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【アニメ化】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜7章4節〜

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308 不届きな作戦

「……生憎だが」


 ザハドが笑い、軽く肩を竦める。


「あいつのことをよく知る婚約者殿を前に、『秘密』というほどの情報は持ち合わせていないな」

「あら。ですが、おふたりは幼馴染なのでしょう?」


 微笑みを浮かべたまま、一歩ザハドに歩み寄る。


「幼い頃のお話も、もっともっとお聞きしたいです。なにしろ」


 かつて彼の商人だったリーシェは、もちろん知っていた。


「恋い慕うお方の、昔話ですので」

「――――……」


 どのような『交渉』を持ち掛ければ、ザハドが興味を示すのかを。


(この場所で深い会話は出来ない。けれど、こうしておけば)


 主城からの鐘の音が続いている。深い赤色をしたザハドの双眸が、リーシェのことを見定めている。

 砂漠で最も強く、あらゆる国の頂点に立つザハドの眼差しは、太陽の光のような強さを帯びていた。


「……リーシェ殿。俺は……」


 ザハドが口を開こうとした、その瞬間だ。


「――アルノルト殿下!」

「!」


 リーシェは敢えて空気を切り替え、婚約者のことを呼んだ。

 ローヴァインとの会話を切り上げたらしいアルノルトは、こちらに歩いてくる途中だ。そんな彼の方に駆け寄って、ザハドとの『交渉』を中断する。


「ローヴァイン閣下とのお話は、よろしいのですか?」

「……ああ」


 リーシェは微笑み、ザハドのことを振り返る。


「アルノルト殿下がいらっしゃらない間、ザハド陛下がお相手をしてくださっていました。……お小さい頃のお話などを、これからして頂く所だったのですが」

「…………」


 ザハドは意外そうな表情で、ひとつ瞬きをした。

 再びアルノルトを見上げたリーシェは、にこっと微笑んでアルノルトに告げる。


「アルノルト殿下も、ご一緒にお喋りして下さいますか?」

「……そんなことよりも」


 アルノルトは僅かに目を細め、再びバッグを預かってくれながらこう言った。


「この辺りで一度、座って休め。会が始まってから、ずっと立ち通しだろう」

「むむ……では、殿下とご一緒でしたら」

「ザハド」


 アルノルトは、リーシェの腰を柔らかく抱き寄せて、淡々と尋ねる。


「余計なことは、話していないな」

「……ははっ」


 グラスを傾けたザハドが、とても楽しそうに目を眇める。


「もちろんだ。――お前が視察中に俺を放置して消えたことなど、口を滑らせていないから安心しろ」

「その事実が詳らかになったところで、特段なにも問題はないが」

「アルノルト殿下……! 他国の国王陛下を城下に置いていくのは、一応は怒られることですからね……!?」


 少なくともオリヴァーには叱られるだろう。そう指摘してみるものの、アルノルトがどうでもよさそうな様子なのは変わらない。


「リーシェ。行くぞ」

「はい。――ザハド陛下」


 リーシェは再びザハドに微笑み、意図を込めて告げる。


「また後ほど、改めて」

「……ああ」


 アルノルトとザハドのそれぞれから、思惑を隠した視線を向けられた。

 だが、それで構わない。


(アルノルト殿下やザハドのことを、完璧に欺けるだなんて思っていない。……それでも)


 アルノルトにエスコートをしてもらう中、リーシェは確かめる。


「よろしければ、そちらの長椅子で休憩いたしませんか? 他の方が近くにいらっしゃらないよう、騎士さまが人払いをしてくださるでしょうから」

「もう少し離れた場所の方がいいだろう。この場所では、会場内の衆目に触れる」

「……ひとつ、思惑がありまして」

「思惑?」


 アルノルトが思い至らないのも無理はない。

 説明はしないまま、リーシェは木製の長椅子に腰を下ろす。アルノルトの袖を引き、隣に座ってもらうように促した。


(次の作戦。……ちゃんと、お客さまたちの注目を受けているわ)


 先ほどアルノルトが言った通り、ここはガーデンパーティの会場にした庭園の中である。

 隅の方とはいえ、来場者の目には触れている。話し声は聞こえなくとも、リーシェたちが何をしているのか筒抜けだ。


(……職権濫用は駄目、なこと、だけど……!)


 目を瞑って覚悟をしたリーシェは、思い切って行動に移す。


「!」


 隣に座ったアルノルトの腕に、ぽすんと頭をくっつけた。


「…………っ」

「…………リーシェ?」


 集まった人々のどよめきが、かすかに聴こえてきた気がする。

 一方で当のアルノルトからは、リーシェを案じる問い掛けが上がった。


「まさか、体調を崩したのか?」

「そ、そうではなく……! 殿下にはまだ、お話できていませんでしたが」


 かちこちに緊張しながらも、アルノルトにくっついたまま離れずにいる。顔が赤くなっている自覚はあるが、どうにか説明を試みた。


「フロレンツィア陛下と、駆け引きをしています。……それは私が、この国の皇室に加えていただくにあたって、必要不可欠な過程だと考えておりまして」

「…………」


 アルノルトが、小さく息をついた。


「――そんな過程は必要ない。お前が俺の妃になることは、どうあっても覆らない事実だ」

「言ったでしょう? 嫁ぎ先との関係は、花嫁にとっての重要事項ですもの」


 フロレンツィアにアルノルトの過去を尋ねているのだという、その事実は口にしない。


(分かっているわ。これはアルノルト殿下への裏切りになり得る、だけど)


 凭れ掛かったアルノルトの腕に、思い切ってもっと身を寄せた。

 そして、アルノルトに告げる。


「ここにいらっしゃるお客さまの何人かは、フロレンツィア皇后陛下の『ご友人』です」


 アルノルトは僅かな笑みを作り、リーシェの問い掛けを肯定した。


「本当に大したものだな。――お前がそこまで把握しているとは、よもや正妃も予想していないだろう」

「皇城に出入りする方々については、僭越ながらも学ばせていただいていますから」


 リーシェは時々侍女に扮して、こっそりと使用人の仕事を観察することもある。


(お手紙の仕分けを手伝ったとき、封蝋に捺されていた印もいくつか覚えたわ。あちらの方の家名と一致するし、別のお手紙についてはあちらのお方が)


 彼らは驚いた様子でありつつも、リーシェたちに、不躾でない程度の視線を送っていた。


「ご友人の皆さまには、是非ともフロレンツィア陛下に向けて、『婚約者がアルノルト殿下と仲睦まじいようだ』と報告していただきたいのです」

「…………」

(私がアルノルト殿下に嫁いで何をするつもりなのか、関心があるご様子だった。先ほど演練をご見学なさっていたのも、私と殿下の様子を観察するためかもしれないわ)


 ですから、と小さく言葉にする。


「こ……これは、おねだりです。アルノルト殿下」


 リーシェはぎゅっとアルノルトの手を握り込み、思い切って願う。


「……私とここで、遊んでください……」

「――――……」


 本当に、悪妻も甚だしい懇願だ。

 恋心を隠し、こんな我が儘を口にするなど、とんでもない裏切りとも言える。それでなくても呆れられるのではないかと、アルノルトを見上げようとしたその瞬間だった。


「!」


 アルノルトの、繋いでいなかった方の手が、リーシェの頬に触れる。

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旗を振り回して応援するしかない、頑張れリーシェ! リーシェが悪妻だと思いながらやってるのは明らかにただのイチャイチャというか、ザハド陛下とアルノルト殿下を欺けるのは……と思いながらやってる方が明らかに…
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