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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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八十五章 レヴリウシア

八十五章 レヴリウシア


 夜の七時に始まった祝宴は夜の一時まで続き、その後お開きとなった。

 ヴィオレッタ達は「セコイアの懐」に戻り、地上の円形家屋で寝床の準備をした。寝支度をしながらエヴェレットが言った。

「セレスティシア様、先ほどはありがとうございました…。見事な舞でした…あれが純潔のエルフの特殊スキル『水渡り』なのですね?…それに天井を吹き飛ばしたあの『ハードスプラッシュ』…これでマットガイストも他の自治区もセレスティシア様がリーンの一族に加わることに依存はないでしょう…そして、ゆくゆくはセレスティシア様を連邦の長に…」

「あのマットガイストのザクレンとかいうの…なんか、うちら…リーン一族に突っかかって来る感じだったよね…なんで?」

「彼らは元々は魔族領の下級兵士だったのです。ザクレンの父親が人魔大戦のどさくさで魔王軍から離脱し、今の自治区で独立を宣言しました。しかし…魔族領と国境を接しているため、位置的に我らエルフと人間の四つの国と共闘するしかなくて…そのまま二千年が経過したのです。二千年の間、五つの国は団結して国境で魔王軍、同盟国軍と戦いました。結果、五つの国はひとつの連邦国となったのです。そして、当時純血のエルフが大勢いた我が国…リーン自治区がずっと盟主国となり、絶大な魔法と知識を誇っていたログレシアス様がずっと盟主で在らせられたのです…ですが、二千年は色々と状況の変化をもたらしました…。戦争を嫌った一部のエルフが安息の地を求めてリーン自治区を去り、また多くの若いエルフが戦場で命を落とし、リーン自治区の力は衰えてゆくばかり…その上、ログレシアス様の寿命も…」

「え…エルフって、不老不死じゃないの?」

「原初のエルフ達…ハイエルフはそうです。ですが、世代を重ねるごとに寿命は短くなり…純血のエルフですら、今やその寿命は長くて四千年…ログレシアス様は四千百十三歳です…。それを知ってるから、ザクレンは次の盟主を狙っているのです…。ザクレンが盟主になれば、連邦全体を巻き込んで魔王軍、同盟国軍との凄惨な殺し合いが始まるでしょう…。でも、セレスティシア様が戻られました!これからまた四千年、リーン繁栄の時代が続くのです…!」

「んん…私が盟主じゃないと…だめなのですか…?まだ五十八歳なんですけど…。」

「血統は大切です。それと純血であることも…。神は純血のエルフに世界の管理を任されたのですから。それから…セレスティシア様、あなたは正確には六十五歳ですよ。」

 純血が重んじられている理由はセコイア教の教義か。そして私は実は六十五歳なんだ。そうだったのか…七年間は母と一緒にいたんだ。人間に拾われて、そこから五十八年ということか…。

「でも、エヴェレットさんだってリーン一族でしょう?」

「私はハーフエルフです…。もう、四百三十八歳ですよ。」

「私よりはるかに年上じゃん…。」

「…ハーフエルフで二千歳を超えて生きた者はまだおりません…。旗印が変わらないということはとても重要なことです。それにあなたは哲人にして大魔道士ログレシアス様に最も近い血統なのですよ…。ログレシアス様譲りの魔法の才能…たんと拝見させていただきました…。」

「…エヴェレットさん、私の母…レヴリウシアを知っていますか?」

「はい…レヴリウシア様には可愛がっていただきました。とてもお優しい方でした。レヴリウシア様には四人のお子がございました。長兄のスタイレシアス…私の父です。そして次兄のティルメシアス…グラウス、ティルム、ここにいるテスレア、ダーナの父です…」

 一緒に寝支度をしていた女ハーフエルフのテスレアとダーナがヴィオレッタにちょこっとお辞儀をした。

「…ここまでがリーン一族です。そして長女のヘレネシア…スクル、タイレル、ベクメル、ルドの母です…。」

(うう〜ん…甥っ子姪っ子が多すぎて、名前が覚えられない…。)

「…二千年の間に幾度も戦争があって、レヴリウシア様のお子様は…悲しいことに…全て戦死されたのでございます。レヴリウシア様は悲嘆に暮れておりました。ですが…そこにあなた様が生まれてきたのでございます。レヴリウシア様はこの子だけは天寿を全うさせたいと…一族の反対を押し切って、あなた様を抱いてイェルマ渓谷を目指したのでございます…」

「イェルマ渓谷…?」

「…戦争を嫌ってリーン自治区を離脱したエルフ達が定住した場所です。イェルマ渓谷に移住したエルフの中に、レヴリウシア様の姉上…あなた様の伯母上、ユグリウシア様がいらっしゃいました。レヴリウシア様はユグリウシア様を頼っていかれたのです。…その旅の途中で…災難に遭われたものと…。」

 エヴェレットはそれ以上、何も言わなかった。ヴィオレッタも何も訊かなかった。

 レヴリウシア…母の名前を聞いても、ヴィオレッタの胸中に去来するものは何もなかった。母の記憶は欠片もなかったし…顔すら思い出されない。祖父のログレシアスの死期が近いと聞かされても、悲しいけれどこれも「自然の摂理」としか思えない…。まだ、二日の思い出しかないからか?私は冷酷なのかしら?

 イェルマ渓谷か…母の姉がそこにいるらしい。何という運命のいたずらだろう。本来はイェルマ渓谷を目指して旅をしていたのに、色々あって大回りをして、生まれ故郷に来てしまった。ダフネやアンネリ、そしてオリヴィアは今何をしているのかしら…もう一度会いたいな。ああ、そういえば複写をお願いした本「神の祝福」はもう完成しているはずだ。ダントンさんの事務所にも行かなくちゃ。

 そして…そんな思いと同じくらいに…イェルマに母のお姉さんがいるのであれば、イェルマに行って会ってみたいとも思う。これから私はどうしたらいいのだろう…どうなっていくのだろう…。

「セレスティシア様…」

「あ…はい?」

「大爺様…ログレシアス様がお祝いに何か…セレスティシア様に贈り物をしたいということなのですが、何か欲しい物はございますか?」

「本が欲しいです。」

「…は?」


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