301 未来への提案
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思わぬ追求に、改めて背筋が伸びた。
「な……なんの、ことでしょう」
「お前がこの演練を提案したことには、何らかの目論見があるだろう」
すべてを見透かすような青の瞳が、リーシェのことを真っ直ぐに見下ろす。
「一見すれば、何をしでかすか読めないようだが。――実際の所、他国の人間が関わることには慎重な判断を下すのが、お前の性分だからな」
「……っ」
形だけの微笑みを浮かべたリーシェは、内心でぎくりとしてしまう。
だが、これ以上の誤魔化しようもない。
(やっぱり悟られてしまっているわ。アルノルト殿下のお怪我を隠すことや、ヨエル先輩との約束を達成することだけが、この演練の目的ではない)
リーシェはひとつの覚悟を決めて、口を開いた。
「……恐れ多くも、あなたの『妻』より進言を」
リーシェはアルノルトを正面から見据え、ひとつ尋ねる。
「この場では、ガルクハインの勝利に終わりました。とはいえアルノルト殿下も、この演練で改めて感じられたのでは?」
リーシェが背にした主城の頂に、旗が翻った。
青空の中にはためくのは、ガルクハインの大きな国旗だ。
「ハリル・ラシャとシャルガ国の軍事力は、強大であると」
「…………」
彼らの視線が、リーシェに注がれる。
(この演練は間違いなく、二ヶ国における血肉となったはず。……ガルクハインの、アルノルト殿下の騎士がどう戦うか、そうした情報を得たのだもの)
だからこそ、危うい側面を持っているのだ。
(このひとつひとつが、ガルクハインにとっての命取りになるかもしれない。未来のことを思うのなら、軍事演習など行うべきでないのは明白だわ)
リーシェは真っ直ぐにアルノルトを見据え、口を開く。
「おねだりしたいことがございます。アルノルト殿下」
「……言ってみろ」
「ガルクハインの未来を思えば、このような交流の仕方は、適切ではありません」
その言葉に、ヨエルが小さく呟いたのが聞こえる。
「……つまり、今後はもう二度と、他国との演練なんかするなってこと……?」
「…………」
ザハドは沈黙のまま、引き続きリーシェの出方を窺っているようだ。
リーシェは、表情を変えないアルノルトに向けて、言葉を続ける。
「アルノルト殿下。私は……」
ひとつ呼吸を継いだあと、はっきりと告げた。
「――もっともっと盛大に楽しく、皆さまと仲良くするべきだと思います!」
「………………」
アルノルトが、とても分かりやすく眉根を寄せる。
「……おい、リーシェ」
「だって、勿体無いではありませんか!」
リーシェはアルノルトの向こうをひょこっと覗き、ザハドとヨエルに微笑んだ。
「ハリル・ラシャ国もシャルガ国も、このガルクハインに無い力をお持ちです。華やかで柔軟性に富んだハリル・ラシャの、戦争以外の実戦に慣れた戦い方……シャルガ国の、統率よりもひとりひとりの戦術を重視した戦術や、ヨエルさまの鋭い剣術」
戦闘演習のひとつを取っても、三ヶ国の違いは明らかだ。
(本当は、今回の演練で見たもの以外にも、たくさんの個性があることを知っているけれど)
この人生のリーシェなら、今はまだ知らないふりをしなくてはならない。
「両国との協力関係を築くことは、大きな力になり得ます」
これは、ひとつの賭けでもあった。
(ハリル・ラシャとシャルガ国は、これまでの人生において、いずれ『皇帝アルノルト・ハイン』と敵対する運命の国だもの。……いいえ、それどころか)
両手をきゅうっと握り込み、内心の危惧を押し殺す。
(――アルノルト殿下はもう既に、この二ヶ国を敵に回して、戦争をすると決めていらっしゃるかもしれない)
それすらも知らない顔をして、リーシェはいっそう微笑んだ。
「アルノルト殿下はご多忙ですから、今すぐにとは申し上げません。……たとえば、婚儀の間のおもてなしを、私にお預けいただくのはいかがですか?」
「…………」
その提案に、アルノルトが両目を淡く眇める。
(私と出会う以前のアルノルト殿下が、ご自身では関わらなかった唯一の政策。それが、『戦争以外の手段による、他国との外交』だわ)
婚約を申し込まれた夜ですら、アルノルトがリーシェの故国に居たのは、敵対し得る存在を追うためだった。
ガルクハインの外交を担うのは、総じて皇帝アンスヴァルトの派閥だ。だが、斬り込むことは不可能ではない。
(今のアルノルト殿下であれば、他国と協力して得るものに、目を向けてくださるはず)
事実、ここまで積み重ねて来た。
コヨル国との同盟や、クルシェード教団との約束を。シグウェル国とも盟約を結び、それらが発展のきざしを見せている。
(これまでの人生から、少しでも未来を変えなくては。もちろん、強力な兵力を持った国と友好関係を築くことは、却って戦争を呼び寄せる危険もはらむけれど)
友好関係を築く選択が、平和に繋がるとも限らない。この二ヶ国との同盟が、戦争の武器になる可能性もある。
だが、リーシェは決めたのだ。
(私が、アルノルト殿下に提示し続ける。火薬や造船技術と同じように、戦争に使うこと以外の、明るい道があるのだと)
だからこそ、リーシェはこの演練を提案した。
ザハドに承諾してもらうべく、過去の人生の知識を使って。きっと喜ぶであろう遊戯めいた趣向と、彼が好む『宝石』を用いたのだ。
アルノルトが負傷していることを誤魔化しつつ、ヨエルとの約束を果たす。それ以外の三つ目の目的が、この変化のきっかけを得ることだった。
(アルノルト殿下は、ひとつの事柄に複数の意味を持たせて成すお方だもの。それをお傍で見ている私も、同じ手段を取れるように成長していかなくては駄目)
リーシェは自分自身に言い聞かせる。
(この人生でも、一歩も学びの歩みを止めない。……そうしなくては、アルノルト殿下に追い付けない……)




