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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
コランダム編

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事件ですか? 事故ですか?

「導師。よくいらしてくださいました。この度はお時間いただきありがとうございます」

「ルベル殿下、本日はお招きいただきありがとうございます。昨日の式辞は素晴らしいものでした」


 ダイアナの立場は微妙だ。

 王太子と婚約関係にあるものの、貴族としての身分は男爵令嬢。

 正直に言って、年上でもある王女様から下にも置かない扱いされるのは座りが悪い。

 ジェンマ国で会った時は外部に情報が漏れない場所だったので、居心地の悪さを感じながらもスルーしたが、コランダムの王宮もそうとは限らない。

 しかし今回は国賓として招かれているので、彼女の丁寧過ぎる対応にストップをかけるのは控えた。代わりにダイアナは昨日、王太女として堂々と振る舞っていたルベルを称賛した。


「ありがとうございます。国外からのお客様からは概ね好意的な反応をいただきましたが、国内はまだ理解が進んでおらず忸怩たる思いです」


「反女王派ですね」


「ええ、なんとか立太子したものの、女が上に立つことを面白く思わない連中が予想以上の抵抗を見せておりまして……。どこから資金を得ているのか、金をばら撒いて徐々に勢力を拡大しているのです」


「強固な反対派は少数だけど、買収された人間が多いということですか」


「そうなのです。資金源を潰そうにも、手がかりが少な過ぎてどこから手を付ければ良いのやら──」


 ルベルはため息を付くと、手元のカップに視線を落とした。

 会話が途切れたので、ダイアナは用意された茶菓子を口にした。


 コランダムでは定番のお茶うけで、甘くなった口を無糖のお茶でさっぱりさせるらしい。

 ドライフルーツを鼈甲(べっこう)飴でコーティングしたその菓子は、とにかく甘かった。

 見た目からして複数の果物が用意されているのだが、食べ比べても味の区別がつかない。全部「激甘!」としか感じなかった。

 そして飴がパリパリじゃなくて、水飴に近いので凄く歯にくっつく。ニチイィィッという感じだ。


(和菓子初めての外国人に、あんこ食べ比べさせたら同じような感想になるのかな)


 口の中で静かな戦いを繰り広げながら、ダイアナは前世に思いを馳せた。


「──……私に紹介したい人物がいるとのことでしたが、その方は事情があって遅れていらっしゃるのですか?」


 ダイアナ宛の招待状には、ルベル直筆のメッセージが添えられていた。

「親友を紹介したい。どうか彼女の力になって欲しい」ということだったが、この部屋にそれらしき人物は居ない。

 まさか給仕している老女が、ルベルの親友ではないだろう。


 ダイアナは趣味でヒーローをしている者ではないが、女王となるルベルとは良好な関係を維持したいので『D導師のお悩み相談室(海外出張版)』の開催を決めた。

 お悩み相談室と言っても、話を聞いて相談者の気持ちに寄り添う感じではなく、弁護士とか税理士の無料相談といった感じだ。デスヨネー。


「……申し訳ございません、導師に彼女を紹介することは叶わなくなりました」


「体調不良ですか?」


「ラピスは半月ほど前に姿を消してしまったのです……。実家のプレーズ家、婚約者のアンダルサイト家が彼女の行方を探しましたが、成果は出ていません」


 アンダルサイト家の方は早々に見切りを付けて、既に捜索から手を引いている。

 今は娘の監督不行届について、プレーズ家に賠償を請求している状態だ。


 ラピスの失踪により、婚約者だったアンダルサイト子息は『結婚直前に婚約者に逃げられた男』になってしまった。

 国内で身の置き場を失った彼は、急遽留学に旅立った。ほとぼりが冷めるまでは帰国しないだろう。


 細々とした事情を語るルベルは気落ちしているようだが、親友の身を案じている様子はない。


「殿下は随分落ち着いていらっしゃるように見えますが、もしかして彼女の行方をご存知なんですか?」


「いいえ。でもここまで完璧に痕跡を消しているということは、計画的な失踪だということです。入念に準備をした上でのことなら、家を出る前よりも幸せに過ごしているはずです」


 ラピス・プレーズは、ミステリアスな雰囲気の淑やかな少女だった。

 ラピスの父親が幼い娘を連れて登城したのを切っ掛けに交流を持つようになったので、二人はかれこれ十年近い付き合いだ。


 ジェンマ国に嫁ぐために高度な教育を受けたルベルは、コランダムの女子とはあまり話が合わなかった。

 そんな彼女にとって、ラピスは唯一対等に話せる相手だった。


 ラピスもまた女子でありながら厳しい教育を受けていた──問題はその厳しさが、常軌を逸していたことだ。


「彼女の事情をお話して、導師のお知恵を借りたかったのですが間に合いませんでした。……結局あの子は私に相談の一つもなく、全部自分で決めて実行してしまいました」


「半月も待てないくらい、切羽詰まった状況だったんですか?」


「あの……それに関しては私の落ち度と申しますか……。導師のことはラピスに話していましたが、今回の滞在に乗じてお知恵を借りることは完全に私の独断だったのです」


 ダイアナには承諾を得ていたが、ラピスには何も説明していなかったようだ。


「出奔のタイミングは、ラピスの中で時が満ちただけのことだと思います……出会った時から、最後の最後まで、あの子は誰にも助けを求めませんでした」


 結婚して家を出るのを待っていられない。一刻も早くラピスはあの家から離れたほうが良いと、過去にルベルは自分の側仕えとして宮殿に上がることを提案したが固辞された。


 コランダムに職業婦人は少ない。

 働く平民女性は多いが、それは家業の手伝いだったり、家族ぐるみで使用人として主家に仕えているに過ぎず、自立して仕事を得ているわけでは無い。

 ジェンマ国では行儀見習いとして貴族の若い娘が働くことがあるが、コランダムでは稀だ。

 余程困窮していない限り、身分問わず未婚の女性が外に働きに出ることはない。


 そんな国だが、王族の側仕えは立派なお役目として認識されている。

 数年前からルベルは自分の権限を利用して、劣悪な環境に置かれている出自に申し分のない女性を積極的に採用していた。


 ラピスの婚約者はコランダムの男子にしては珍しく、誠実で浮ついたところのない男だ。

 ルベルが見た限りでは、二人の仲は悪くなかった。

 彼は結婚相手として問題ないどころか理想的な人物だったが、どういう訳かルベルはラピスが結婚に乗り気でないように感じていた。

 だから穏便に婚約解消できるよう「自分が嫁ぐ時にジェンマ国についてきても良い」と言ったが、それでもラピスはルベルの提案を受けいれなかった。


「ラピスは物静かであまり自己主張しないのに、絶対に信念を曲げないんです」


 過去のできごとを思い出しているのか、ルベルは懐かしむように口ずさんだ。

 そこに幾度となく差し出した手を拒絶されたことに対する怒りはない。


「女ですが、私は王族です。あんなに一緒に過ごしたのに、肝心な時に頼ってもらえない。結局その程度の存在……親友だと思っていたのは私の独りよがりだったようです」


「逆じゃないでしょうか? 親友だから利用したくなかった。巻き込みたくなかったとも考えられます」


 立太子する前は、第一王女と言ってもルベルの王宮内での立場は弱かった。

 単に女性だからというだけではなく、いずれ他国に嫁ぐ身だったので彼女にすり寄っても恩恵は少ない。

 国王夫妻を筆頭に周囲の人間は、瑕疵がつかないよう彼女に王宮内で大人しく過ごすことを求めていた。

 側仕え達の協力があったとは言え、彼女がスレートと名乗ってジェンマ国で長期滞在できたのは、簡単に偽装できてしまう程度に放置されていたからだ。


 反対に立太子してからは、反女王派が彼女の一挙手一投足に目を光らせている。

 ルベルが何か失敗(ミス)すれば、すかさず「やはり女性が国の頂点に立つのは難しいんじゃないか」と突いてくるだろう。

 女王の誕生を受けいれている者達も、やはり前例にないことをしようとしているので彼女を見る目は厳しい。王子であれば気にしない失態も、性別が違うだけで反対派に転じる理由になりかねない。


 もしラピスがルベルのことを友人だと思っていなければ、遠慮なく利用したはずだ。

 そうしなかったのは、ルベルの立場を悪くしたくない。女王となる彼女の足を引っ張りたくなかったからではないのか、とダイアナは考えた。


「どうやって家から逃げたのか、今どこにいるのかすらわからないのに、親友と呼べますか?」


「相手の事情に詳しいことと友情は比例しません。お互いに特別な存在だと認識していれば、それは親友です」


 ダイアナとエスメラルダもそうだ。

 エスメラルダはダイアナが転生者であることを知らないが、それでも二人は親友だ。


「ラピスもそう思ってくれているなら嬉しいけれど、それでもやっぱり私は頼ってもらいたかった……」


「差し支えなければ、今日相談したかったことを話してもらえますか? ルベル殿下の気持ちが楽になるかもしれません」


 ダイアナは今回の相談者をラピスではなく、ルベルに切り替えた。


「そうですね。考えてみれば、ラピスのことで誰にも──本人にも言ってなかったことがありました。私も彼女に話していないことがある……導師の仰る通り、親友だからといって全てを(つまび)らかにするとは限りませんね」


 ラピスが家庭の事情を打ち明けることはなかったし、プレーズ家の内情は今も昔も外に漏れていない。

 だからこれから話すのは、自分が偶然見聞きしたことや、ラピスと過ごしていて推測した結果に過ぎない。

 そう前置きすると、ルベルは静かに語りだした。


「プレーズ家は異常でした。いつからか分かりませんが、あの家は夫人が一番の権力者だったのです──……」

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― 新着の感想 ―
[一言] さっそくサフィルス殿下が影も形も無いですねwww ルベル殿下やラピスの話はもちろんかなり大事なのですけど、サフィルス殿下との相性を見る時間と天秤にかけて、迷わずこっちなんだろうなぁと思うと笑…
[良い点] ラピスの家は羅刹の家ですか?!(読んだこと無いですが…作者の先生のロマンス詐欺のドキュメンタリー番組は見てしまった) サクサク問題切り分けハイ解決!の出張相談、さて次回は?! ルベル殿下も…
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