異世界とパグ
目覚めた時の違和感は、ただ事ではなかった。
視界が低い。何より、自分の手を見ようとして目線を落とした先には、薄茶色い毛皮に覆われた、ふっくらとした短い前足があった。
「嘘だろ……?」
慌てて顔を触ってみる。この鼻のぺしゃんこ具合、そして垂れた耳。俺はパグになっていた。
おそるおそる身体を起こそうとすると、驚いたことに俺の身体は四足ではなく、二本足でしっかりと地面を踏みしめていた。パグの姿で、人間のように直立しているのだ。短い足で不安定によろめきながらも、俺は一歩を踏み出す。ぺしゃんこの顔が左右に揺れ、垂れ耳が風に跳ねる。
視界に入るのは鬱蒼と茂る木々。空を見上げると二つの月・・・昨日まで、俺は普通の社会人として生活していたはずなのに。
「……腹が減ったな」
試しに喋ってみると、パグの愛くるしい口元から、驚くほど明瞭な日本語が紡ぎ出された。人語を理解し、そして発することができる。この事実は、絶望的な状況において、唯一の希望かもしれない。
鬱蒼とした森の奥から、突然、殺気がほとばしった。
茂みをかき分け現れたのは、通常の狼の二倍はあろうかという巨大な獣。飢えた獣の眼光が、俺という「小さな獲物」を捉える。
獣が咆哮と共に跳躍した。鋭利な牙が俺の首元を狙って迫る――。
だが、俺の意識に迷いはなかった。
たとえ身体がパグに成り果てようとも、この脳裏に刻まれた流派の型は決して錆びつかない。
俺は流れるような身のこなしで、死の接吻を紙一重で躱した。短くずんぐりしたはずの足が、不可解なまでの速度で地面を滑る。
着地した獣が、憤怒の表情で再び飛びかかってきた。その瞬間、俺は懐へ潜り込み、最小限の動作で急所を的確に突いた。
「刻覇 "剛砕撃"」
俺が呟いたのと同時に、巨体は木の葉のように吹き飛び、断末魔を上げる間もなく地面に叩きつけられた。
俺はぺしゃんこの顔で、倒れ伏す魔獣を見下ろす。愛くるしい瞳の奥で、冷徹な眼が光っていた。
「Species Transformation(種族転換)だろうがなんだろうが、俺が最強であることに変わりはないらしい」
俺は二本足で悠然と歩き出し、この世界に暗殺拳・刻覇流の伝説を刻むべく、森を抜け出す決意をした。
読む専だった私が小説を書く日が来るなんて。
とりあえず勢いで書いて行こうと思います。
ヨロシク




