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08今は一人にしてください。




「あ、そういえば……。お二人はそれぞれ副団長様なのですよね?お忙しいなか付き合わせてしまって申し訳ありません。この通り、住むのになんら支障は無くなりましたので、どうぞお仕事にお戻りください」


師団副団長という地位はどれ程多忙なものかは見当がつかないが、きっと一時の無駄も許されないくらいには仕事量があるのではないかと思われる。

そんな二人をいつまでもここに留めておくというのも気が引ける。


「フリア様の侍女などが到着するまで、我々はここで待機しておりますので、どうぞお構いなく」

「それならば、今すぐ離れていただいて結構です。私は侍女を連れてきていませんし、荷物もすでに屋敷の中に転移させております。領地でも、魔獣討伐中は野営することが多かったので、一人で生活する分には困りませんので、どうぞお気遣い無く」


侍女はいないと言った時の二人の反応に一抹の不安を感じたので、基本的に何でも自分でできることを理解してもらう為にやや早口になりながら説明をする。


「しかし、付き人は何にしても必要でしょう。よければこちらで侍女を派遣致しますよ」

「いいえ、お気遣いはありがたいのですが……。私は、一人の方が慣れていますので」

「でもねぇ、フリア様。こちらとしても、お妃様候補に何もしない、というのは……。さすがに、憚られるのだけど」


どちらもひかない攻防戦。


王宮側は私に何もしないのはダメらしい。


しかし、私はできれば周りに人を置きたくない。



「────では、せめて三ヶ月は一人にしていただけませんか? それ以降でしたら、従者でも何でも、王宮が付けたい者を派遣していただいてかまいません」

「理由をお聞きしても?」


期限つきで一人にして欲しいという私の言葉に、ジェラルド様は理解に苦しむ、という表情で質問を投げかける。


「私の母の事を、お二人は御存知なのですよね?」


その言葉に二人とも頷きをもって返す。


「では、バイアーノ公爵家については」


「魔術師団の中では、それはもう凄まじい魔術を扱う系譜、と伝わっているよ」

「騎士団のでも、魔獣と戦う能力は他の追従を許さない実力を有している、と」


それとこれとで、どのような関係が?

とでも問われそうだが、とてつもなく大切なことは伝わっていないのだろうか。


それとも、関係者以外に口外すること自体が禁忌なのだろうか。


一瞬考えたが、この二人には話しておかなければいけないだろうと心に決める。


何かあったとき、まず一番に対応するのはこの二人の所属する団体なのだから、と。


「バイアーノ家の“呪い”について、御存知ですか?」

「あっ!?」

「呪い?」


――“呪い”そう口にすると、二人の反応は割れた。


何か思い当たることがあるらしいテオ様と、なんのことだかさっぱりといった様子のジェラルド様。


「フリア様、その……。その話は、俺ら……、あ、いや。我々が聞いてもいい話、なのかな?」

「えぇ。むしろ話しておかなければいけないことかと」


たぶん、驚きすぎたのだろう。

一瞬、素に戻りかけたテオ様だが、すぐに仕事用の口調に修正する。


そして、心なしか居住まいを正した二人に、できるだけわかりやすく説明する。


バイアーノ当主が継ぐ“呪い”について。


まず、“自らの意思に反して際限なく体内魔力が高まる”ということ。


そして、“唯一人だけの人”が決まると、体内魔力が二人に分散されること。


しかし、“唯一人だけの人”の心が離れたときから、徐々に体内魔力が分配されず最終的に“魔力に喰われる”こと。


そして、“宿体”を失った魔力は、“次の代”へと移行すること。


つまり、“魔力に選ばれた次の代”は、自身が持つ元々の“湧き出る魔力”と“先代を喰った魔力”を同時にその身に被るということ。


魔力の移行期間はおおよそ三ヶ月。

まだ先代が“喰われて”から半月も経っていない今の状況ですでに、有り余る程の魔力が満ちていること。


“唯一人だけの人”を持たない自分は、“魔力に喰われる”事は無いが、“魔力が暴走する”危険性を十分に孕んでいること。


これらの理由から、できるだけ近くに人を置きたくないことと、魔力を使って植物を育てることでできるだけ魔力を分散させたい旨を伝えた。


「できれば、今回の招集も辞退したかったのですが、“白羽の矢”が刺さった以上、それは許されることでは無いと周りから説得されましたので」

「……、あぁ。なるほど。何かあった時のことを考えて、王宮から一番遠いと説明したときに、嬉しそうにしていらしたのですね」

「えぇ、まぁ。そんな感じです」

「たしかに、あれだけの規模の魔術を使って、今も平然としているんだから、魔力が有り余っているっていうのは本当なんだろうね」


ジェラルド様はここまでの過程を思い出したのか、しきりに頷いている。

テオ様に至っては、先程の魔術の様子から必要な魔力量を計算したのか、難しい顔で考え込んでいる。


「フリア様は、今まで魔力が溜まったらどうやって発散していたの?」


「バイアーノ領の隣にマイアー伯爵領があるのですが、そこの家系の方々は代々“魔力の巡りを整える”技を会得しているので、そこの方々に滞った魔力を流していただいていました。」


――それに、魔獣討伐もいい発散になっていましたね。


「一応、予防線として、敷地の境界線には、魔力が外に出るのを阻止する結界を張っています。それと、屋敷にはそれよりも強い結界を張っています。どちらも、私の魔力を元に張った物ですが、私の魔力が増えれば増えるほど、効果は増強されますので、王宮に影響を及ぼさないように最大限努力いたします」


「わかりました。フリア様の我々に対するお心遣い、誠に感謝致します。しかし、野菜や果物以外の食料品は不足すると思いますので、わたくしが責任を持って届けさせていただきます」

「わたしたちは“この区画”を担当する護衛でもあるので、何か不便があれば声を掛けくださいね」


事情を話すと従者などは諦めてくれたようだが、この二人はそうはいかなかったらしい。


最大限の譲歩なのだろうと考え直し、素直に受け取っておくことにする。


もし、何かあっても、この二人ならどうにかしてくれるだろう。


そんな期待も込めて。


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