受取人の同意・2
怪異の記録を捨てた町でも連鎖は止まらなかった。第498話の朝、夜間図書館へ新しい連絡が入り、雨宮澪は推測欄を空白のまま開いた。正体、目的、選定理由、停止法は依然として不明。分からないことを答えの形に整えないという約束だけが、記録班に残っていた。
午前二時、鍵付きの保管箱を受け取ったという短い電話が入った。対象が受取人本人か、家族か、生活圏の別人かは分からない。以前なら記録班は末尾像を読み、保護対象を一人へ絞ろうとした。今は希望者全員へ連絡し、最も近い協力者を向かわせる。
雨宮澪が到着した時、受取人は玄関の内側で灯りを消していた。映像には二秒間の完全無音があったが、次の時刻も場所も示してはいない。原因を説明してほしいと問われ、分からないと答えた。代わりに、朝までここにいることと、望む相手へ連絡できることを伝えた。
別の町では協力者が間に合わず、一人が死亡した。連絡網は救命を保証しない。全員へ同行できず、保護しても怪異を防げない。それでも家族への説明、警察への引継ぎ、遺体発見までの孤独を減らすことはできた。
「成功した件だけ数えない」
久瀬直人は到着できなかった時間も台帳へ残した。次は十分早く出られるよう当番を増やした。怪異の規則ではなく、人間側の遅れだけを直す。その小さな改善が、答えのない夜をつないでいった。
夜明け前、別の地域から着信が入った。新しい映像の末尾には、誰も知らない部屋が映っている。警告とも誘導とも断定できず、次の対象も選べない。
「映像ではなく、受け取った人のところへ行こう」
雨宮澪は第498話の記録を閉じた。待機者が車を出した。連鎖は続いている。それでも電話の向こうで、一人ではないと伝える声も続いていた。




