61-旅を終えるという選択肢
レイニットの戦闘から三日が過ぎた。
戦闘時、彼女が魔法で国から音を消したため、国民は大混乱に陥ったが、それは敵軍の魔法使いの仕業だと公表された。表向きには王様が取った焦土作戦が成功し、まんまと誘き寄せられたヌラ軍を伏兵で返り討ちにしたことになった。焦土作戦によって都の近くに避難していた人たちはウェルズ軍による村の復興がある程度済み次第、返されるらしい。何だかんだ、全ては丸く収まった。
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私の旅はここで終わるかもしれない。なぜならレイニットたっての希望で、宮廷絵師にならないかと誘われたからだ。
宮廷絵師になれば生活に困らないどころの話ではない。ただ適当に絵を描いているだけで贅沢三昧、散在し放題だ。もう野宿をしながら危険な旅を続ける必要はなくなる。
ちなみに宮廷絵師に誘われたことを師匠に報告した際は、「そうか、よかったな」とだけ言われた。実にそっけない。
そしてレイニットの戦闘から四日目の朝、師匠は王宮を出て旅を再開した。
「……で、どうして俺について来てんだよ。宮廷絵師になるんじゃなかったのか?」
「宮廷絵師に誘われはしましたが、なるとは言ってませんよ」
美味しい日差しが降り注ぐ草原の街道を、いつもと同じように師匠と並んで歩く。
「勿体ないな。芸術の都の宮廷絵師なんて、そうそうなれるものじゃないのに。どうして蹴ったんだ?」
「原因はレイニットですよ」
思い出すだけでも忌々しい、あの記憶……。初めて彼女を見た時、不覚にも美しいと思ってしまった自分……。
「あのツェリか。またどうして?」
「不覚にも私は、彼女を美しいと思ってしまいました。私と同等か、それ以上に……。それが悔しくて悔しくて……。まあ? 私も本気を出せばもっと美しくなれますけど? ツェリは不老じゃないですか。卑怯じゃないですか」
「卑怯?」
「今はレイニットの美しさに対抗できても、私は何時か年を取ります。流石の私でも、加齢には勝てないでしょう。しかし、レイニットは不老で、その美しさは永遠のもの……。何千年か後には、そのさまを身近で感じることになるんですよ……。耐えられませんよ。鬱で即効で樹木化してしまいます」
「それでか……。あんたらしいな」
ヒュオオオオオオ……。
山脈から吹き下ろす風が冷たい。
「別に宮廷絵師になって、充分稼いでから辞めてもよかったろうに」
「え、何か言いました?」
風の音でよく聞こえなかった。
「いや、何でもない。ところで、ずっと聞きたいことがあったんだが……」
「……?」
師匠は次の言葉をなかなか発さない。言うのを少し躊躇している?
「今の生活、どうだ?」
「そんな質問ですか。勿体ぶるんで、何を聞かれるのかと思いましたよ。そうですねえ……」
私は思い返す。ベルメグン公国での生活と、師匠と出会ってからの生活を。
ベルメグン公国では働けど働けど、生活が良くなることはなかった。しかし、命の危険はなかった。一方、師匠との旅は大変な上、何回か死にかけた。岩の魔物と戦ったり、竜と対峙したり……。しかし、師匠の下で異術を学べば、いつか私も異術師になれる。そして金儲けができる。総合的に判断して、今の生活は……。
「まあ、悪くはないんじゃないですか?」
これからも私は師匠との旅を続けていく。師匠は基本的に知識は見て覚えろってスタンスだから、私が一人前の異術師になるのには何年、いや、何十年もかかるだろうけど。まあ、それでもいい。時間はたっぷりある。




