十五分の遅れ・10
十一月の雨が窓を細く叩いていた。第248件目の記録で確かめるのは、「末尾像の読み違いと、保存を巡る記録班の亀裂を記録する」ことだった。怪異に名はつけない。正体、目的、選定理由が不明であることを、分かったふりで埋めない。それが第百五十話までに残った唯一の姿勢だった。
末尾の一枚には、河口の水守市の公民館の会議室と、傘を差した後ろ姿が写っていた。記録班は服装と通勤時刻から一人を候補に定め、本人の同意を得て二十四時間の同行を始めた。榊原凛は断定を避けたが、皆が今度こそ間に合うと願っていた。
予定時刻、保護室では何も起きなかった。同じ頃、十五分離れた住宅で別人が死亡した。届いていた封筒入りの連続写真には二秒間の完全無音があり、傘の人物は対象ではなく、偶然その前を横切った保管者だった。末尾像は次の死者を指す。その前提そのものが、初めて崩れた。
久瀬直人は保存庫を閉じるべきだと言った。追うほど誤認で人を傷つける。凛は、捨てれば次の一人を完全な孤独へ戻すと反対した。澪はどちらにも同意せず、誤りを消さず台帳へ残した。記録班の机は同じ部屋にありながら、夜明けまで二つに分かれていた。
夜が明ける前、封じた封筒入りの連続写真の裏側へ新しい時刻が浮いた。インクも圧痕もない。到着予測に使える保証はなく、命令や警告だと読む根拠もない。
「事実だけを残そう」
榊原凛はそう言い、第248話の欄を閉じた。止め方は増えなかった。代わりに、これまで正しいと思っていた規則が一つ減った。廊下へ出ると、誰も触れていない電話が鳴り始めた。次の連絡だった。
誰かが原因を尋ねたが、久瀬は首を振った。分からないという返事は頼りなく聞こえる。それでも、根拠のない説明で恐怖を閉じ込めるより正確だった。




