第二十一話 協力要請
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谷口はファイルのページを繰り、真新しい紙に貼り付けられた写真を見せた。中心部がタイヤになっている向日葵のエンブレムと、チンピラみたいな顔をした、目つきの悪い男の写真が写っていた。細々とした文字を追っていくに、こいつは特定の組織とそのリーダーについて解説しているページだということがわかってきた。
「うちの学校にもメンバーがいるあのデコトラの連中……本人たちは向日葵革新隊と自称しているあいつらを引き入れる」
今、とんでもない言葉が聞こえてきた気がする。
「あの人たちをですか?」
谷口が大きく頷いたのを見て、俺は絶句した。詳しい実態は俺も知らないが、島のどこかで異端審問委員と大規模な抗争をしていたことは知っている。
「一時期ニュースの話題を掻っ攫った事件は記憶に新しいね」
桂井も当時のことを思い出しているのか、何度か頷く。
「確か、デコトラの人たちが多大な損失を出して以降は、なりを潜めているわよね」
人差し指を唇に当てて思い出すジェスチャーをしながら、古鳥が頭の中から情報を引っ張り出した。
「ああ。今はな。だが、あいつらは活火山みたいな連中だ。いつ動き出してもおかしくない。実態はあいつらも日陰者戦線と同じくレジスタンス組織で、学校内外にデコトラを所有する奴らを幹部として島中に構成員が存在する。影森と古鳥を乗せた護送車を襲撃したのも向日葵革新隊だ。やり方は過激だが、実行能力の高さは本物だ。仲間にできりゃ心強いことこの上ない」
「そんな危険な人たち、仲間にできるんでしょうか?それに、あまりに引き込む規模が大きいと、比例して制御が難しくなりそうなもんですけど」
俺の質問に対し、谷口は頷く。
「ああ。だから人員の部に協力を要請する形になるだろうな」
「手を取り合える確率は高いはずだよ。彼らも彼らで、当局には不満があって団結している様子だし。構成員に学徒が多い関係上、主に恋愛関係の規制に対する反発みたい」
桂井が分析結果を淀みなく読み上げてくれる。
「具体的な材料は?」
「マウスから受け取った情報の一部と、俺たちの存在をリーダーに開示する。協力を求める材料として俺たちが持ち合わせてるのは、今のところ行動指針と情報だ」
「他には?」
谷口は肩をすくめた。
おいおい、めざましく心強い材料だな。
「ま、つまるところ交渉力次第だ。何度か俺でコンタクトはとっているが、なにぶんターゲットは大人相手だと凶暴になりすぎるきらいがあるようでな。冷静に話を聞くって段階にすら行かなかった」
ファイルの中からこちらを睨め付けているチンピラの顔を改めて観察する。確かに、素行が良さそうには見えない。
「じゃあ、古鳥は?」
今度は古鳥が肩をすくめる番だった。ただしこちらは、特大のため息のおまけ付きである。
「私も全然ダメだった。あー、ほら。話題が話題じゃない? 人に話を聞かれる心配がない場所に誘導しようとしたのよ。そしたら撥ね付けられちゃって、交渉の席にさえ着けなかったわ」
多分古鳥の場合は、祈祷師だからだろうな。
「それじゃあ、明確に向日葵革新隊と敵対してる訳じゃない俺が向かってみればワンチャンうまくいくかもな」
「私も同伴する。喋るのは得意」
マウスの無気力なテンションで果たして勧誘できるのだろうか。というかそれ以前に、トランスはどうするつもりなのだろうか。
「当局の目がどこで光ってるかわからないぞ」
「いざとなったら頼んだ」
そこは人任せなのかよ。信頼しているという意思表示かもしれないが。
「先生、情報はどの範囲まで喋っていいですか?」
「記憶凍結に関する話題、そして日陰者戦線のメンバー情報が特定できるような内容の会話はできる限り避けてくれ。あと、チャンスだと思ったら迷わず食いついていい」
「了解です」
◆◇◆◇◆◇◆
「で、やってきたのはいいが一体どうするんだ?」
名前や血液型などの基本的な情報に加え、住所もよく行く場所も谷口がファイリングしてくれていた。そのため、ターゲットこと市川颯の居場所を発見するのにそこまで時間はかからなかった。
俺たちは建築資材の裏に隠れながら、彼の姿を確認することができた。住宅区の外れにある建設予定地の敷地内に、一人で座り込んでいる。
地毛であろう肩ほどまである金髪はハチマキで視界を遮らないように調節されており、その下で切長の目が光っている。筋肉質な半身を赤いド派手な法被で包んだその姿は、えもいわれぬ迫力を纏っていた。なかなかに美形な男だが、軌貴島の外の暴走族みたいな格好である。
はてさて、この暴走族こと市川にどのように話しかけたものか。
「私に任せてほしい」
ただでさえ小さい声を低くし、ぎりぎり聞き取れる音量を保ちながらマウスが言う。
「あのガチガチの暴走族に対して何か策が?」
「まあ見てて」
マウスは上着の中から厚底の靴や針金などをマジックショーのように落とし、ガサゴソと変装を始めた。
数分後、俺の目の前に立っていたのはどこにでもいそうな中学生だった。ショートボブの黒髪に黒縁のメガネをかけて、の良くも悪くも、目立った特徴のない姿である。
「じゃ、行ってくる」
唐突にマウスはそう言うと、さっと飛び出して行った。
「な、なんだお前!?」
「私、あなたの生き別れの妹です!」
「待て待て待て!」
思わず隠れ場所から出て行ってしまった。
結局マウスがあの調子で話しかけてしまったので、後から出て行った俺は猛烈な警戒の目を向けられることになってしまった。
「聞きたいことは山ほどあるが……」
「はい、何なりとお答えします」
交渉に慣れていない俺としては、下手に出てご機嫌取りをする程度しか思いつかなかった。戦略もへったくれもありゃしない。
「ひとまず、なぜ俺の居場所がわかったのかを聞こうか」
「……こっちの方で、調べさせてもらいました。どうしても、あなたたちに協力を仰ぎたいと考えていまして」
できる限り神妙な声で答える。気温のせいばかりではなく、額と背中から汗が噴き出してきた。
「調べた、ね……。あんたたち、うちがどういう毛色の隊かってのは、わかってるのかい?」
「ご評判はかねがね。あなたのワンマンで運用されているというよりは、チームの一人一人が独断を読み合って動いている組織だと伺っています。連携や武器の扱いも優れており、何より」
ここでちょっと、市川の目を見てみる。依然、俺を見る目は冷たいままだ。
「組織のアクティブな性格に対して、リーダーが不殺主義ということも」
「アクティブか。言葉は選ばなくたっていいんだぜ。大立ち回りが俺たちのウリだ」
実力組織のリーダーは、俺の言葉をさもおかしそうに反復しながら身を乗り出す。決してこちらの話に対して肯定的という感じではなく、こちらを値踏みするかのようなのめり方だ。
「んで、聞きたいことがもうひとつ。なんで俺たちが抗争してまで当局に逆らったか、お前たちにはわかるか?」
まるでRPGだ。ほら、主人公の選択でキャラクターの反応や結末が変わるRPGで、いかにも「これ重要ですよ」「取り返しつきませんよ」みたいな雰囲気が漂ってくる、あんな感じのシーン。
あのピリピリした感じが、鉢巻越しに伝わってくる。次の俺の一言で、状況はどっちかに大きく動きそう、そんな予感がしてしまう。
「俺たちのボスは知ってるかも知れません。でもぶっちゃけ、俺にはわからないです。組織に入る前は、なんとなく怖くて避けてたので。まあ、一番はやっぱり、知ろうとしなかった俺の怠慢なんですけどね」
「落ち度を認めればいいってわけじゃねえぞ。何度も断っている通り、俺はお前たちに協力する気はない。俺たちは俺たちのやり方を貫かせてもらう」
「あの、ひとつだけ、あなたたちに共有しておきたい情報があります。独り言だと思って聞き流してもらえれば。当局は、確実に島の人を洗脳するためにあることを行っています。我々は、流石に島民だけでは解決が難しいと判断しました。島の外に連絡してSOSを出せないかどうか、検討しているところです。その関連で、某日ある建物を襲撃する予定です。それでは」
これ以上留まってもいいことはないだろう。必要な情報はひとまず与えた。俺にできることは、できる限りボロを出さないうちにそそくさと撤退することだけであった。
「待ちな」
肩越しに呼び止められ、背筋がぞくっとした。
「はい、まだ何か……?」
「現在俺たちはガソリンや車体の強化パーツを入手する手段に困っている。メンバー全員の顔が割れているからな。俺たちのこの問題を解決してくれるなら、ある程度は協力してもいい」
これは……もしかして、チャンスか?
「はい、喜んで!」
「具体的にはどうするつもりだ?」
適当言ってたら承知しねえぞ、という声である。俺も興奮していた気分を一旦落ち着けて、口を開く。
マウスの肩に、ポンと手を置いた。
「ここにいる女の子が、かなりその手の動きで強いと思う」
忖度なきお言葉、お待ちしております!




