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54話 黒い機神 再び

「追ってこないな」


 ヴァルナの操縦席でごちる聖。もぬけの殻となったネストの中層に降り立った彼は、余りにも静かな上層に違和感を零した。


「つまり、許さないけど協力もしない……かな」


「あるいは諦めて静観しているか、の何れかでしょう」


「あぁ、そっか」


 エルザとコロの予測に聖はうなる。確かに真正面からぶつかったところで彼に勝てる相手など地球上に存在しない。普通に考えれば諦めるか成り行きを見守る以外の選択肢は無いと、ややあって聖も気付いた。


「しかし、この燦燦(さんさん)たる有様での調査は難航しそうですね」


 ぼやいたコロが周囲を見回す。視界に映るのは戦禍に崩壊したネストの惨状。無数の瓦礫がうず高く積み上がり、天井から壁から床に至るまでひび割れが走る。何かの拍子に崩れ落ちてもおかしくない危険な状態、その中を二機が進む。


 グラ


 と、ネストが大きく揺れ動いた。上部から更に無数の瓦礫が落ち、床を激しく打ち付ける。かと思えば、今度は足元から大きな衝撃が走った。空中に飛び上がる二機が足元を見下ろすと、先程まで足場のあった場所には何もなく、遥か下まで続く闇が口を開けていた。崩壊の余波で中層と下層を仕切る床が抜け落ちてしまったようだ。ぽっかりと開いた大きな穴の先は、(エルダー)が居た下層。期せずして繋がった道を辿り、再びその地を踏む聖達。が――


「穴!?」


「ココが一番下じゃなかったのか!?」


 下層に、大きな穴が開いていた。下層の更に下。ぽっかりと開いた深淵、その奥には見慣れぬ機器が見え、その中央に灰色の月が静かに横たわっていた。予測は正しく、ネストが裏地球と地球を繋いでいた。独断に意味はあった、と聖もエルザも胸を撫で下ろす。疑問の一つは解決した。


「予想はしていたけど」


「ココから裏地球のヴィルツを呼び込んでいた」


「だとしても、おかしいよね?」


「えぇ」


「そうですね」


 後は制御と破壊さえ出来れば、と周囲を見渡した聖が疑問を零した。エルザとコロも肯定する。おかしい、とは裏地球で見た穏やかなヴィルツの性格。地球で暴れまわるヴィルツが裏地球から灰色の月を使い転移したとするならば、どうして人間を集中的に狙う残虐(ざんぎゃく)性を持つに至ったのか。少なくとも視界内にヴィルツの性格に変化を促すような何かは存在しない。だが、疑問はそれだけではない。


「あの灰色の月がそうさせるのかな?」


「いえ。それならば旦那様やエルザさんにも影響がある筈です」


「私にくっついて来た幼体も、ね。だとすればネストとは違う要素になるけど」


 コロが否定し、エルザが別の可能性を示唆しかけたその時――


「灰色の月が!!」


「輝いて!?」


 灰色の月が不気味に鳴動、更に中から黒い影が飛び出した。


「アレは!?」


「裏地球で見た!?」


「アイツが!!」


 想定外。活性化する灰色の月から残光を纏い飛び出してきたのは裏地球で一度交戦した正体不明の機体。その性能は未知数だが、少なくとも鐵では歯が立たないと一度の交戦で理解したエルザは動かない。行動は正しい。彼女の出る幕ではない。


「お前はッ!!」


 エルザを庇うように聖が前に飛び出した。無論エルザを守る為だが、それ以上に直感した。この正体不明の機体が一連の鍵を握っていると。


「お前は誰だッ」


 聖の怒号に、漆黒のヴァルナは何も語らず。


「お前が関係しているんだなッ!!」


 さらに語気を強める聖。が、やはり無言。


「いい加減にしろよッ」


 語気を荒げる聖は漆黒のヴァルナ目掛け突撃、頭部と腕部を捕まえる。更にそのまま全開で機動し続け、中層を支える柱の一つに叩きつけた。振動が柱を伝い、中層下層全域に広がる。


「全部話せッ、お前は何だ!!この世界は、あの灰色の月は何だッ、何処でヴィルツは月の存在と制御方法を知ったんだ!!答えろ!!」


 柱にめりこみ、動けない漆黒のヴァルナに聖が疑問を叩きつける。今の世界に疑問を持つ声は少ない。裏地球、灰色の月、ヴィルツに関する様々な情報をもつ黒鉄重工や各国のトップは地球の支配権と利益しか見ておらず、それ以外の大多数は現実を把握する情報を知る立場にいない。今、動けるのは自分とコロ、エルザだけ。


「何を焦っているんだい?」


「何ッ!?」


 漸く語り出した漆黒のヴァルナが、聖の深層を看破した。誰も動かないなら己しかいない。自分しか世界を救えない。自分しか、自分だけが……そんな気持ちに背中を押され、気が付けば止められない程に焦っていた心情を無機質な声が抉った。


「君は分かり易くていいね」


 今度は煽られた。心を掻き毟られた聖の反応が鈍る。


「本来ならもっと君と語らいたいんだが、生憎と色々と立て込んでいてね。だから」


 無機質な声に、僅かな熱が籠った。直後――


「グゥ!?」


「旦那様!!」


「だ、大丈夫。だけどいきなりッ」


 漆黒のヴァルナが、純白のヴァルナを攻撃した。が、防御フィールドによりダメージはゼロ。突然の事に驚きながらも体勢を整えた聖は即座に反撃する。周囲を舞う龍を刃に変換、飽和攻撃を行う。仄暗い下層に無数の剣閃が走る。触れた全てを斬断する白い刃の嵐。時折、柱が崩れ落ちる音が下層中に反響する。が、漆黒のヴァルナは華麗に、全てを回避。只の一撃として掠りもしない。


「コロ!!」


「はい、旦那様!!」


 ならばと聖は速度を上げる。白い刃を集め、巨大な剣を作り上げ、ありったけの力を籠めて振り抜く。しかし、当たらない。剣が空を切る度に溢れ出るエネルギーの奔流が周囲を揺さぶり、傷つけ、下層を激しく振動させる。


「ハハ、暴れすぎだよ。このままじゃあお嬢さんが圧死してしまうよ?」


 未だ余裕を見せる漆黒のヴァルナは、一息置くと無数の斬撃の中を滑る様に潜り抜け、勢いのままに蹴り飛ばした。防御フィールドこそ抜けなかったが、機体が激しく揺れ動く。動揺を誘われ、意識が逸れる僅かな隙を漆黒のヴァルナは見逃さない。自身も防御フィールドを展開、強引に押し込み始めた。


「くッ」


「さて、君には少しだけご退場願おう」


「何ッ!?」


 退場。漆黒のヴァルナは現れた目的を端的に告げると自身諸共にヴァルナを灰色の月へと押し込んだ。瞬く間に月に呑まれ、消失する二機のヴァルナ。


「ちょっと聖クン、返事をしなさい!!」


 動揺するエルザ。が、叫べども灰色の月は不気味に鳴動するばかり。


「なら、私も」


 意を決し、己も再び裏地球へと向かう覚悟を決めるエルザ。が、ガクンと一度だけ大きく機体が揺さぶられると、それっきり動かなくなった。


「な、何!?」


 何かが起きた。しかしその何事かが分からない。鐵はまるで電源が落ちた玩具の様に機能を停止した。さながら人型の棺桶となった鐵に、広大なネストの下層にエルザは一人取り残された。

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