残るもの・5
十二月の冷たい雨が、臨時記録室の窓を曇らせていた。第449話で確認するのは、怪異の規則ではなく、人間が規則だと思い込んだものの脆さだった。正体、目的、選定理由、停止法は不明のまま。分からない欄を推測で埋めない方針だけが残っていた。
海沿いの町は、怪異に関する記録をすべて焼却したと発表した。端末を初期化し、紙を裁断し、住民にも映像を保管しないよう求めた。記録班は反対しなかった。保存が被害を止める証拠も、廃棄が連鎖を早める証拠もなかったからだ。
三週間後、郊外の写真店で開かれた未使用の消去された記録媒体に、前の犠牲者の最期が現れた。誰も撮影しておらず、配送記録にも異常はない。それでも存在しない撮影時刻は真正記録と一致した。雨宮千景は焼却前の複製を疑ったが、映像の末尾には焼却後に建てられた案内板が写っていた。
町はもう一度すべてを捨てた。だが次は、古い家族写真の裏側へ像が滲んだ。媒体を拒否しても、怪異は生活の中にある紙や写真を勝手に入口へ変えた。映像を見なかった住民も死亡し、廃棄と未視聴のどちらも停止法ではないことだけが残った。
「町の判断が間違いだったとは書かない」
藤代修司は言った。正解が存在すると証明されていない以上、結果から誰かを責めることはできない。記録班は焼けた台帳の代わりに、分からなかったことを新しい紙へ書き直した。
夜明け前、封じた消去された記録媒体の余白に、知らない部屋の一角が浮かんだ。次の対象を示す保証はない。警告とも誘導とも断定できない。
「届いた事実だけ残そう」
雨宮千景は第449話の記録を閉じた。廊下では新しい電話が鳴っていた。連鎖は止まらず、誰かがまた前の犠牲者の最期を受け取っていた。




