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第二十話 作戦概要

拙作を読んでくださる方々、フィードバックまでしてくださる心優しき皆様、いつもありがとうございますm(_ _)m

 谷口が取り出してきたのは、くすんだ青色のどでかいリングファイルであった。


「わっ、分厚い……」


 マウスがボソッと漏らす。


「ああ。日陰者戦線が立ち上がる前から俺が仲間とシミュレーションしてきた内容だからな。なにぶんデータに残すとコピーされそうなんでアナログな保存方法を使っている」


 谷口はファイルを開いて目的のページを目指して繰りながら、俺たちに向けて言う。


「それじゃあ、頼る当ても含めて、今後の方針について話し合いたいと思う」


 思えば、マウスを仲間に引き入れて以降のことは一切話されていなかったな。


「具体的にどうするんです?」


 目的のページを見つけたのか、谷口はこちらに開いたファイルを向けた。そこには、仔細な表が載っている。日付と人数のようなものが見てとれた。


「こいつは俺の仲間が集めてくれたデータだ。見ての通り、軌貴島当局の連中と訪問者は定期的に連絡を取り合っている」


 そこで、だ。と言って谷口はファイルから視線を上げる。


「まずは外界との連絡手段を確保したいと思ってる。こっちだけじゃできることに限界があるしな。そのために、古鳥が掴んできた情報が使える」


 谷口から合図されて、桂井がホログラムを立ち上げた。


「こいつは見ての通り、軌貴島が有する無駄にでかいホテルだ。そこで、次の『外の人間との取引』が行われるらしい」


「取引?」


「まあ、古鳥からの情報を聞く限りは次のターゲットの打ち合わせとかだろうな」


「なんで祈祷師団の団長が管轄外の愛の戦士隊の話を仕切ってるのか、私には甚だ納得できないわ」


 古鳥が眉に皺を寄せる。


「おもに俺たちを混乱させるためだろうが、真意はわからん。とにかく、この作戦に向けての体力作りとシミュレーションをしたいと思っている。そして足の勧誘もな」


「足って、どうするつもりなんですか?」


「ま、それは後で説明する。まずは作戦の内容についてだ」


 谷口はそう言って、俺たちにリストバンドのようなものを配り始めた。


「先生、これ何ですか?」


「シミュレーションのために必要な装備だ。桂井、はじめてくれ」


「了解」


 桂井はもう何かしらの準備を終えていたらしく、パソコンのエンターキーを音高く叩いた。


 瞬間、世界の輪郭が瞬時に崩れ去り、次の瞬間には黒い、巨大な建物が眼前に迫ってきていた。


「な、なんですかこれ!?」


 俺にとってはこれこそ意外だったのだが、古鳥が仰天している。これを見せられたのははじめてだったということか。


「直接作戦に関わるメンバーが揃わないことには、訓練を始めることもできないからな」


 俺の思考を読んだように谷口はこともなげに言い、古鳥に説明する。


「俺たちの体は現在、桂井が改造した島の観光用レプリカと接続している。ほら、当局がオープンソースにしてるやつがあるだろ。あれをいじったんだ」


 それなら聞いたことがある。当局が公開するサービスの中で最も広く使われているのがこれであり、交通状況のリアルタイムチェックから異端審問委員会による防犯、果ては愛の戦士隊の訓練にまで用いられている。


 こいつによる、特に戦闘訓練専用のリモコンを使った物理現象の再現度は大したもんだ。アサルトライフルの弾道からナイフで刺された感覚までリアルと遜色ない。訓練しながら、どこからが仮想現実なのかわからなくなることがままある。一定以上のダメージを体に受けることで強制的に回線が切断され、気絶してはじめて気づくなんてこともザラだ。


 ただ、それなら妙なことがいくつかある。


「なら、俺たちの座標はなんで現在位置と同期されてないんだ?」


「その辺は桂井が軽くいじってくれた。あくまで作戦での流れの確認ができればいいだけだからな。本番はあいつらが使ってる回線にダイレクトで侵入する。んで、警備員やら異端審問委員やらをレプリカの島にご招待して薙ぎ倒していく感じになる」


 なるほど。それなら相手を傷つける心配なく銃を使えるというわけだ。


「作戦の説明を続けるぜ。現状、協力者が得られる保証はない。よって、俺たちがこそこそ隠れて侵入せにゃならん場合を想定した訓練プログラムになっている」


 谷口は俺たちの目の前で大口を開けている正面玄関を指した。


「とりあえず、作戦の第一段階で俺は狙撃ポイントになっているビルの屋上へ移動し、影森はあそこから侵入してもらう。想定される警備はこんな感じだ」


 谷口がリストバンドに何かを入力したかと思うと、筋骨隆々のハゲグラサンが3人ほど現れた。手前の扉前に二人、奥にもう一人、エントランスホールにもちらほら見える。


「へ?」


 思わず間抜けな声が出る。


「桂井がプログラムを実行したら、即座にこのマンションの敷地内にいる連中はレプリカの中だ。建物を崩さない範囲で爆発物を使っても構わん。仮想空間とあっちゃ、相手も容赦しちゃくれないだろう。どんぱちやって、古鳥が侵入する隙を作ってくれ」


「俺が使える装備は?」


「万全を期したいところだが、流石に現行の愛の戦士隊レベルとまではいかないな。飛行するにしても、旧型の安全装置しかない。剣も同様だ。最新型は監視の目が厳しいらしくまだ入荷できてない。大丈夫か?」


「剣と安全装置のバージョンは?」


「2.3だ」


「誤差の範囲ですね。その程度なら問題になりません」


 2.3といえば俺の最後の出動の三つ前に使われていたバージョンだ。急な方向転換に対応できない、または刃の生成に少々時間のかかる型ではあったが、俺も一時期これで大空を飛び回り、大陸に切り込んでいたのだ。差し支えはなかろう。


 なんでもないことであるかのように思い出して少々の吐き気を覚えながら、俺は頷いた。


「影森が陽動をおこなっている間に古鳥は裏口から侵入。桂井のサポートを受けながら、会合場所となっている605号室を目指してくれ」


 人がいなくなり次第部屋に侵入、やりとりのデータを直接奪うつもりらしい。


「先生は?」


「お前と一緒に敵に攻め入る。防刃服を持つ奴を中心にに削りを入れるのは俺の担当だ」


 確かに防刃服持ちのやつがいたら面倒だ。バックアップがいることはありがたいと言える。


「なるほど、理解しました」


「作戦の概要書は後で発行する。作戦の各段階の時刻はそこに記しているから、よく目を通しておいてくれ」


「了解」


 マウスは少し考えるような素振りをした後、谷口に質問する。


「私は何をすればいい?」


「あいつらを誘導する際に、お前の声が必要になる。仮想空間の通信機能を利用して、ターゲットを撹乱する役割を頼みたい」


「わかった」


「それじゃあ次に、協力を求める奴の情報について説明する。桂井、仮想空間を解除してくれ」

忖度なきお言葉、お待ちしております!

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