた。
冒険者としてのレベルも段階で分かれておりレベル5に認定されているらしい、リベラルの中でもかなりの実力者らしいが、本気で戦っているのを一度しか見たことないとないらしい。
それに、いつも腰に鞘にしまったままの剣を帯刀しており、戦闘時も常に鞘に収めたままなんだとか。
またいつか、ジールさんにはお礼を伝えないといけないな、今はまた新しい任務で外に出ているらしく戻って来るまで時間がかかるらしい。
ベッドに横になりながら頭の整理をしていたが、身体が疲れていたのかいつの間にか再び眠りについていた。




