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打木希美は前を向く  作者: とは
第一章
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約束をするのはやぶさかではない

 信利(のぶとし)が席に戻ってまもなく、店員が料理を運んできた。

 湯気を立て、食欲をそそる品々に、希美は微笑まずにはいられない。 


「よし、まずは食べよう! 三人の出会いを祝して、カンパーイ!」


 希美達と違い、ドリンクのない征明(まさあき)が信利のおしぼりを掲げ、乾杯の合図をしてくる。


「……待ちなさい、征明。誰がいつ、お前をこのテーブルに招待した」


 すっかり冷静さを取り戻した信利が、隣に座っている征明へと冷たい視線を向けている。


「だって俺の友達、もう帰っちゃったもん。大丈夫、こんな時に言う言葉を俺は知っているから~」


 にこりと笑うと、征明は信利へとしなだれかかっていく。


「兄ちゃぁん。俺、今夜はこのまま帰りたくない~」

「帰れ。今すぐに帰りなさい」

「つれなーい! そんなひどいこと、希美ちゃんは絶対に言わないよね~」


 いつの間にか、自分への呼び方が『希美ちゃん』へと変わっている。

 それに対し、ひどく驚いた様子で信利が言葉を詰まらせた。


「なっ、きっ、きみちゃ……! おい、今日あったばかりの女性に、お前というやつは!」

「いいじゃん、だって俺達、友達だもん。ねっ!」


 覗き込むように自分へと笑いかけてくる姿は、やはり『可愛らしい』と呼ぶにふさわしい。

 いつもならば、こんなふうに声を掛けてもらっても、緊張でうつむいてしまうところだ。

 だが、信利に対する態度や、保護欲を掻き立てられる言動に先程から希美は笑いが止まらない。

 きっと自分が緊張をしないようにと、彼は行動してくれているのだ。

 そんな配慮をしてくれる彼に、自分も向き合いたい。


「そうですね。私達、お友達ですよ。どうかこれからもよろしくお願いしますね」

「うん! うん! じゃあ次に会うのはいつにする? あ、明日って空いてる?」

「ま、ま、まっ、待ちなさい征明ぃ!」


 持っていた割りばしを、折りそうな勢いで強く握りながら、信利は隣へと顔を向ける。


「うん? 別に待つのはいいけど、兄ちゃんすごくどもってるじゃん。どうしたの?」

「いや、……何でもない」

「そう? じゃあ続けるね。明日は土曜日だし天気もいいから、ぶらりと伊織(いおり)公園なんかに散歩に出かけるなんてどうかな?」

「伊織公園ですか? 私、そこに行ったことが無いから、場所がよくわからないですね」


 希美の言葉に、信利の眉がぴくりと揺れた。 


「……征明、一つ確認させてくれ。その公園に行く時間は、何時を予定しているんだ?」

「時間? なんでそんなことを聞くって。あ~」


 にやにやと笑いながら、征明は信利の首へと両手を絡めていく。


「夜だったらどうしようって思った? 伊織公園(あそこ)は夜、カップルが多いもんね~」

「おっ、お前というやつはっ……!」


 どこ吹く風といった顔で、征明は信利から体を離すと、希美へと笑いかけてくる。


「伊織公園は高台の公園なんだ。だからあたりの景色が一望できる、とても素敵な場所なんだよ」

「わぁ、そうなんですね。それは興味がわいてきまし……」


 わざとらしい咳払いが、希美の言葉を遮る。


「最近、どうも運動不足が否めない。朝の公園の空気は、健康にもよさそうだ。()()()()()であれば、……わっ、私もその公園に行こうかと」


 何ということだろう。

 この三人で出かけることが出来るなんて。

 嬉しさでこみ上げる笑顔を向け、前に座る二人へと弾んだ声で話しかけていく。


「とっても素敵ですね! 私、明日が来るのがすごく楽しみです。ふふっ、嬉しいなぁ! あっ、明日は何時にどこに集合ですかって、……あれ?」


 どうしたことか、二人はまばたきもせずに、自分を見つめ続けている。


「一水さん、浦元さん? どうされました?」


 声を掛ければ、はっと気づいた表情を浮かべ、二人は互いに顔を見合わせている。

 どちらともなく、ぷいっとそっぽを向く姿に、たまらず希美は吹き出してしまった。


 約束をする、明日を待つということ。

 それはこんなに、楽しいことだったのだ。

 彼ら二人もそうであったらいい。

 そう願い、希美は穏やかに微笑むのだった。

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