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60背中合わせの、わたしたち。


フリアが突然現れた理由はわかったし、近況報告のお陰でだいたいのことは把握できた。

しかし、十分に理解するにはもう少し時間がほしいところだ。


だからといって領主が迎え入れた客人とも呼べる彼ら・彼女らを拒否する道理など何処にも無いし、むしろ自領に引き入れるほどフリアが気を許しているのだと思えば喜ばしいことである。


――ただ、理解が追いつかないだけで。




「ところで、二人はなんで“常夜の森”にいるの? しかも、中心の祠の側に」



こちらの心の混乱など気にも留めずに、世間話でもするかのように首を傾げるフリア。


彼女からしてみれば、当然の疑問であるのだろう。


“常夜の森”といえば魔獣の湧く場所。

それも、祠の近くとなると、いっそう魔獣の脅威に晒される場所となる。

そんなところに、戦う術を持たないマイアーの二人が居るということ自体、普通ならばあり得ないことなのだから。




「フリアちゃんが頑張ってくれたお陰で、ここ最近は本当に魔獣が少なくなってるんだ」

「出てきたとしても群れではなく単体でな。――まぁ、俺達も戦える方がいいからな。フリアだけに頼っているわけにはいかないだろう?」


シエルと二人で、腰に下げた剣を少し持ち上げる。


本来なら“魔剣”で戦うべきなのだが、何故かその魔剣を出すことができない己ら二人。

しょうがないので彼女の魔力を刀身に宿らせて斬る、というなんとも器用な戦い方を身につけてしまった。


「シエルは、まぁバイアーノ領(うち)の領民ではないから、自力で魔剣を生成できないのはわかるとしても……。ガロンはどうしてかしらね。んー、でも、シエルも私の魔力を使用出来てるわけだし……出せないことは、無いと思うのよねぇ」



こちらの話を聞いて考え込むフリアに、ドキリとする。

今の彼女の口振りからすると……



「フリア様は、そこのお二方とどのような関係で?」

「兄弟、では無いですわよねぇ。――でも、ガロン様はフリア様にとっても似ているけれど」


こちらの様子を窺っていた二人が、互いに顔を見合わせながら首を傾げる。

その問いかけにどう答えるべきが迷っていると、なんでもないような口調でフリアは告げる。


「あぁ、えーと、ガロンは私の母の兄の子供。シエルはそのガロンのお母様の弟の子供よ。ガロンを間に挟んで、兄弟みたいなものね」


「――なるほど。フリア様とガロン様が似ているのはそういう理由があってのことなのだな」

「きっと幼少の頃から共に育って来たのでしょうね!」

――年の近い兄弟、なんだか憧れますわぁ……


フリアの説明にリカルダ嬢とルイーザ嬢は納得したように頷くが、己の内心は穏やかでは無い。


おかしい。

ありえない。

どうしてそのことを、フリアが知っている?


――なぜ、“忘却の術”が解けているのだ?


バイアーノであったファム様と、王宮で魔術師をしていたネルさんが共同で掛けた“忘却の術”はかなり強力なはずだ。


シエルに対しては、ネルさん本人が明かすことでその術を解いたが……


フリアの場合、ファム様の魔力が移れば移るほど、術が強化されると聞いている。

そんな強力な術が解ける事など不可能なはず……


――何が、鍵となった……?

鍵となり得るものが、あの王宮にあったとでも言うのか。





考え込む己のことなど気に留めた風も無く、フリアはシエルへと言葉を投げる。


「シエル、手を出してみて」

「うん、――こう?」


差し出された手の上に、己の掌を翳し一呼吸。

フ、と影が集まった次の瞬間には、それが姿を現わした。


「――うわぁ! え、これ、僕の魔剣……?」

「――剣、というより、弓ですわね」


シエルの手の中にある弓を指しながら、ルイーザ嬢が呟く。


「でも、矢が無い……」

「シエル、弓を引く構えをしてみて」

「うん、えーと……こう?」


しかし、変化は起こらない。

本来なら、矢となる何かが顕現する予定なのだろうか。

唇に人差し指を添えて思案したフリアは、ルイーザ嬢へと視線を投げる。


「ルイーザ嬢、なにか気付くことは?」

「……シエル様の魔力が、不安定ですわね。フリア様の魔力と混ざっていることも原因としては考えられますが……。おそらく、魔術を操る事に慣れていないため、自身の魔力にも揺れが見受けられますわ」

「ルイーザ嬢は、それを矯正できる? ――魔剣……うーん、魔弓を出すところも含めて」

「えぇ、任せてくださいませ!」


大きく頷く彼女は余程自信があるのだろう。

もしくは、役目を与えられたことが殊更嬉しかったのか。


とにもかくにもシエルの武器は弓ということらしい。


確かに、敵に直接向かっていって斬りかかる剣よりも、遠くから狙いを定めて放つ武器の方が、シエルの力としては合っているのかもしれない。



「ガロン? どうしたの? 難しい顔、しているけど……」

「――否、こうなると、ますます俺の立つ瀬が無くなるな、と」



“マイアー”のシエルが、魔獣討伐専用の武器を手に入れたのだ。

表向きは同じ“マイアー”であれ、己はバイアーノの血も濃く受け継いでいる。

それでもなお、魔剣を生成出来ないとなるとさすがに……

フリア不在の間だけだとしても付いてきてくれる領民に、合わす顔が無いというか、なんというか……


「たぶん、ガロンは自分の武器を知らないから、出せないのだと思うのよね」

「――武器を知らない?」

「えぇ、そう。わたしは母から武器を示して貰ったの。たしか母も、先代から武器を示して貰ったと言っていたわ」


つまりバイアーノの血を引く者は、先達から武器を示されなければ、生成できないということだろうか。


「ガロン、試しに手を出してみて?」

「あ、あぁ……」


シエルの時と同じように、フリアが己の手に手を翳す。

すると影が集まったと同時に掌に確かな重みがかかる。


「――――、これが……俺の武器……?」

「そう、みたい。――リカルダ嬢、この武器はなにかわかる?」

「――わたくしも実物は初めて目にするのですが、文献でならば見たことはあります。確か、関節剣という代物だと」

「「関節剣……?」」


聞いた事の無い名を繰り返すと、その言葉がフリアと被る。

そして、己が握っている剣をまじまじと観察する。

一見真っ直ぐに見える刀身であるが、注意を凝らして見てみると等間隔で切れ目が入っている。

確かに、関節のある剣と呼べるだろう。

しかし、こんな継ぎ接ぎの刀身では、振り抜いたときにバラバラになってしまわないのだろうか。


「これは、どうやって使うのかしら?」

「文献では“鞭”のようにも“剣”としても使用出来る。と書いてありましたが……」


フリアの問いに対して言い淀むリカルダ嬢。

実際に触れたことの無い武器に困惑しているらしい。


本人に直接触れさせて、確認してもらえば少しはこの不思議な形状の魔剣を使いこなす手がかりになるのかもしれないが、魔剣はその所有者の手を離れると消えてしまう。

飛び道具であればそうでもないのだが、剣と名前が付くくらいなので恐らく手渡すと消えてしまうだろう。

これは、試行錯誤しながら己でなんとかしなければならないな。


さてどうしたものかと、己の魔剣を見詰めていると、遠慮がちにリカルダ嬢が声を掛けてきた。


「先ずは鞭、その次に剣として扱うことに慣れるのがいいかと。ただ、刀身の形状がどのような条件で変化するのか、そこも見極めなければいけませんが」

「じゃぁ、そこら辺はリカルダ嬢にお任せするわ。私の武器は鞭だけれど、扱いはあまり上手いとは言え無いし」

「わたくしの力量の及ぶ範囲で精一杯手解き致します」

「お願いね。――たぶんもう、ガロンは自分で魔剣を出せるはずよ」


――やってみて。


言われるがままに、魔剣を手放し消失させる。

そして、脳内で武器をイメージする。


一瞬、靄のようなものが現れたかと思うと先程と同じような重みが掌に伝わった。

再び現れた己の専用武器をしっかりと握りしめる。


「――、……できた」

「うん、これでばっちりね」


魔剣が顕現する様子をしっかりと確認して自分のことのように喜んでいるフリア。

その姿を見て、ついつい頬が緩む。



「これで私がここに帰って来なくても、“バイアーノ領”は大丈夫ね。それに、アリシアさんの願いも、一つ叶えることが出来るわ」

「――え、――フリア?」



不意に、彼女の口から母の名が出て鼓動が強く脈を打つ。

もうこれは完全に“忘却の術”は解けてしまっていると見て間違いは無さそうだ。

しかし、“母の願い”とはいったい……


それに、

――“帰って来なくても”というのはどういう、意味だ?


「じゃぁ、私は帰るわね」

「! うん、行ってらっしゃい、フリアちゃん」

「―――あ、あぁ。気をつけて、な」


――それぞれの御一行様が住まう屋敷はちゃんと造っているから、安心して!


彼女の言葉の意味を問いかける間もなくそう、言い残して彼女は帰っていった。


――“帰る”

そう、言い残して彼女は消えた。


彼女が“帰る場所”だと、心から思える場所を見つけることができた。

その事実を、今は喜ぶべきなのかもしれない


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