プロローグ ~ 初陣 其の2
2035年1月10日
闇の中に映像が揺れる。真冬に流れる寒風にサァ、と木々が揺れ動く。空を見上げれば満天の星空が変わらず煌々と世界を照らす。視点が映像に戻る。空中に浮かぶ映像が不規則に明滅を始めた。ニュース番組の中継映像だ。
映像はここ数日、繰り返し放送されている「正体不明の白騎士」の映像を流し続ける。より正確にはこの映像、この番組だけではなく国内外全ての番組が報道を続けている。画面の端では「北海道危険域、殲滅完了」のテロップ。映像は手ブレのまま、崩れ落ちる黒い巨影――ヴィルツたちを追いかける。雪煙の向こう、カメラが一瞬だけ白い輪郭を捉え、すぐにピントが外れた。
「……ざ……こ……これが……例の……」
ノイズ混じりの音声が、場の緊迫をさらに煽る。噂は日本中を駆け巡り、海外メディアでも同じ映像が繰り返し流されていた。映像が消失した。闇の中、人影が夜空を見上げた。満天から降り注ぐ星空の淡い輝きが、闇の中に人影の正体を照らす。少年だった。
「……緊急……報……」
少年の持つ携帯端末が淡く輝き、再び闇の中に映像を切り出した。慌ただしく動くカメラが速報映像――北海道の雪原に蠢くヴィルツの群れを捉える。揺れ動く音声が辛うじて「緊急警報」を告げる。震える声はノイズに途切れながら、やがて夜の闇に吸い込まれていった。
一瞬の静寂。
「頼む」
夜の空に少年が何かを願う。直後――闇夜を切り裂き、巨大な流星が少年の元に飛来した。闇に、流星が輪郭を描く。純白の鎧をまとった巨大な騎士の形状をした兵器。
「ほ、本当に!?」
疑惑を含んだ声。無言で見下ろす兵器は片膝を折り、操縦席のハッチを開く。乗れ、と無言の要求に少年は地面を蹴り、腕部、ハッチを立て続けに蹴り上げ、操縦席へと乗り込んだ。操縦席に座る少年。仄暗い操縦席に無数の輝きが灯り、闇の中に少年の姿を浮かべる。
「また、また頼める……か?」
そんな声を置き去りに少年は闇夜に消えた。数分後――中継映像が大きく揺れ、視界を裂く閃光がフレームに飛び込む。
「うわっ!……おい、今の……」
「あれは、白騎士か?」
「本当に!?」
記者の息が乱れ、レンズが夜空を仰ぐ。そこから落下する白い影。ズームしようとするがピントが合わず、やっと輪郭が映った瞬間、轟音を伴う衝撃。木々がしなり、雪が舞い上がり、道路が、ビルが、家々が揺れ動く。純白の鎧を纏った騎士が、絶望に染まる戦場に出現した。歓喜、感嘆、驚愕――様々な感情が渦を巻く戦場に出現した騎士は、世界の誰一人として押し返す事さえ出来なかった不俱戴天の敵を単機で全て撃破すると再び銀世界へと消え去った。




