運命力53万
ダイアナが持ち帰った書類は、スフェーン家の当主・ウヴァロが経営するホテルで行われた盗品オークションの帳簿、ならびに盗品の買い取りや賄賂の記録だった。
金の流れた先は反女王派。
黒革の手帳みが凄かった冊子に書かれていたのは、架空口座ではなく賄賂の記録。
ウヴァロは彼等を後ろ盾に、犯罪組織と繋がり盗品を売り捌いていた。
つまりこの非合法オークションこそが、ルベル達が探していた反女王派の資金源だったのだ。
ウヴァロは芸術家を数人抱え込み、盗品と彼等の作品を抱き合わせで販売。
表の帳簿では、彼等の作品を販売したことにしていた。
裏帳簿はダイアナが持ち帰った暗号化されていたものだ。
売上のうち両替の必要がある外貨は美術品の販売として計上し、国内通貨は過小報告して脱税していた。
そして酒の帳簿は、窃盗団のメンバーリストだった。
酒の名前は、組織に所属する人間のコードネーム。数字は買い取った盗品の数と金額だ。
この窃盗団は、国をまたいで活動している大規模な組織。盗んだものを専用販路で捌いていたために、各国で盗みを繰り返していながら捜査の手を逃れていたのだ。
ロードライトのコードネームは、偽名でもあったライだ。
ボスの息子はまだ試験採用だったのでホワンチュウ。盗みに成功したらラオチュウに名を改める予定だった。
たしかに黄酒を熟成させたら老酒になるけど、モンスターの進化みたいなことすんなよ。
ちなみにウヴァロにもコードネームがあった。
ミリン。
えーっと、確かに混成酒だから酒なんだけど、もうちょっとマシなのなかったの?
味醂しか残ってないほど大人数だったの? それとも単純に組織内で嫌われてたの?
*
ダイアナが持ち帰った複数の帳簿は、数字以外は略語や暗号化されていた。
彼女の手土産を読み解くには、対となる資料が必要。
そしてそれは当主の執務室にある金庫に保管されていた。
重要な仕事を押し付けられていたスフェーン家の長女は、当然暗証番号を知っていた。
もうお分かりのことと思うが、アンバーの家名はスフェーン。
彼女は血縁だったために、金庫番となることを強要されていた、ウヴァロの姉だ。
自分に甘いウヴァロは、面倒な帳簿付けをやりたくなかった。
だが汚い金の流れの管理を他人に任せるのは危険だ。表沙汰にできないことをいいことに着服されたり、脅迫される可能性がある。
それで彼は血の繋がった姉に目をつけた。
彼女が家を出る機会を潰し、反抗されないよう屋敷内で孤立させた。
盗品オークションが始まったのは、ウヴァロが家と共にホテルを引き継いでからだが、脱税は親の代から行っていた。
「恩恵を受けていたのであれば連座は免れない」と言って、彼はアンバーに協力させていた。
保護された場所が王宮であることまでは気付いていなかったアンバーだが、目覚めた部屋の内装から権力者の家と推察した。
そんな家で自由に振る舞う若者なら当主の子息だろう、と彼女は敬愛するブラック様ことピジョンを介して内部告発した。
アンバーから情報を得たが、邸に踏み込むには証拠が足りない。
半端なことをしてしまえば、奥に潜む狸達を取り逃がしてしまう。
一度アンバーを家に返して、帳簿を持ち出してもらうか双子が頭を悩ませていた頃に、ダイアナお嬢様が半分とは言え証拠を持ち帰ったのだ。
へへっ、これが主人公の持つ運命力ってヤツよ。ご都合主義とも言えるけどな!
「へー、棚から牡丹餅ですね」と、のほほんとしたダイアナとは対照的に、一部を除くクォーツ組は真っ青になった。
帰国したウヴァロを逮捕することは叶わない。というか、彼から証言を得ることはもう無理かもしれない。
クォーツで起きたことを知った女王派は、慌ててクォーツ警備隊に連絡したが、手遅れだと誰もが内心諦めていた。
アンバーの証言と帳簿だけで、反女王派と戦うことを余儀なくされたかにみえたルベルだが、後日クォーツから身柄引き渡しの拒否と共にウヴァロの自白記録が届けられた。
そこには窃盗団や、反体制派の詳細が記載されていた。
窃盗団に関しては、近隣諸国で情報共有すれば、壊滅は時間の問題だろう。
更にどこからか反女王派の弱みが羅列された書類が届いた。
おそらくボスの心遣いだ。
正規の手段で調べられたわけではないので、そのまま証拠として使うことは難しいが、それは表の世界でのこと。
水面下で戦う分には頼もしい武器となる。
*
スフェーン家は家宅捜査され、使用人はもれなく取り調べを受けることになった。
当主の補佐をしていたカールと、荒事を担当していた護衛達は、特に厳しく調べられるだろう。
窃盗団、反女王派、誘拐事件はこれにて解決。
プレーズ家の過去も明らかになった。
残る問題は、関係者達の今後だ(+殿下の記憶喪失)。
「私にはどうしたら良いのか分からないのです」
ラズリが性別を偽って女王と会っていたことは、公にしなければバレることがない。
ルベルはその件に関しては、不問に付すことにした。
「ルベル様が悩まれているのは、ラズリ様の今後のことですね。ご本人はなんと言っているんですか?」
「それは……」
ダイアナの問いにルベルは口ごもる。
またも先走ったらしい。
良かれと思い、相手の了承を得る前に動いてしまうのは、きっとルベルの長所であり短所だ。
「『幸せ』の形は人それぞれです。……うーん。後から小出しにされても面倒なので、まとめて希望を聞きましょう」
エスメラルダの時は、彼女が自分の望みを見つけられるよう手助けした。
読書サロンのVIPコースも、最初に参加者全員でブレインストーミングを行い、相談者に様々な意見に触れさせる。その後で本人の希望を再確認して、アドバイスを行っている。
アナスタシアの場合は、彼女が自分から要望を口にしたので協力した。
ただ漠然と「幸せになりたい」「ハッピーエンドにして」と言われても、ダイアナはどうにもできない。というか、そんな雑なオーダーで終わらせる人間にアレコレする気が起きない。
かくして各々の今後についての、個人面談が開催される運びとなった。
会社かよ。システマチックだなぁ。
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