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『二つの世界、一人の魔王』~東京2080からエヴァの大地へ~  作者: 黒猫
第十章:魔神帝国の統治
112/112

第112話:さあ、時間だ!

反乱翌日、帝都はまだ恐怖から抜け出せないまま朝を迎えていた。


街中には戦闘の痕跡が残り、親衛隊の兵士たちが区画を巡回して、逃げ隠れする最後の反乱者たちを容赦なく切り伏せていく。


ローズは残った親衛隊の先頭に立っていた。


「宮殿のすべての通路を制圧する! 塔、倉庫、地下の出入口をくまなく調べろ。城塞内に反乱者の一人たりとも残してはならぬ……もし見つけたら、容赦なく始末しろ」


兵士たちが口を揃えて答えた。「了解しました、隊長!」


ローズは地図を見つめたまま動かなかった。


吉田の「死」以降、彼女の中で何かが変わっていた。表情は相変わらず厳しいが、その瞳には以前とは違う光が宿っている。もはや彼女を動かしているのは、怒りだけではなかった。デルガドが死んだ今、吉田とその治世を守るために必要なのは、恐怖だけだった。


一方、帝都の外では状況が思わぬ方向へ進んでいた。一般市民たちが、逃げ出そうとする反乱者たちを自ら捕まえ始めていたのだ。


デルガド王子の死の知らせは瞬く間に広まり、それと共に民衆の怒りも爆発していた。


反乱者を親衛隊に引き渡す者。


引き渡す前に、自ら拳を振るう者。帝都は襲撃を受け、王は殺され、王子は王を生き返らせるために命を捧げた。多くの人々にとって、それはもはや憐憫の余地などなかった。


知らせは四人の地方大領主にも届いた。ルシアン卿、ガレス卿、オーウェン卿、ハロルド卿はほぼ同時に報告を受け取り、事態の深刻さを悟った。


デルガドは死んだ。反乱は鎮圧されたが、他の魔族がその不在に乗じて動き出さないとも限らない。そのため四人は、いかなる事態にも備えて兵力の動員と領土の防備を開始した。


その後の数日は、復興に費やされた。


城壁は修復され、街は清掃され、帝国軍は再編された。捕らえられた反乱者たちは容赦なく処罰された。しかし日が経つにつれ、ある重要な事実が明らかになっていく。反乱はあくまで帝都の問題であり、魔帝国のその他の地域は比較的平穏だったということだ。


——少なくとも、今のところは。


♦


吉田は巨大なベッドに横たわっていた。


まだ脚を思うように動かせず、無理に体を起こそうとすると全身に奇妙な感覚が走る。部屋の片側で、エリカが書類の山を前にした机に座り、数時間にわたって書き物を続けていた。


「これで……よろしいでしょうか?」


若き士官が一枚の紙を確認する。


吉田はベッドに横たわったまま頷いた。


「ああ。考えていたのはそういうことだ」


エリカが顔を上げる。


「陛下は、この貧しい帝国のことをよくお考えになっていますね」


吉田は天井を見つめた。


「ほぼ全部めちゃくちゃになってるんだ。無視するほうが難しいよ」


エリカが小さく笑う。


「おっしゃる通りです」


吉田はわずかに頭を彼女の方へ向けた。


「エリカ」


「はい?」


「大変になるぞ」


彼の口調が真面目になる。


「俺が動けない間、お前がこれをまとめられると思うなら……正直に言う。全部まとめてたのはデルガドだった」


エリカは書類を机に置いた。


「ご心配なく」


彼女はどこか自信ありげに微笑んだ。


「少しずつ覚えていきます」


吉田も笑った。


「そう期待してる」


数秒の沈黙が流れた。そして吉田は何かを思い出したように辺りを見回した。


「そういえば……ナラはどこだ?」


エリカが片眉を上げた。


「ああ、反乱の噂を聞いた時に、昔の家へ送っておきました」


吉田がまばたきする。


「昔の家?」


「ええ」


エリカは小さく笑った。


「すぐに迎えに行きます」


「あいつがあの家の主になってなければいいんだが」


「あの子のことですから、たぶんもうなってますよ」


二人は小さく笑い合った。エリカは再び書類に目を落とすが、数秒後にまた顔を上げた。


「陛下、一ついいですか?」


「なんだ?」


「もし陛下が私をここに連れてきてくれなかったら……」


彼女の表情がより真剣なものになる。


「そしてデルガド殿下が儀式を行ってくれなかったら、私も今ここにいなかったはずです」


吉田は彼女を見た。


「それはよかった」


エリカが微笑む。


「となると、私は陛下に二つの命を借りていることになりますね」


「二つ?」


「陛下に救っていただいた命と、殿下のおかげで繋ぎ止められた命」


吉田は考え込んだ。


「それは結構面倒なことになったな」


「なぜですか?」


「二つも命を借りてる部下ができちゃったってことだ」


エリカはくすりと笑った。


「何か要求されるんじゃないかって、心配ですか?」


「ちょっとはな」


エリカは肘を机につき、どこか怪しげに微笑んだ。


「でしたら、お気をつけあそばせ、陛下」


「何を?」


「ベッドの下の怪物を」


吉田は彼女を見つめた。


「は?」


エリカはさりげなく下を指差した。


「何が隠れてるかわかりませんよ」


吉田は眉をひそめた。


「意味がわからん」


「かもしれませんね」


エリカは笑った。


「もしかしたら、今まさに誰かが私たちの話を聞いてるかもしれませんし」


「エリカ……」


「ただの発言です」


吉田はため息をついた。


「お前、明らかに変わってきたな」


「陛下のそばにいると、悪い影響を受けるのかもしれません」


「おい!」


エリカは笑い出した。その時——


バンッ!


扉が勢いよく開け放たれた。ローズが部屋へ飛び込んでくる。


「吉田!」


吉田は硬直した。エリカも同じだ。ローズは何も聞かず、許可も求めず、まっすぐベッドへ歩み寄り、吉田の隣に座った。


気まずい沈黙が部屋を支配する。エリカはローズを見、ローズはエリカを見、吉田は二人を交互に見る。誰も口を開かない。


やがてエリカが微笑んだ。


「あはは……」


彼女はゆっくりと立ち上がった。


「陛下には、プライベートなお話があるようですので」


ローズがわずかに目を見開く。


「え?」


エリカは軽く頭を下げた。


「私は失礼します」


書類を抱え、去り際にローズへ視線を向ける。


「失礼します、ローズ」


彼女は笑った。


「そろそろお気づきになるといいのですが」


ローズは眉をひそめた。


「何に……?」


しかしエリカはすでに部屋を出ていた。扉が閉まり、再び静寂が支配する。吉田はローズを見、ローズは扉を見た。


「……」


「……」


「あれ、どういう意味だったの?」


「さあな」


ローズはため息をつき、吉田の方へ向き直った。彼女の表情が変わる。両手をそっと彼の頬に添えた。


「大丈夫?」


吉田はわずかに笑った。


「まあ、見ての通りだよ」


彼は自分の脚を見た。


「……思い出させるか?」


ローズは彼の意図を理解した。数秒、彼女は答えなかった。やがてそっと彼の顔を撫でる。


「そんなの、どうでもいいの」


彼女の声はとても穏やかで、ほとんど囁きだった。


「大事なのは、あなたが生き返ってくれたこと」


吉田は黙って彼女を見つめた。ローズはわずかに視線を落とす。


「あなたを失ったと思った時……」


彼女は少し間を置き、声がわずかに震えた。


「まるで、すべてが……突然……」


吉田は黙って、彼女の一言一句を聞いていた。


「どうしていいかわからなかった」


ローズは彼を見つめずに続けた。


「急に、あなたがもういなくなるってことしか考えられなくて……もう二度と、こんな思いはしたくない。絶対に」


吉田は視線を落とした。


「ロゼ、本当にすまない。俺が……」


彼は言い切れなかった。ローズが身を乗り出し、彼に口づけた。


優しく、ほとんど恥ずかしそうなくらいのキス。吉田は驚いて目を見開いたが、離れようとはしなかった。彼女はそっと彼の服を掴み、離せば消えてしまいそうで、そばに居続けた。やがて二人が離れると、どちらも真っ赤になっていた。


ローズは彼の目をまっすぐ見られなかった。


「何も言わないで」


吉田がまばたきする。


「でも……」


「だめ」


ローズは自分の額を彼の額に寄せた。彼女の瞳は、吉田がこれまで見たことのない強さで輝いていた。


「もう二度と、あなたを手放さない」


吉田は笑った。


「俺もだ」


ローズはさらに身を寄せた。彼女の唇は、彼の唇まで数センチ。まさにその時——


ベッドの下から、何かが出てきた。手だ。


ザシュッ!


その手がローズの脚を掴んだ。


ローズは悲鳴を上げた。「ひぃぃ!」


ローズは飛び上がった。


「なによこれ!??」


吉田はほぼベッドから転げ落ちそうになった。ベッドの下から、笑い声が響く。


「あははは!」


ローズが目を見開く。


「まさか……」


ゆっくりと頭が現れた。ぼさぼさの髪。巨大な笑顔。


「サプライズ!」


エレノアがベッドの下から這い出てきた。ローズは真っ赤になった。


「……」


エレノアは笑った。


「あらあら……」


彼女は二人を見た。


「何か邪魔しちゃったかしら?」


ローズが叫んだ。「エレノアァ!」


ローズは彼女に飛びかかった。


「ベッドの下で何やってたのよ!!!」


エレノアは走り出した。


「科学的調査よ!」


「ぶっ殺すわよ!」


「無実の海賊を殺しちゃだめでしょ!」


「お前は無実どころか何にも該当しないわよ!」


エレノアは部屋中を走り回り、ローズが追いかけた。


「こっちおいで!」


「やだー!」


「エレノア!」


「有名なベッドの下の怪物が本当にいるか確認してただけよ!」


「あんたがやる必要あった!?!」


「成功したじゃない!」


吉田は手で顔を覆った。


「信じられん……」


やがてローズはエレノアを捕まえた。


「さあ、何やってたのかちゃんと説明しなさい!」


エレノアは両手を上げた。


「退屈してただけよ!」


ローズと吉田が同時に声を上げた。「退屈!?」


「そう」


ローズは歯ぎしりした。その時、エリカの言葉を思い出した。


『そろそろお気づきになるといいのですが』


ローズは動きを止めた。彼女の表情が変わる。


「……」


エレノアは首をかしげた。


「どうしたの?」


ローズは目を細めた。


「あの部下……」


「エリカ?」


「覚えてろよ」


吉田はため息をついた。


「エリカは完全にわかっててやったと思うぞ」


エレノアは笑った。


「あの子、気に入ったわ」


♦


やがて部屋には、ある程度の平穏が戻った。エレノアは窓辺に座り、吉田とローズと静かに話している。ローズは吉田の隣、同じベッドに腰を下ろしていた。


「本当に……」


ローズはエレノアを見た。


「私たちを、卑怯にも置き去りにするつもり?」


エレノアは片眉を上げた。


「おい、くそったれ騎士……」


彼女はローズを指差した。


「ちょっと自信がつきすぎじゃない?」


ローズは眉をひそめた。


「どういう意味?」


「数日前まで、私が吉田のことでジョークを言うたびに殺しかけてたでしょ」


「それは別」


「そうね」


エレノアは笑った。


「今はあの子のベッドに一緒に座ってるわけだし」


ローズは赤くなった。


「黙れ!」


吉田は笑い出した。エレノアは窓に背中をもたれさせた。彼女の表情はどこか懐かしげだった。


「まあ……」


彼女は外を見た。その窓からは、巨大な魔帝都の一部が見える。


「私は海賊よ。もう長すぎるくらい海から離れてる」


彼女は笑った。


「体が海を求めてるの」


ローズは黙って彼女を見た。エレノアは続ける。


「みんなと一緒の時間はすごく楽しかった」


彼女の視線は地平線へ溶けていく。


「でも、そろそろ海に戻らないとね」


数秒、誰も答えなかった。やがて吉田が口を開いた。


「そうだな……」


彼はエレノアを見た。


「今夜、竜に乗って出発する」


ローズは素早く振り向いた。


「何?」


「ヘッセンへ向かう」


エレノアは片眉を上げた。吉田は説明を続ける。


「そこでレインエル王に頼んで、ワーウィックの女王と軍神に話をつけてもらう」


「何のために?」


ローズが尋ねる。


「彼らの領地に入らせてもらう許可を取るためだ」


吉田はため息をついた。


「あんまりいい関係で別れてきてないからな」


彼はローズを見た。


「それに、魔導王と鉢合わせになるかもしれないって恐怖を抱えたまま、あの場所に入りたくはない」


ローズは手を擦り合わせた。何かを考えているようだった。


「ヘッセン、ね」


吉田は頷いた。


「ああ」


ローズは小さく笑った。


「わかったわ」


何か重要なことを思い出したように、エレノアが指を立てた。


「ああ、そうだ。吉田、思い出したんだけど……」


ドスッ!


拳が彼女の頭へ正確に突き刺さった。エレノアは床へ崩れ落ちる。


「……」


ローズは拳を上げたままだった。吉田は彼女を見た。


「何した」


ローズは深く息を吐いた。


「何も。ただ手が滑っただけ」


エレノアはまだ気絶している。吉田はエレノアを見て、そしてローズを見た。


「本当に?」


「完全に」


エレノアは床からゆっくりと親指を立てた。


「ご、五分……」


そして再び倒れた。吉田はため息をついた。ローズは再び彼の隣に腰を下ろした。


外では、帝都が夜の闇に包まれ始めていた。ヘッセンへの旅が今まさに始まろうとしており、その国境の向こうに何が待ち受けているのか、まだ誰にもわからなかった。


部屋は静寂に包まれた。そして——


すべてが、真っ暗になった。

第1話からの誤字や変な表現、名前・用語の不一致などを直すため、1〜2週間ほど一時休載させていただきます……! 再開時にはお詫び&お礼として一気に3話投稿しますので、楽しみにしていてくださいwwwwwwww

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