届いた紙面・5
十一月の雨が窓を細く叩いていた。第193件目の記録で確かめるのは、「通信障害下の町で、対象本人とは別の保管者へ届く事例を追う」ことだった。怪異に名はつけない。正体、目的、選定理由が不明であることを、分かったふりで埋めない。それが第百五十話までに残った唯一の姿勢だった。
大型の土砂崩れで外部通信を失った河口の水守市に、記録班が入った。基地局も固定回線も止まり、郵便車も三日来ていない。それでも商店街の時計店には留守番電話のテープがあり、前の犠牲者の最期が並んでいた。届くための経路が断たれても、到着そのものは消えなかった。
宛名は死亡した対象のものではなく、近所に住む保管者の名前だった。保管者は映像の人物を顔見知り程度にしか知らず、開封もしていない。だが紙面には末尾の後ろ姿があり、末尾には対象が毎朝通った道が写っていた。久瀬直人は受取人と対象を同じものとして扱ってきた台帳に、初めて二本の欄を引いた。
藤代修司は保管者を責める住民を止めた。持っていたことと、選んだことは違う。誰が、何のために保管者を置いたかという問いにも答えはない。分かったのは、映像が対象本人へ直接届かなくても死は起きることだけだった。
夜が明ける前、封じた留守番電話のテープの裏側へ新しい時刻が浮いた。インクも圧痕もない。到着予測に使える保証はなく、命令や警告だと読む根拠もない。
「事実だけを残そう」
久瀬直人はそう言い、第193話の欄を閉じた。止め方は増えなかった。代わりに、これまで正しいと思っていた規則が一つ減った。廊下へ出ると、誰も触れていない電話が鳴り始めた。次の連絡だった。




