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第1話 裏世界へようこそ~崩壊寸前の世界で、運命の謎の少女を拾った~

「きゃああっ——!」


どこからともなく伸びてきた手が、夏玖微(かきゅうび)の背中を思いきり突き飛ばした。


次の瞬間、ふっと足元の感覚が消える。


体が前へと投げ出され、そのまま階段の踊り場のコンクリートに——真正面から叩きつけられた。



「いったたた……」


夏玖微は顔をしかめながら体を起こし、服についた埃をぱんぱんと払い落とす。


「いい加減にしてくれない? 毎日こんなチマチマした嫌がらせ、楽しいわけ?」


吐き捨てるように言って振り返り、勢いよく階段を駆け上がる。


——だが、そこには誰もいなかった。


足音も、笑い声もない。


いつもなら必ず姿を見せるはずの“あいつら”も、影ひとつ残っていない。



「……ちっ、逃げ足だけは速いんだから」


唇を尖らせながら、ひねった左手をかばい、保健室へ向かう。


——いつもの“応急処置”のために。


廊下は、異様なほど静まり返っていた。


埃の積もった床を踏むたび、わずかに湿った匂いが舞い上がる。


コツ、コツ、コツ——


足音だけが、がらんとした校舎に反響してやけに大きく響いた。


「……今日の学校、静かすぎない?」


階段から落ちたあたりから、空気が妙に冷え込んでいる。


人気がない、というより——何かが“抜け落ちた”ような感覚。


それでも、不思議と怖さはなかった。


むしろ、この異常さに——わずかな高揚すら覚えていた。



保健室の扉は半開きだった。


押して中に入ると、やはり誰もいない。


「すみませーん。三秒待ちますよ? いなかったら勝手にやりますからねー」


軽く声をかけながら中を見回す。


返事はない。


その瞬間、彼女の口元がにやりと歪んだ。


簡単に手当てを済ませると、ついでに包帯や消毒用品をいくつか拝借し、そのまま部屋を出ようとした


——その時。


外から、かすかな音がした。


ぴたり、と足が止まる。


保健室の死角。


そこに——黒い影が、ゆらりと滲み出ていた。


いくつも、いくつも。


歪み、引き裂かれるように形を変えながら——やがて、それらは“人の形”を成していく。


制服姿の、生徒たちに。


「……誰?」


「そこにいるの?」


眉をひそめながらも、夏玖微はためらわず前へ出る。


次の瞬間——


“囲まれていた”。


見慣れた顔が、すぐ目の前にある。


近すぎる。息がかかるほどに。


「へぇ?」


口元を吊り上げる。


「今日はやけに人数多いじゃん。わざわざお出迎え?」


——返事はない。


ただ、じりじりと距離を詰めてくる。


空気が、粘つく。


さっきまでの笑みが、ゆっくりと消えていった。


「……毎日ワンパターンすぎない?」


低く吐き捨てる。


「突き飛ばして、囲んで、知らん顔。教師は“見えてない”からセーフって?」


くすっと笑う。


だが、その目はまったく笑っていない。


「それとも、誰かに守られてるから、全部“遊び”で済ませてるわけ?」


数人に視線を止める。


「アンタらが手出しすれば“冗談”。」


一歩、踏み出す。


「こっちがやり返したら——“暴力”ってか?」



——その瞬間。


ひとりの女子が、勢いよく飛びかかってきた!


夏玖微はつま先を引き、体を捻る。


流れるような動きで——膝蹴り、打撃、そして肘を叩き落とす。



「——ッ!」


鈍い音とともに、最初の一人が崩れ落ちた。


胸を踏みつけ、息を整えながら——彼女は、低く笑う。


胸の奥に押し込めていた何かが、裂けたようにあふれ出す。


頭のてっぺんから指先まで、じわじわと広がる——奇妙な快感。


「……悪くないじゃん」


踵を返し、保健室へ駆け戻る。


手近にあった金属製の消火器を掴み——


迷いなく、再び外へ。


次の瞬間には、もう殴りかかっていた。


叩く、ぶつける、蹴る、振り下ろす——


動きは次第に荒く、容赦なくなっていく。



だが——


倒れたはずの“それ”が、動いた。


体がぐにゃりと歪み、溶けるように崩れ、黒い影へと戻る。


そして——また“人の形”を取り、何事もなかったかのように立ち上がる。


「……復活アリかよ」


呼吸が荒くなる。


体力は確実に削られているのに、あいつらは終わらない。


「チッ——!」


歯を食いしばり、全力で駆け出した。


肘で押しのけ、体当たりでこじ開ける。


密集した“人の壁”を無理やり突破する。


飛び出した先——


階段の曲がり角に、“見覚えのある背中”があった。


「……じいちゃん?」


振り向かない。


ただ、前へ歩いていく。


一瞬の迷いのあと、夏玖微はすぐに追いかけた。


——その背中に、答えがある気がしたから。


何度も曲がり角を抜けるたび、あと少しで届きそうで——届かない。


影は、いつも一瞬で消える。


やがて、その背中は一つの教室へと入っていった。



「——待って!」


勢いよく扉を開ける。


だが、そこに祖父の姿はなかった。


代わりに——教室の隅で、小さく震えている少女がひとり。


夏玖微はすぐに扉と窓を閉め、カーテンを引く。


外界を完全に遮断する。


「ねえ、さっきおじいさん見なかった?」


少女は答えない。


ただ震えている。


「……どうしたの?」


近づいた瞬間——


「来ないで!!」


叫びと同時に、足元の影から黒いものが溢れ出した。


夏玖微は即座に後退する。


やがて影は収まり、再び静かになる。


「……へぇ。便利じゃん、それ」


軽く机に腰掛け、足をぶらぶらさせる。


「それ、私にも使えたらさ。毎日ケガしなくて済むのに」


少女が、ゆっくり顔を上げる。


「ほら、ここ」


捻った手、擦り傷、古傷を見せる。


「保健室まで来てたでしょ? あの影」


少し間。


「……違うの?」


「ごめんなさい……」


少女は膝に顔を埋めた。


「いいって。同じとこに来た時点で仲間みたいなもんでしょ」


軽く笑う。


「で、名前は?」


「……陸念安(りくねんあん)


「いい名前じゃん。どっかで聞いた気もするけど……まあいいや」


そのとき——


「さっきの、おじいさん……見たよ」


「どこ行ったの?」


少女は教壇を指さす。


夏玖微は歩み寄り、黒い装丁の本を手に取った。


——触れた瞬間。


それは、本ではなくなった。


黒い紋様となって、手の甲に焼き付く。


「っ——あああッ!!」


焼けるような痛み。


思わず手首を押さえ、体が折れる。


汗がにじむ。


「大丈夫!?」


少女が駆け寄る。


やがて痛みが引いた、その瞬間——


ぽん、と。


肩の上に、何かが現れた。


手のひらサイズの、丸い“なにか”。


ふわふわの、小さな存在。


二人が息を呑む中——


それは、無邪気な声でこう言った。


「裏世界へようこそ」

【作者からのお願い】


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