In my place
初投稿だった気がする…。思い出せないが。
「あ…すまねぇ…。ちょっと席を外す。なんかあったら呼んでくれ。」
男は私を見て、どこか寂しそうな様子で病室を後にする。
私はとりあえず記憶をたどり、置かれている状況を理解しようとする。
最後の記憶…。どこだ?
たしか、皆で集まってテスト勉強をする予定だったはず。
それは明日だっけ?明後日だっけ?よく分からない。思い出せない。
記憶をたどればたどるほど、曖昧になっていく。記憶が崩れていくようだ。
そもそも皆って誰だっけ?友達だった気がするけど名前が思い出せない。
かろうじて思い出せるのは私の名前、家族の名前。それだけだった。
「……。」
窓の外を見る。赤く染まる夕暮れ。どこか退廃的で、滅びゆく世界を見ているような。
目に映る景色はまるで映画のワンシーンのような、どこか寂しい感じがした。
ここはどこなんだろう。さっきの狼みたいなやつは誰なんだろう。
ドッキリだろうか。それとも悪い夢?何もわからないのは怖い。不安になる。
ドアの方に目をやると、さっきのやつがこっそりこちらを見ているのが分かった。
隠れているつもりだろうか。耳だけが出ているその様子がどこかおかしくて、私は笑った。
「あなた、それで隠れているつもり?こっちに来ていろいろ聞かせてよ。私、何もわからないの。」
狼男がドアの影から気まずそうに出てくる。
そういえば…さっきの話を聞く限り、私のケガはこいつにやられたようであったが…。私とこいつはどんな関係なんだろう。
「何もわからないって…。記憶喪失か…?」
「まぁ、そんな感じ。ねぇ、あなたと私ってどんな関係だったの?好敵手?それとも同僚?恋人ってことはないよね…。」
狼狽える狼男。話していてなんとなく分かったのは、こいつは敵じゃないってこと。
私が寝ている間もずっとそばにいてくれたみたいだし、心配されているのも分かった。
「俺は…ナレガ。お前の名前は柊っていうんだが…それは覚えているか?」
「うん。」
私は狼男に、自分の記憶がどこまで確かであるのかを説明する。話し終わると狼男…ナレガは申し訳なさそうな様子を見せる。まぁ、私の記憶を飛ばしたのが本当にこいつならば、反省はしてもらわねば。
「これは…。覚えているか?」
ナレガはそばに置いてあった鞄を漁る。そして私の前に次々と並べていく。それを見て私は絶句した。
「え…?」
目の前に並べられたのは近代的な兵器。銃とか全然詳しくないけど、どうみても人を殺すための武器であることは分かる。銃火器、ナイフ、手榴弾。あと、なんか望遠鏡みたいなもの。
ところどころ血のようなものがついている。これ、私の物?そんなわけがない!
でも…。分からない。記憶が抜けているだけかもしれない。私は混乱していた。
「落ち着け、柊!俺から全部説明する。」
狼男が近寄ってくる。私はそれを手で振り払う。自分でも驚くぐらい焦っていた。
銃を見た瞬間。思い出したのは引き金を引く感触、銃声。床に落ちた血。撃った?私が?これを?
分からない。何も分からない。情緒不安定だ。さっきまで落ち着いていたのに。
こいつのことも疑わしく思えてきた。記憶喪失に付け込んで私を利用しようとしている可能性もある。
「あなたが…。まだ、信じられない…私の敵じゃないってことを…証明して!」
自分でも失礼なことを言っている自覚はあった。狼男は少し困ったような様子を見せた後、鞄の中から一枚の紙きれを取り出し、私に渡してきた。
「これ、お前が書いたんだよ。お前の絵、お前の字だ。それぐらいしかねぇけど…。」
渡された紙を見ると、狼の絵に文字の羅列。横に値段のようなものが書かれている。
商いでもやっていたのだろうか?
「……。」
じっと見つめると、確かに私の書いた絵のようなカンジがする。なんにでもリボンをつけて可愛くしようとするのは昔からのクセだ。字も同じような感じ。狼男は同じような紙を何枚も取り出す。
「俺の話を聞いてくれないか。全部正直に話す…。だから…。」
必死に頼み込む姿を見て、私は話だけでも聞くことにする。いつもは楽観的な私も、今ばかりは不安だった。
ナレガの肘鉄でひーちゃんは三日三晩寝込む羽目になりました。記憶消去というおまけ付きで。
これは許されない。