優男は苦労皺が多い
投稿は初です。
「おお、ふ・・・。」
異様な光景だ。王宮の一室に所狭しと並べられた機械兵・・・?
この国はこんなものが必要なほど、強大な敵と戦っているのだろうか。
街を散策しているときはとてもそんな感じはしなかったが・・・。
「なんか気持ち悪いな・・・。」
違和感の正体はその構造にあった。
遠目から見ても分かるその異質さ。
こいつらは今まで俺たちが見てきた異世界の姿と全然違う。
技術が発展しすぎている。
機械兵の腕には小銃?のようなものが取り付けられ、体の至る所に防弾用の金属が埋め込まれていた。
まるで、俺たちの乗ってきた戦車のような・・・。
大規模な近代兵器のようだった。
この国では魔法の代わりに科学が発展したのか?
それとも、他の国が遅れているだけなのか?
「ここにおられたのですか。」
振り返るとフリッツが立っていた。
「なぁ、これっていったい何なんだ?もしかして見ちゃまずいものだったりした・・・?」
「えぇ、そうですね・・・。」
彼は静かにそう答え、こちらに近づいてきた。
これはやってしまったな。終わった。
これはきっと、王国が隠していた秘密兵器で、それを知った俺は口封じのために消されるのだろう。
「・・・?大丈夫ですか?」
勝手に震えながら涙目になっている俺を心配するフリッツ。
あれ、俺、消されるんじゃないの?
「あれを作るきっかけになったのは、あなたのような変わった人との出会いでしてね・・・。」
勘違いしていた俺を道案内しながら、フリッツは機械兵について話してくれた。
あぁ恥ずかしい。あんな暗闇で近寄ってこられたら誰だって誤解するわ。
「その人もあなたたちのように、この世界では存在しない、不思議な武器を持っていました。」
クソ、田辺犬め!お前のせいで迷子になって、恥までかいて・・・。
姿が戻った時にはすぐにチクってやる。ジャスミンもフリッツも、きっとドン引きするだろう。
「我々は武器の構造を解析し、少しでもこの国の防衛に活かせないかと考えました。」
きっとジャスミンは泣き出し、フリッツは正義の鉄槌を下すだろう。
いい気味だ。女子と一緒に風呂に入るスケベ犬は俺たちのチームにはいらない。
「試行錯誤の末、完成したのが先ほどの機械兵です。といってもまだまだ改良の余地がある試作型ですが。」
だが、奴も好きで犬になったわけではない。風呂に入ったのだって不可抗力だ。
そもそも奴の射撃の腕なしで俺たちは生き残れるのか・・・?飯山は使い物にならないし・・・。
「どうか、このことは他言無用でお願いします・・・。
民にこのことを伝えれば、大戦の前触れと勘違いされ、よけいな不安を煽ることになります。
この兵器は自衛用の兵器であり、侵略に使うためのものではないのです。」
よし、俺は田辺を許そう。奴が返ってきたときには笑顔で迎えてやろう。
俺は田辺を怒らない。噛んだことも許す。臭かったことについても許す。
その代わり風呂で何があったか、その様子を詳しく聞かせてもらおう。
「あの、権丈院君、聞いてます・・・?」
「え、あ、もちろん!俺は奴を許すよ。だからフリッツも、彼を許してやってくれ!」
フリッツは俺を見て呆れたようなそぶりを見せる。
あれ、俺なんか悪いことしたかな・・・。
休憩所に戻ると山田さんとジャスミン、そして田辺犬が悪びれる様子もなく座っていた。
「あ、権丈院君おかえり。どこまで行ってたの?」
「あぁ、なんか地下のォ・・・。」
言いかけたところで、俺はフリッツに小突かれる。
「他言無用で。」
耳元でそう囁くフリッツ。
あぁ、さっきの話はそういうことだったのね・・・。
「さて、ひと段落着いたようだし私たちが町を案内してやろう。」
ジャスミンが呟く。それは本当か!?やっと落ち着いて観光ができる!
「あなたは犬と一緒にいたいだけでしょう・・・。」
呆れたようにフリッツが呟く。こいつもいろいろ苦労しているんだな。大変だ。
そんなフリッツを無視し、犬を抱きかかえたままジャスミンは外に向かう。
俺達は彼女についていき、異世界でも有数の大都市を観光することにした。
さりげなく戦車に置き去りの飯山。復活の日をただ静かに待つ。




