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父と娘

小説の書き方が曖昧なまま自由に書いたので、生暖かく読んでもらえると助かります。本編終了まで予約投稿済みです。

目が覚めると、白い天井に、優しく光を取り込むレースのカーテン。ふかふかのベッドに、肌触りの良い寝具に囲まれていた。


『ここは……(病院にしては……)』


そもそも、自分は───


『シア、目が覚めたかい?』

『だれ?』

『シアは、()()()のことを忘れてしまったのかい?』

『ごめんなさい。わかりません……』

『………』


だって、私は一般的な日本人なので金髪に紫の瞳をした父親はいなかった。


『シアは、記憶が曖昧になって、少し混乱しているようだね。仕方がないよ。まだ6歳の君の目の前であんなことがあったんだから……』


ん?いま6()()って言った。誰が6歳?この男性が何を言いたいのか理解できない。理解したくないし、訳がわからない。


『まずは、ゆっくり眠るんだ。そして、傷を癒そう。私は、まだ仕事が残っているから、ずっと側にいてあげられない。ごめんよ、シア。眠る前に、今後のシアの身の回りの世話をする者と、従者兼護衛となる者を紹介しておこう』


『二日前より、シア様のお世話をさせていただいております。ユーリです』

『レオ……です』


ユーリと名乗る女性は、栗色の髪に緑がかった瞳をしていた。レオと名乗る少年は黒髪に真っ赤な瞳をしていた。なんかファンタジーの世界だな、と思った。うん、夢だな、これは。








父と名乗る男性と出会った日から2年が過ぎて、私は8歳になった。前世の私は、親の愛情を強く求めていたらしく、私は彼のことを、本当の父親のように慕っている。

そして、この世界は夢ではなかったようで、剣と魔法の世界、エルフや獣人もいる世界、身分制度の残る世界だった。

ちなみに、父親は宮廷魔術師、レオは獣人だった。しかも、宮廷魔術師には爵位が与えられるらしく、お父様は公爵だった。もしかしたら、私は悪役令嬢役かな?

異世界転生(乙女ゲームの中の世界)で、ヒロインとか、攻略対象になっちゃう婚約者とかいるやつよね。そして、たぶんイケメン従者のレオも攻略対象なんじゃない?


「お父様。今日は誰にお会いするの?」

「王城へ着けば、すぐに分かるよ」


やはり、乙女ゲー異世界転生!

お父様に連れられてやって来たのは大きなお城。きっと、同じような年頃の第一王子とかが現れて婚約者になるのだ。どうしようかな?このまま流されるままに悪役令嬢役をこなすべきなのか?でも、将来断罪されるのは嫌だなぁ…優しいお父様を没落させるのも嫌だし。


「着いたよ」


立派な城門を通り、案内された部屋の前まで行くと、お父様がそっと私の肩に触れた。そわそわする私が落ち着くのを見計らって、傍らに騎士の立つ扉を、ここまで案内してくれた侍女が開く。

あぁ、遂に物語が始まる──


「シアっ!会いたかった…」


あれ?なんだろう?


 ぽたり…


頬を伝う温かいものが溢れて止まらなくなる。知らない女性に抱き締められている。本当に、記憶にないのに──


 ぽたり、ぽたり…


あぁ…多分、これは『本物のシア』の記憶。私には、この女性が誰かは分からない。でも、きっと大切な人。シアにとって、大切な誰かなんだ。


「シア。私は、貴方の母親よ!」

「…っ!!!!!」


私を抱き締める女性が、悔しさをにじませたような声で教えてくれる。なんだか懐かしい気もする。

私がシアとして現れた時、シアの母親はいなかった。でも、お父様の年齢を考えるに、母親も若いはずだ。そして、ここは王城。わからない。悪役令嬢フラグの王子様は?

お父様より年上の女性(前世の母親より少し若いくらい)が、母親だと名乗り出るものの、年齢がおかしい。お父様と私の年齢差を考えるに、少し若い祖母と言われる方が納得できる。お父様は年上の女性が好みだったのだろうか?それならば、お母様は、この世界ではかなりの高齢出産だったのではないだろうか。


少し冷静になり、お父様の方を見ると、目を細め柔らかく微笑んでいる。ただ、私には、お父様が何だか寂しそうにも見えた。


「シア。何か思い出したかい?」

「わからない。何だか懐かしいような気がする、けど……」

「シアは、誰と一緒にいたい?」

「……っ!お…父様…」


ここに置いていかれる!とっさに女性の腕を振り払い、お父様に抱きついた。かなり高齢出産、とか考えていたので、涙は止まっていた。この場で一番大好きな人。

私の──


「お父様!お父様と、一緒に、おうちに帰りたい……」

「わかった。今日は一緒に帰ろう」


お父様は私を優しく抱き上げると、そっと頬にキスを落とした。


「では、シアと私は失礼しますね」


私に腕を振り払われ呆然とする女性と、立派な衣装に身を包む見知らぬ少年(多分王子様だろうな)を部屋に残し、私とお父様は城を後にした。

帰りの馬車の中、お父様は私を膝の上に乗せ、後ろから抱き締めながら鼻歌を歌っていた。何だかお父様が可愛い。中の人から見たら、年下だしね。


とりあえず、まだ私は8歳。

婚約者は破滅へのフラグの可能性もあるし、お父様のことは大好き。この世界での成人は16歳とのことだし、もう少しこのままでいたい。

そして、このまま本当の『家族』になれたらいいな。








「おかえりなさい、シア様」

「ただいま、レオ!」


おうち……というか屋敷に着くと、門の前でレオが待っていた。レオは馬車から降りようとする私に手を差し出し、私が馬車から降りるのを手伝ってくれる。

一時は、いつ(攻略対象()()の)レオによる破滅フラグが立つのか不安だったが、おそらく良い関係を築けていると思う。私の知る悪役令嬢は、行き過ぎた好意や独占欲、支配欲が原因でヒロインを虐めていたので、王子様(もしくは高位貴族)との婚約がなかったり、従者虐めをしていなければ問題ないはず。多分……


「シア、今日は混乱しただろう。ゆっくり休むん「シア様。ユーリが、庭にお茶を用意して待っています。……旦那様も、ご一緒しますか?」

「くっ!君は……雇い主である私の話を遮っておいて、更に、シアのオマケのように扱うのだな…」

「シア様の従者なので」

「あぁ…まぁ…だが、時間もあることだし、一緒にいこう」

「畏まりました(チッ)」


レオは、お父様に対して、ちょっと挑戦的。でも、私には優しい。年は私より8歳上で、今年16歳になり成人した。年の離れたお兄さん的存在だ。ただ…


「シア様、本日の登城で何かありましたか?」

「えっ、なんで?」

「少し、目が赤くなっています。すぐに目元を冷やすものを用意しますね」


レオはそう言うと、ハンカチを取り出し、


「旦那様、少し氷を出してください」


お父様が魔法でハンカチの上に幾つかの氷を作ると、それをレオが細かく砕き、私の目元へ当ててくれた。更に、


「うひゃっ!れ、レオっ!」


レオは、氷を包んだハンカチで目元を押さえ、前が見えなくなった私を抱き上げる。しかも、お姫様抱っこ!

レオは、主従の距離感が死んでいる。ゼロ距離!!


「シア様は前が見えないので、俺が庭までお連れしますよ」


目元に当てているハンカチの隙間からチラリと見えたレオの口許は、意地悪そうに笑っていた。きっと、今日もお父様に対して挑発的な目をしているのだろう。


「………」


私の側にいたお父様から、冷気が出ているような気がしたけど気にしないことにした。気温が下がった気がするのも気のせい……だと思いたい。


しばらくレオの腕の中で大人しく揺られていると、庭についたようで、ゆっくりと下ろされる。


「シア様、おかえりなさい。旦那様とレオはいつも通りのようですね」

「ただいま、ユーリ!えぇ…いつも通り」


レオに関しては、8歳の女児相手に何してんだってくらい私への愛が溢れているような気がする。多分、レオルートで破滅はしないかな?それなら安心。安心?あるの?レオルートとか?


「シア、私の隣へおいで」

「はい、お父様!」


私は、大好きなお父様と一緒にお茶を飲み、従者であるレオは少し離れて控える。ユーリの出してくれたお菓子は今日も美味しく、私は家族と優しい時間を過ごした。











偽りの家族が終わるとき、それは本来の姿へ戻る。


それまで、あと数年──

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