表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/103

21弟から見た、兄と、あね。




名を呼べば、柔らかな笑顔と、優しい眼差しで応えてくれるその人。


いつだって、どんな時だって、名を呼べば、応えてくれる。


自分に向けられる瞳が、笑顔が、声が、仕草が、どれも、優しかった。


まるで、壊れ物に触れるように、躊躇いがちに、しかし、しっかりと。



それでも、知っていた。

彼女は孤独だと。



名を呼べば優しく微笑むその表情(かお)が、一拍前には酷く陰っていることを、知っている。


だから、呼ぶのだ。

何度でも、どんな時でも。

そうすれば、彼女の孤独が、少しでも薄れやしないかと。



兄を羨ましく思ったこともある。

無条件で彼女の側に立てるから。

なんの憚りも無く、彼女の名前を呼べるから。


けれど、気付いてしまった。


彼女は誰にも縋らない。

己の足で立ち、標を定め、歩んでいくのだ、と。



それならと、考えた。


“僕”は年下という変えようのない事実を利用しよう。


彼女を“あね”として慕い、当たり前のように側に居よう。


ただの“シエル”ではなく、“弟のシエル”を演じよう。


そうすればきっと、いつまでも、彼女は笑ってくれるから。


名を呼んだとき、優しく応えてくれるから。











「うん、魔獣はけっこう減ったし、怪我人の治癒も完璧。これなら、フリアちゃんも安心できるね」

「ありがとうございます。シエル様」

「本当に、今回は……どうなることかと……」


「フリア様が駆けつけてくださらなかったら、と考えるだけでも恐ろしい」

「それに、マイアーの方々にも、大変お世話になりました」

「ううん。僕たちは何もしてないよ。フリアちゃんが来てくれなかったら、何も、出来なかったから……」



ガロン兄さんが祠へ向かって暫く。


溢れる魔獣も激減し、瘴気も幾分薄くなった頃、手に武器を持った人々はやっとの事で一息入れている。




――瘴気が薄れているってことは、つまり……





“常夜の森”の最奥に鎮座する祠。

その方向に意識を向ける。


この森の瘴気は全てあの祠から湧き出ている。

祠から湧き出た瘴気が溜まり、濃度を増すことで魔獣が生まれ、さらなる瘴気で数を増やす。


いっそ祠を壊してしまえば、溢れる瘴気は消え失せないのか、とも思うが、それは禁忌らしい。


なんでも、あの祠自体が一種の封印の鍵となっているらしいのだ。


あの場所に祠がある事によって、本来なら国中に広がる規模で噴き出す瘴気が、ここいら一帯に収っているのだとか。


――フリアちゃんの目的は、魔獣を生み出す瘴気を薄くすること。


“人”に害を及ぼす瘴気を、魔力へと変換できるのはこの国で、否、この世界で今はたった一人だけ。


瘴気をその身に宿し、己の器を使って魔力へと変換する。


言葉で表現すれば、それだけだが、身体に負担がかかるなど、言うまでも無い。


宿体が持つ魔力を使用する魔術師は、器の大きさで保有する魔力に限りがある。

当然、魔術を使えば魔力が枯渇する。

それに、身体に宿る魔力の属性によって、得意不得意が出る。

厳しい訓練をこなせば、各属性の初級魔術くらいなら、なんとか使えるようになるらしいが。


魔力を回復するには時間がかかってしまうので、魔術師にとって魔力を消費することは極力避けたいことであり、もしも戦闘中に魔力切れを起こしてしまえば命の保証は無い。

魔術師は、魔術が使えなければただの非力な人間にすぎないのだから。


それ故、瘴気を魔力に変換することの出来る“バイアーノ”の者は“最強”と謳われる。

瘴気がある限り、魔力が尽きることなど無いのだから。




――その代償が、どれ程大きかったとしても、当人以外知る由も無い



――姿形はヒトであるが、根源は魔獣と同じ。

あの一族(バイアーノ)”は“魔獣と同じ”、バケモノである。



そう、口にする人々が存在することを知っている。



――バケモノ



そう口にされるたび、彼女の瞳が凍るのを、これまで何度も目にしてきた。


髪が、瞳が、纏う魔力が、他とは異なるというだけで、どうして、心無い言葉を投げられなければいけないのか。

自分達を、その身を挺して護ってくれる者達を、何故、そこまで貶めるのか。


“圧倒的な強さを、人は恐れるものよ。”


“恐ろしいものを排除したく思うのは、人間の(さが)なのでしょう”


“圧倒的な一つの力より、数の暴力の方が、遙かに強いのにね”



彼女はそう言って笑っていた。

寂しげな色を瞳に宿して。



誰よりも強く、誰よりも孤独な彼女の側に居たいと願った。

ただ、そこに居るだけの存在に、なりたいと願った。




「――兄さんも、同じ気持ちだと、思って、いたのに、なぁ」


極小さな声で、溜息と共に吐き出す。



――そろそろ、二人の元へ向かおう。


そう思い、足を進めようとした時、夕日に照らされ赤く染まる森に、あり得ない銃声が鳴り響いた。


「……この、音は」

「“対魔獣用”の銃です。もう、討伐は終えているはずなので……まぁ、討漏らしを見つけたのかもしれませんが」


「でも、いまの方向って、だいぶ奥からじゃ……」

「――確かに。討伐の最も深い場所がこの場所だ。これより先に、他の討伐部隊が向かっているとは思えない、な……」


「っ! ――僕が確かめてくるから、みんなは先に帰っていて!」



言うが早いか走り出す。


きっと、あの人達は他の部隊と合流して、無事に帰ってくれるだろう。


銃声の方角、“祠”のある場所へと一心に駆ける。


瘴気が薄まったおかげで、魔獣に出会うことも無い。

安心して転移魔術を駆使し、少しでも距離を短縮する。



どうしてだろう、なぜか、鉛でも飲み込んだかのように、胸が重い。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ