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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま
シュチェン編

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278日目⑦

 ワスフ川は長大だ。川の位置は大まかに元の世界と一致するが、その大きさはこちらではより凄まじい。川幅は2㎞くらいだろうか。その幅のまま、川の上流まで続いている。上流の方に向かえば、魔導車で何とか渡河できるのでは、と考えていたが……難しかっただろう。ウーノは自身の見積もりの甘さを反省した。


 水深までは分からないが……これだけの大河川だ。それなりの深さがあるだろう。どれだけ大型の魔導戦車でも、容易に隠すことが出来そうだ。


「さて……調査と言っても、何から手を付けるべきか。水路の時と違って、当てになる目印も無いしね」


「そうですわね。片っ端に川漁りなんてしても、明日の舞踏会には間に合いませんし……」


 どうしたものか。頭を悩ませながら、怪しい所が無いかと川を観察する。時刻は正午過ぎ。ポツポツと小雨が川面に模様を作る。少しして、ウーノはあることに気が付いた。


「ねえ、あれ見てよ。あそこ、川の岸の色が変わっているところ。普段はあの辺まで水位があるってことだよね?と言うことは、今は結構、水位が低い」


「あら、言われてみれば……川に隠すってのは、難しそうですわね。良く見れば川底が薄っすら見えますもの」


 ウーノには分からなかったが、目の良いエカテリーナには分かるらしい。手をかざして遠くを見る顔で、川を見ていた。


「でもそれって不自然だよ。だって、雨が降ってる。今は弱まっているけど、さっきまでそこそこ降ってたし。それなのに、川底が見えるかもってくらい水位が低いのは、異常だよ」


「確かに、陰謀の匂いがしますわ。関連付けられずにはいられませんわね。橋の検問所とか、警備の方に聞き込みはどうかしら?彼女たちなら毎日川を眺めてるはずですし、何か知っているかもしれませんわよ」


 と言うわけで、二人は近くの橋の検問所へと向かった。ラシスカへの金の流出を警戒した検問所。なので西の対岸へ渡る時の検査は比較的軽い。流石に大量の宝飾品と金糸、金の交換手形全てを隠し通すのは難しいだろうが、検査は手短で列も短い。警備員を捕まえて話を聞くことができた。


「え?川の水位が不自然に低い?あ、ホントだわね。なんでかしら?」


「なんだ、あんた知らなかったの?1か月くらい前、戦争が終わるちょっと前から、上流でビーバーの魔物か何かが、ダムを作ったみたいなのよ。ダムを壊すのは戦争中で忙しかったし、後回しになってたの。それで今は、渡河する奴がいないか監視するのが楽になるから、あえてそのままにされてるのよ」


 二人は警備員に礼を言って、その場を離れた。

 街角の喧騒に紛れて、顔を寄せ合いコソコソと相談する。


「ビーバーの魔物か。初めて聞いたな。魔物がダムをつくるってのは、良くある話なの?」


「まあ、たまに聞きますわね。ラシスカには少ないですけど、ポツカには多いそうですわ」


「そっか。じゃあ1か月前からって話だし、今回の件とはあまり関係ないかな」


 偶然の出来事を状況証拠的に考えて怪しんでしまっていただけなのだろう。ウーノがそう結論付けたところで、エカテリーナが待ったをかけた。


「いえ、1か月前……ウーノ、ジャガーノート型の魔導戦車を部品から組み立てるとして、どれくらいかかると予想しますかしら。わたくしは、だいたい1か月と思っていたのですけど」


「……そうだね。部品の数からして……俺だったら2,3週間で組み立てられると思うけど、こっそりやるならそれくらいかかるかもしれない。となると、逆に怪しいのか……いやでも、今回の舞踏会っていつ決まったの?平和の式典って話だし、戦後だよね。それだとやっぱり、時期が合わないんじゃない?」


「そうですわね……もしくは、戦前から計画していて、偶然式典が被った、ですわね。ジャガーノートの方は、特にイベントのカレンダーと関係なく、組みあがって……いえ、待ってくださいまし。わたくし達と入れ違いで、他の都市の自警団が、ビウクニツに訪れてましたわよね。ジャガーノートは、その来訪と重ねて襲撃が計画されていた?幸運にもわたくしたちが、一日前にそれを発見して始末した……?」


 眉間にしわを寄せて唸るエカテリーナに、ウーノは同意して頷いた。


「……確かに、ジャガーノートは完全に動ける状態で、地下水路の貯め水に隠されていたね。それに、都合よく魔導戦車の技術者が居合わせていて拘束できたし、でもそれを助けに蒸発委員会のメンバーと思われる、流れ水の民が現れた……まるで何か、計画を動かす前日に、関係者が最終確認をしていたように思えてくる。でも、それって……」


「ええ。ポツカの各都市の反ラシスカ的な自警団の、会議や訪問の日程に関与でき、かつ今回の平和の式典にも、関与している……つまり、ポツカとラシスカの関係を悪化させ戦争を煽る、最悪で最高のタイミングを準備できるってことですわ。蒸発委員会かスーラフの諜報機関か、どっちがすごいのか分かりませんけど、大した策謀家ですわよ」


 どうやら、自分たちの敵は想像以上に巨大らしい。難しい顔をするエカテリーナの肩を、ウーノは励ますようにパンパンと強く叩いた。


「とにかく今は、明日の式典と舞踏会を守ろう。やっぱりダムが怪しいね。客車の中でも話したけど、ジャガーノート型のような超大型魔導戦車は、貯めた水の中に沈めておくことに、意味があるのかもしれない。仮に無くても、魔導戦車って言う生体工業品の保管場所として、ゆっくり流れる冷たい水の中は、最適だし」


「分かりましたわ。どこかでレンタル魔導車でも借りて、そのダムの方へ向かうといたしますわよ」


 川の上流に向かうと言うことで、最新のスーラフ製魔導車、山羊型を借りることにした。馬より遅く牛より耐荷重が無いが、悪路どころか崖でもスイスイと昇れる。

 自省したエカテリーナは、ウーノに運転させて抱き着くのではなく、自分で運転してウーノが許す程度に抱き着かれることを選んだ。


 上流へ進んでいくと、人里から離れた川岸は岩も多くなり、自然の姿を見せている。まだまだ川幅も広く、たまに見張り小屋らしき建物が建っているが、しかし警備が十分とは言い難い。

 これでは小船を使って金を西から東へ持ち出すのも可能では?

 ウーノがそう考えながら川岸を魔導車を走らせていると、川辺の水の中に、何か人工物が置かれているのが見えた。川の浅い所に置かれたそれは、6角形の柱のような形状で、100m間隔程で設置されている。


「エカテリーナ、あれなんだろう?」


「ああ、あれは金の検出器の魔導具ですわよ。確か、ビウクニツの魔導具工場の入り口にも、ありましたわね。あちらは従業員が金を不正に持ち出さないように、監視するための物でしたわね。こちらでも、都市から離れた地域の監視のために、導入されてますのね」


 あの時はただの飾りかと思って気に留めていなかったが、なるほど。自分が考え着くことは、すでに対策済みなのだろう。

 改めてウーノは、自分が一人でワスフ川を越えようとしていたことが、無謀だったと思い知らされた。


 そんな会話をしつつ、川を更に登っていくことしばらく、エカテリーナは近くの茂みから人の気配を察知した。小さく聞こえる話し声や足音。スーラフの諜報員か、蒸発委員会か。ウーノに魔導車を止めさせて、警戒しつつ臨戦態勢で待ち構えていると、出て来たのはアレキサンドラと、お付きの3人、そしてタチアナだった。


「……あら、どうしましたのよ、みんなで揃いもそろって」


「それはこちらのセリフです、エカテリーナ。我々はヘンリクの行方を追っている最中、そちらに任せた魔導戦車は、どうなっているのです」


 アレキサンドラとエカテリーナが互いの現状を説明する。そんな二人を見守っていたウーノのコートの裾が、チョイチョイと引かれた。タチアナだ。


「……ウーノ兄さん、一人で出て行って、心配した」


「あぁ、ごめんね。でもやっぱり……俺が自分の手で、ミーシャちゃんを、救いたかったんだ。危険すぎるってエカテリーナに止められたなら、ともかくさ」


「一人で行く方がよっぽど危険!それに……なんでまた、アイツといるの。ねえ、ウーノ兄さん、私の方が、ミーシャさんを助けるのに、真面目に働くよ?なのに、何で……」


 何故、自分じゃないの?かつてミーシャに嫉妬したように。今タチアナは、何故ウーノの側にいるのがエカテリーナで自分では無いのかと、嫉妬した。


「……エカテリーナは、真面目にミーシャちゃんを救うために、動いてくれるよ。俺は、彼女の説明を受けて、納得した。それにミーシャちゃんが信頼した戦友だし……ごめん、タチアナちゃんは、どうしても妹みたいに思えちゃってさ、頼る気になれないんだ。守りたいとは思っても、可愛がりたいとは思っても……助けて欲しいとは、言えない」


 今までウーノは、女性をあまり拒否しない、傷つけない言動をしてきた。しかし、ここにきて、そのあいまいな態度がかえってタチアナを苦しめるのだと思うようになり、正直に、突き放すような言葉を言った。


 頼る気になれない、それはつまり、女として見れない。タチアナの、この世界の価値観では、そういう意味だった。

 妹にしか見れない、以前も同じように、拒絶された。しかしそれ以上に、頼りたくない、助けを求めようと思えない、という言葉は、深く深く、タチアナの自尊心を傷つけた。


「どうしても、ダメ、なんだ……ウーノ兄さんは、私の物には、なってくれないんだ……」


 唇を嚙み締め、俯いたタチアナは、ポツリと言葉を漏らした。


 森で助けてもらった日、ウーノに恋したあの日。あの時、私がもっとちゃんとしていれば、ウーノの好意と善意をただただ受け取っているだけでなく、ちゃんと頼りになっていれば。何か、変わったのかな?

 その後も、ただ甘えるだけじゃなくて、ちゃんとアピールしていれば、もっと女として見てもらえるように、努力していれば。

 ミーシャさんに負けるどころか、エカテリーナにすら負けるような事には、ならなかったのかな?


 ただひたすらに、グルグルと、思考が渦巻く。もう、どうにもできない過去を、思い浮かべて。タチアナは拳を握って、プルプルと震わせた。


「……なるほど。線は繋がっていたと。それでは先に進みましょう。タチアナ、何をしているのです!」


 タチアナが顔を上げると、皆が上流へと向かい始めていた。ウーノもその場に立ちすくむ彼女を気にかけて、振り向いていたが……その手は、魔導車を操縦するエカテリーナの腰に、回されていた。


「っはい!今行きます!」


 タチアナは、とにかく走り出した。冷たい小雨が降る中、寒風の中、ただただ、走り出した。



 女性陣は魔導車に乗らずとも川辺をスイスイと動いていく。魔導車で進む二人とアレキサンドラは、ほとんど同速だ。

 ヘンリクもまた、川の上流へと向かったらしい。蒸発委員会の協力者である彼が向かうと言うことは、やはり超大型魔導戦車が関連しているのだろう。ダムが目的地と見て、間違いなさそうだ。


 魔導車の後ろに乗せたウーノと情報共有を終えた後、エカテリーナはポツリと呟いた。


「……正直、お姉さまが想像以上にまともで、驚いてますわ。ウーノにもほとんど、ちょっかいかけてきませんもの」


「……そうだね」


「なんですのよ今の間は!わたくしが居ない間に、何かありましたの!?」


 魔導車の上で、姉に聞こえないようにボソボソと話していたエカテリーナだが、ウーノの不自然な間に声を荒げてしまった。

 耳が良いらしいアレキサンドラはその会話が聞こえて来たのか、ニヤニヤとして魔導車と並走しに寄って来た。


「くくっ、私の相手をするように誘ったのですよ。刻印が反応しない範囲で奉仕をすれば、川を渡る助力をしてやると、ね」


「んなっ、ちょ、ウーノ!?どう返事したんですのよ!」


「いや、それは……」


 言いよどむウーノに、エカテリーナはドギマギしながら手綱を揺らした。


「返事を聞く前に、ああなってしまったのですよ。しかし今の様子からすれば、期待はあったのですか?くくっ、どうです?あの時、私と戯れる気はあったのか?」


 舌なめずりするアレキサンドラに、ウーノは言葉を探しながら口を開けた。


「確かに……金の警報器なり、この川幅なり、自分一人で何とかしようとしていたのは、無謀だったように思えます。ヘンリクの提案は、断るつもりでしたし。戦争を煽るような組織に加担してミーシャちゃんを助けるのは、今まで手伝ってくれたエカテリーナへの裏切りにも思えたので……それでも、俺はアレキサンドラさんの提案も、断ったと思います。仮に、物事が上手くいかなかったとしても。ビウクニツのラシスカ大使館の大使様が、捕虜の待遇や処刑までの期限について、対処してくださると確約してくださいました。時間があるなら、俺一人でも……妻との貞操を守って、前に進んで見せる、そう提案を断っていました」


 きっぱり言い切ったウーノに、アレキサンドラはつまらなそうな顔をする。そして姉のその表情とウーノの言葉を聞いていたエカテリーナは、もう満足も満足で胸がいっぱいだった。


「オーホッホッホ!ああ、最高ですわね!ウーノ、これだからわたくしは、貴方に惚れてしまいましたのよ!何たる純愛、何たる貞操!その上に、わたくしへ配慮して、もう片方の提案も断ろうとするなんて!ああ、今の言葉だけで、1年はオカズにできますわ!それに加えて、お姉さまのその表情!こっちもこっちで、1年はご飯の方のオカズに出来ますわね!」


「ご飯の方が本来のオカズなんだけどね」


 ウーノの突っ込みもどこへやら、エカテリーナは高笑いをしてご機嫌だ。


「やれやれ……エカテリーナ、その耳障りな笑いを止めなさい。そうですね、止めてくれるなら、刻印が反応しない奉仕の、具体的な内容を教えてあげても良いでしょう。お前だって、その男に気をやっているなら、知っておいて損は無いはずです」


 アレキサンドラは、挑発的な笑みを浮かべて提案した。

 妹の恋路を応援する善意、では無い。歪ながら強固な二人の関係を、かき乱してやろうと言うある種の悪意だ。


 しかしその提案に、エカテリーナは即答した。


「知りたくもありませんわ。わたくしには、ウーノとミーシャが愛し合っているという事実そのものが、最高の娯楽で快楽ですもの。そこに横入りするための知識なんて、不要ですの」


「……好意を寄せる男が、他の女と愛し合っていることが、娯楽で快楽?歪んでいますね、我が妹よ。これが噂に聞く、異端中の異端、『寝取られ派』ですか……」


「何言ってますのよ。大切な戦友のミーシャと、同じく大切な戦友で大切な殿方のウーノ、大切な二人がイチャコラしてる様を喜ぶのは、カプ厨ですわよ、正しくは」


 エカテリーナは魔導車を操り、アレキサンドラも巨岩をジャンプして踏み越えながら、性癖について言葉を交わした。

 良く噛まずに喋れるな。ウーノは呆れ半分、関心半分で思った。ちなみにウーノが長台詞を話すときは、エカテリーナは巧みに鞍を掴んで動かして揺れを軽減していた。人力ショックアブソーバーである。


 寝取られだのカプ厨だのの会話を、二人は恥ずかしげも無くする。後ろのいるタチアナたち付き人も聞こえているだろうに、変な顔をすることは無い。

 この世界でも、女性の方が色恋に興味があるのは変わらない。そしてアモリア教は、愛と純潔の女神、アモリアを崇拝する宗教。経典の内容も、愛の在り方や恋についての内容がほとんどである。

 性癖談議はすなわち、宗教的議論なのである。恥じらうものでは無い。


 そんな風に話している間に、噂のダムが見えて来た。ビーバーの魔物が作ったというそれは、木の枝の代わりに削りだされた岩で形成された、見事な物である。高さにしても、5~6mはありそうだ。それが轟轟と壁を越えて、水が流れ出ている。しかも上流に行ってもまだ、川幅は1km以上はある。

 その川をせき止める、建物2階建て分ほど高さのダムを作る。この所業、魔物だけの仕業では、無いはずだ。


 一行がそのダムの威容に驚いていたところ、アレキサンドラだけは別の場所を見ていた。

 それに気が付いたエカテリーナが視線をやると、彼女は目を丸くした。


「ウーノ、見えますかしら、あの人影!あのヘンリクとか言う彼と、ビウクニツで一度は捉えた、二人組の殿方が居ますわよ!」


 エカテリーナの視線の先の対岸を見ると、薄っすら人らしい姿が見える。あれがエカテリーナには判別できるらしい。


「何か言い争っているようですが……内容は分かりませんね。リベリカ、風を吹かせなさい、音をこちらまで届けるのです。ミディは氷で収音板を、ポリーナは水を張って、周囲の雑音を吸収なさい」


「「「はい!」」」


 魔法使いの条件である、魔法剣。それを作れずとも、ある程度の魔法なら、だいたいの女性が使える。彼女たち3人が付き人に選ばれたのは、諜報に役立つからなのだろう。手慣れた連携で、3人は遠くの話し声を拾うために各々が魔法を行使した。


 その結果、ダムから流れ落ちる水の音に邪魔されず、1㎞以上は離れた対岸の話し声が、聞こえるようになった。


「エライ勝手な真似しやがってからに!実行は明日って予定やったやろがい!」


「過ぎたこと、ネチネチ言うんじゃ無いネ!イッヒだって不本意ヨ!」


「……決断、必要、博士、ヘンリク。結論、まだ?」


 聞き覚えのある奇妙な訛りのポツカ語。例の老人で間違いなさそうだ。片言のポツカ語は、あの時はスーラフ語を話していた中年男性の方だろうか。そして、ヘンリクの訛りのあるポツカ語も。


「ふむ……やはり、明日何か仕掛ける予定でしたか……ウーノに色々喋ったせいで、計画を前倒しにしようと、揉めている、と言う所でしょうか?」


「その様ですわね。今なら、気が付かれてないようですし……でも、どうしましょうかしら。ダムの上も、流れが急ですわね……」


 エカテリーナは対岸にいる3人に、どう攻撃を仕掛けるべきか悩んでいた。ダムの上は流れ落ちる水で激流だ。足場にするには不安が残る。


「あー、俺が持ってる、氷の防壁の魔導具……はさっき使ったんだった。まだ充で……充魔できてないしなぁ……」


 ウーノもアレコレと魔導具をひっくり返すが、なかなかアイデアは浮かばない。そんなことをしている間に、向こうもこちらに気が付いてしまった。盗聴用に氷の壁やら水やらを広げているので、向こうからでも目立つのだろう。


「つけられ取るやん自分!どないすんねん!?」


「だーかーらー、最初ッカラ言ってるヨ!アジ・ダカーハ起動ネ!この3人デ、起動!」


「……想定外、多し、されど、非常時。ヘンリク、支持」


「だぁー!しゃあない!アジ・ダカーハ、起動!」


 どうやら行動が決まったらしい。物理的な距離の壁に阻まれて、どうにもできないでいるうちに、彼らは何かゴソゴソし始めた。


「エカテリーナ、今聞こえてきた、アジ・ダカーハって……」


「50年前、ガマニア連合がやっとこさ討伐した、強大な魔物ですわね。ジャガーノート型の次は、アジ・ダカーハ型ってことかしら……」


 一行が警戒して見守る中、ダムの水面から、巨大な影が上がってきた。3つ首で、水面に浮いた油膜のような虹色の虹彩を放つ鱗の、大蛇。


 アジ・ダカーハ。

 ガマニア連合という一つの国家が総力を挙げ、海を染めるほどの血と数百年の長い歴史をかけ、とうとう葬り去った歴史に名を遺す強大な魔物。その似姿が、ダムの水面に大きな波を立てて、そこに現れた。

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