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80最大級の発見。


つい先程のことなのに、なんだか遠い昔語りのようになってしまった。

私の話に耳を傾けていた宰相様は、やっと納得したようで大きく頷いている。

わかって頂けてなによりだ。

冷静になってもらえば、この人はきっと優秀だ。

こちらの話を無視したり、突発的な行動は控えてくれるだけの理性を持っているに違いない。

たとえ、魔獣や死霊が間近に迫ったとしても冷静に対処してくれると信じている。



「なるほど、そうだったのか……。フリア様には要らぬ手間をかけさせてしまった。申し訳無い」

「いえ、これも与えられた役目ですから。お気になさらず」


頭の高い位置で一つに結ったモスグレーの髪が地面につくのも気にせず、彼女は深く頭を下げた。


「失礼を承知でお尋ねしますがエルダ様は、シェーラ様の遠縁ですか?」

「ん? あぁ、この、色か?」


己の髪を摘まみ、瞳を指で示す彼女に頷く。

モスグレーと言えば、オズボーン国の神の巫女シェーラ・オズボーンその人が有名であろう。

まぁ、あの人は瞳がモスグレーなだけなのだが。



「我が一族は代々“神の巫女”に仕える家系なんだ」


そう言って立ち上がる。


「仕える家系ではあるが本当にごく、たまに“太陽の巫女”に選ばれることがあったそうだ」


――遠い昔の話さ


そんなことをいいながら何処へ行くのか問う前に、足を進めていく。

まるでどこかに導かれているようだ。

それぞれの家には、それぞれの歴史がある。

その歴史を正しく受け継ぎ、理解していくのはとても困難だ。

なんらかの理由で途絶えてしまう家系もあれば、血統を残すことができても歴史をなくしてしまう一族もいる。

しかし目の前のこの人物は、連綿と続く自身に流れる血脈の歴史を理解しているらしい。


「私達人間にとってはずーっと、ずっと遙か昔に我が一族から“神の巫女”候補に選ばれた双子の姉妹がいた」


迷いなく進むその足取りに導かれるようにして、己も後を追って歩く。

もしかすると、彼女は私になにかとても大切なことを伝えようとしているのではないだろうか。

初対面と言っても差し支え無い間柄であるのに、何故かそんな気がしないのは何故だろう。

(バイアーノ)”に足りない何かを、補おうとしているかのような…


「その“双子の妹”が現在の“神の巫女”シェーラ様の血縁だ。まぁ、つまり…。現在の“神の巫女”とカールフェルト家はとても薄いが、血縁関係にある」

「なるほど。それで、色を共有しているのですね」


彼女の後ろをついて歩きながら納得する。


「――だから今回、私が“身代わり”になれたんだ」

「身代わり……?」


穏やかではないその言葉に足を止める。


――“太陽の巫女”の“身代わり”とはいったい、何のために?


「--フリア様は、“太陽の巫女”・“双子の姉妹”と聞いて、なにか思い当たることがあるのではないかな?」

「“バイアーノ”」

「そう。フリア様が負うその“名”。その根源とも言える“姉巫女”と呼ばれるその人は、私の一族さ。--ほら、ちゃんと色も同じだろう?」

「っ!!」


す、と彼女が横にずれると、いつか来たあの不思議な空間が目の前に広がっている。

そして、前回訪れたときには全く気がつかなかったものに目を瞠る。


巨大樹の中心部分。

地上から人の背丈の三つ分ほど上に、“誰か”が眠っている。

ように、見える。

恐る恐る近付いて他の巨大樹も見渡すと、それぞれの中に全部で三人。

それぞれ、竜胆、苧環、梅が寄添うように咲き誇っている樹だ。


何故か藤が絡みついた巨大樹にだけは、“誰もいない”。



それぞれの人をよく見ると、全員が“モスグレー”の髪を持っているのがわかる。

きっと彼女の言葉が本当なら、その瞳もモスグレーなのだろう。


「“姉妹の血”を引く者だけが、彼等を“起こす”ことができる」

「――――起こす…?」

「そう。じゃないと、“一つになれない”だろう?」

「え、と……」

「ほんとうは、シェーラ様がこの役目を課されていた。神に示された役目を横取りしてしまうかたちになってしまった。それでも私はオズボーン国の宰相として、正しいことをしたと思っている。たとえ、ここから何事もなく地上に帰り、罰せられたとしても」

「――エルダ様……」


彼女の瞳には決意の光が灯っている。

きっと、己の為すべき事を定めているのだろう。

もしかすると、バイアーノ(私たち)に使命があるのと同時にこの人達にも、果たすべき役目があるのかもしれない。


「フリア様、準備はいいかい?」

「えっ!? 準備って……!?」


ちょっとしんみりとしていると、彼女は突然問いかけてくる。

それに慌てる私に一つ微笑んで、一番手近な巨大樹に手を添え、唱える。


「我が血族よ。応えよ。汝の心を一つにするため、ユキノシタの名のもと、依代はここに在り」

「――っ!? なっ、指輪が……?!」


竜胆が寄添うように咲き誇っている巨大樹に、彼女が触れて唱えた途端、竜胆を彫られた指輪が輝き出す。


あまりの眩しさに目を閉じると、何かが私の頬に触れた。

驚いて再び目を開くとそこには、怖ろしく美しいモスグレーの瞳を持った女性が立っていた。

瞳と同色の髪を首元で一本にきっちり結んだ彼女は、私の頬に触れたまま、微笑む。


「--ふぅん。たしかに、アイツの気配が感じられるわね」


きっちりと漆黒の衣装を身に纏い、足下も黒で統一されているその人。

唐突に、“執事”という単語が浮かんできた。


「え、と。貴女は……?」

「わたしはユキノシタの一人。“喜び”を抱く者。名は…そうね…サラと呼んでくれてもいいわ」

--まぁ、もう会うこともないでしょうけど。


言っている間も、頬に触れるその手は離れる事が無い。

その距離の近さについ、後退りそうになる。


「あなたは、ユキノシタを一つにする為にここに来たのよね?」

「え、と……。本当の理由は、人助けのお迎えですけど……」

「じゃぁ、“騙されて”ここに来たのね。アイツの子孫にしては随分と抜けているのね」

「私が依頼を受けて“ここ(奈落の底)”に来ようと思ったのはもう一つ理由があって……“姉巫女の欠片”を一つにして、“封じられた故郷”へと還すための手がかりはないかと思いまして……」

「あら、そうなの。じゃぁ、“同意の上”と考えてもいいのね。よかった」


サラと名乗ったその人は、私の頬から掌を離し次はエルダ様の方へと向き直る。


「それでそっちのあなたは、わたしたち“ユキノシタの欠片”を顕現させるために、ね。--ふぅん。まぁ、そうよねぇ。“本人”がこんなところまで、来るわけがないものね」

――ざぁんねん、“カワイイイモウト”に会えないなんて


言葉とは裏腹に、彼女は満面の笑みをこちらに向ける。

しかしその笑みは氷の刃のように冷え切っていて。

どうにも埋めることができない確執を垣間見てしまったような気がした。



「さぁ依代のお嬢さん。こちらにいらっしゃいな」


私に向かって手を伸ばす。

そこではじめて、まだ名も告げていなかったことに気付いて慌てて口を開く、が。


「――名は敢えて聞かないでおくわ。あの、ウツギの血を引く者だもの。心もきっと強いのでしょうけど、保険は必要ですもの。――あなたが、あなたで在る為に」

「--え……?」

「わたしは四つの中でも御しやすいのよ。“喜びの記憶”だから。わたしを取り込んだら、次はあの樹に眠る者がお勧めよ。あと二人は……そうね、どうにかしてちょうだい」


サラさんは、梅の木が寄添う巨大樹を指差して“お勧め”だという。

そして、苧環が寄添う巨大樹と、藤が絡みつく巨大樹に視線だけを送って、肩を竦めてみせた。


なんだろう。

今から私の身になにかしら起こるのだろうが、そんな実感が湧かない。

というか、一方的に話が進んでどうしたらいいのかわからない。

流されていいのか、抗うべきなのか。


けれど、迷っている時間はないのかもしれない。

今この時を逃したら、次はないのかもしれない。

もしくは、もっと大変な事態に陥るかもしれない。


「さぁ、わたしの心が揺らがないうちに、早く」

「----っ!!」

依代(あなた)は受け止めるだけでいい。それ以上の感情は、貴方を消してしまうから」

――どうか、引き摺られないで


言うが早いか私の腕を掴み、自身へ強く引き寄せた。

体勢を崩した私は、サラさんの方へとつんのめる。

サラさんの額と、私の額がぶつかったときには目の前に広がる光景が一変していた。




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