表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜7章4節〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

347/351

313 本当の選別

 フロレンツィアが、僅かに目を細める。


『リーシェ・イルムガルド・ヴェルツナー! 王太子の婚約者にあるまじき、陰湿な女め。今日この時をもって、僕は貴様との婚約を破棄する!!』

(一度目の、人生でも)


 懐かしくも感じる瞬間のことは、今でも脳裏に描くことが出来る。


(覚束ない足取りで、私は自分の人生を選べた。二度目の人生では、『繰り返し』に戸惑いながらも前に進んだ。……三度目からは、迷わずに走ることだって)


 もちろんこれは、フロレンツィアの知り得ないことだ。


(この人生でも。――全力で駆けたから、アルノルト殿下に出会えた)


 これまで繰り返してきた人生のことを、リーシェ以外の誰も知らない。

 だからこそ、リーシェ自身が胸を張る。


「他の誰かに守られなかったことなども、決して悲しくありません」


 あまり上手には、出来てなかったかもしれない。

 それでも、庇護してくれる存在がなかった事実より、今ここにある結果を大切にしたい。


「――あのとき前に進むことを選べた自分を、誇らしく思っていますから!」

「…………」


 リーシェが微笑んで告げたとき、フロレンツィアが静かに表情を消した。


「どうか信じていただけませんか。フロレンツィア陛下」


 膝の上に再び両手を重ねて、リーシェはフロレンツィアを見上げる。


「私は、両親に言われるがまま、この国に嫁いできたのではありません。……自分が両親と距離を置くことを選んだからといって、アルノルト殿下とお父君を掻き回したい訳でもありません」


 説得力に欠けるということは、もちろん分かっている。

 それでも今は、言葉を重ねた。


「私はただ、アルノルト殿下が」


 二年後には実の父を殺し、世界を戦争に導く人の、背中を思い浮かべる。


「あのお方の未来が、幸福なものであってほしい――……」

「それなら」


 フロレンツィアが扇子を閉じて、テーブルの上へ頬杖をついた。

 そして、甘い声で囁く。


「――アルノルト殿下を、皇位継承者の座から引き摺り下ろしなさい」

「…………!?」


 思わず息を呑んだリーシェに向けて、にこっと鮮やかな笑みが返される。


「アルノルト殿下は間違いなく、ガルクハイン次期皇帝として最良の皇子よ。だからこそ、アンスヴァルト陛下との父子としての相性は、あまり良くない」

「…………」

「盛大な父子喧嘩を回避するには、そんな対策が一番だわ。ふふ、そうでしょ?」


 フロレンツィアへの警戒を、リーシェはもはや隠さなかった。

 本心を取り繕うための微笑みも、気に留めていないふりをした冗談も返さない。寧ろ、ここで社交的な返答をする方が、よほど浅慮に映るだろう。


(どうしてこんな、発言を?)


 アルノルトが皇位を継ぐことは、他ならぬアンスヴァルトの決定だ。

 その立場から引き摺り下ろせと、実母ではないフロレンツィアが口にした。ガルクハイン皇室に対する叛逆と取られる考えを、妃になるリーシェに明かしたのだ。


(……確かに、アルノルト殿下が皇位を手放せば、お父君を殺しても皇帝にはなれない。軍の指揮権を得られなくなって、戦争を起こす手段すらなくなるわ)


 それは確かに、『戦争の未来を回避する』ための、大きな方法のひとつでもある。


(戦争を止める、そんな大義名分でもなければ)


 心臓が、嫌な音を立て始めていた。


(アルノルト殿下の未来を知らなければ、戯れでも発言できないような『提案』)


 リーシェは、ドレスの裾を小さく握り締め、フロレンツィアを見据える。


(……フロレンツィア陛下は、何をご存知なの……?)


 こくりと小さく喉が鳴った。

 それでもリーシェは、フロレンツィアへの反論を試みる。


「……お義父さまが、そのような選択をお許しになるとお考えですか?」

「もちろん、許さないでしょうね」

「アルノルト殿下も、決してお役目を放棄なさいません。あのお方は、深い責任感をお持ちですから」


 たとえ、この国を嫌っていようとも。

 アルノルトは、皇族としての責務を果たし続けるだろう。まるで、生き延びた罰であるかのように。


 フロレンツィアが、美しく微笑んだ。


「……亡くなった、他の赤子たちの分も?」

「!」


 発された言葉に、再び息を呑む。


(……『塔』で暮らしていらしたフロレンツィア陛下は、ご存知でいらっしゃるに決まっている)


 あの塔で生まれた子供たちが、アルノルトの父帝によって殺められたことも。

 あるいは幼いアルノルトが、その手伝いをさせられたことも。ひょっとしたら、その目で見て来ているのかもしれない。


「リーシェちゃんも知っているみたいね? アルノルト殿下は、選別を生き残った子供だということ」

「…………」

「そういえば私、ずうっと気になっているの。数多くの御子が殺められる中、どうしてあのお方は殺されなかったのかしらって」


 そんな疑問を耳にして、アルノルトに聞かされた事実を思い出す。


(それは、『青い瞳と黒の髪が、お義父さまと同じ』……)

「――青い瞳と黒の髪が、陛下と同じ」


 フロレンツィアが、ぽつりと呟くように言った。


「その裏に隠された、本当の生存条件は、何かしら」

「…………え」


 手に取ろうとしていたティーカップが、ソーサーにぶつかって音を立てる。

 リーシェの失態を前にして、フロレンツィアは微笑みを深めるのだ。


「きっとあなたも知っているのよね? アンスヴァルト陛下が、自らの血を濃く引いた御子をご所望されたって。その証明が、同じ色の瞳と髪」

(そう仰っていた。アルノルト殿下もテオドール殿下も、他に生き延びた四人の妹君も……)

「けれどそれなら、産んだ女に似ている赤子を、どうして生かしておくの?」

「!」


 リーシェの脳裏に、とある光景が浮かんだ。

 アルノルトが刺されたとき。燃え盛る船の中、フードを纏って身を隠した男は、こんな風に言ったのだ。


『その美しい面差しが、お母君によく似ていらっしゃる』

「アルノルト殿下のお顔立ちは、美しいお母さまによく似ている」


 何もかも見透かす妖艶な瞳が、リーシェを楽しそうに眺めていた。


「それなのに、アルノルト殿下は。……なぜ、殺されなかったのかしらね」

「――――――……」


 背筋に寒気が走るのを堪え、リーシェはフロレンツィアを見据える。


「……あなたの目的はなんですか?」

「警告よ。可愛いお嫁さんが、恐ろしい皇帝陛下に近付かないようにするための」


 紅が塗られたくちびるの前に、フロレンツィアの人差し指が立てられた。


「あとは秘密。――あなたたちの婚儀までに、私が欲しかったものを当てられたら、もう少し話してあげる」

「…………っ」


 リーシェが言い募ろうとした、そのときだ。


「失礼いたします。フロレンツィア陛下、リーシェさま」

(オリヴァーさま?)


 扉の向こうから聞こえてきたのは、アルノルトの従者であるオリヴァーの声だ。


(……アルノルト殿下が、まだ離宮に戻られていない)


 フロレンツィアが微笑んで、リーシェに促す。リーシェは一礼して立ち上がると、急いで扉を開けた。


「どうかなさいましたか? オリヴァーさま。アルノルト殿下は……」

「城下へお降りになられました。同行なさったザハド陛下より、リーシェさまへの共有があるべきだとの助言を賜り、僭越ながらご報告を」

「!」


 オリヴァーは柔らかく苦笑しているが、事情はおおよそ察しがついた。

 こんな時間に城下へ降りるのであれば、懸念が現実になったということだ。小さな声で告げられたのは、そうして想像した通りの有事だった。


「城下に賊が出たようです。現在は我が君が、近衛騎士を率いての対応中で――……」




***

X(Twitter)で次回更新日や、作品の短編小説、小ネタをツイートしています。

https://twitter.com/ameame_honey


よろしければ、ブックマークへの追加、ページ下部の広告の下にある★クリックなどで応援いただけましたら、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この女性はアーノルドに全てを捨ててほしいと思っている。 彼女は蛇だ
何かドキドキします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ