次の封筒・3
十一月の雨が窓を細く叩いていた。第180件目の記録で確かめるのは、「非公式記録班を実働させ、救命を約束せず孤独だけを減らす」ことだった。怪異に名はつけない。正体、目的、選定理由が不明であることを、分かったふりで埋めない。それが第百五十話までに残った唯一の姿勢だった。
記録班へ連絡が入ったのは午前零時過ぎだった。雨宮澪は「助けられる」とは言わず、受取人の家へ向かう人数と到着時刻だけを伝えた。非公式の班に逮捕権も強制力もない。できるのは、届いたものを本物か確かめ、望む家族のそばに誰かを置くことだけだった。
消防団倉庫で見つかった濡れていない新聞紙には、真正記録の共通痕である記録にない受領印が残っていた。模倣なら説明できる部分は多い。それでも、密封前には存在しなかった像と、複製から必ず消える無音だけは説明できない。久瀬直人は推測欄を空白にし、確認時刻だけを書いた。
受取人は映像を見なかった。端末も紙も別室へ移した。それでも容体は予定されたように崩れ、医師の処置は届かなかった。記録班の同行者は、その手を最後まで離さなかった。救えなかったという事実は変わらない。だが、誰にも信じてもらえず一人で待つ最期ではなかった。
夜が明ける前、封じた濡れていない新聞紙の裏側へ新しい時刻が浮いた。インクも圧痕もない。到着予測に使える保証はなく、命令や警告だと読む根拠もない。
「事実だけを残そう」
雨宮澪はそう言い、第180話の欄を閉じた。止め方は増えなかった。代わりに、これまで正しいと思っていた規則が一つ減った。廊下へ出ると、誰も触れていない電話が鳴り始めた。次の連絡だった。




