八十六章 コッペリ村へ
八十六章 コッペリ村へ
オリゴ村を出発したヒラリー達の大型馬車は街道に沿って順調に北東に進んでいた。二週間ほど走ったが、オリヴィアが退屈を持て余してワンコをいじめるぐらいで特に何も起こらなかった。
馬車は水補給のため、大きな河川敷に立ち寄った。女たちは久しぶりの水浴びで大喜びだった。
河川敷には他の旅人もいて、馬に水を飲ませたり小休憩をとったりしていた。
力仕事となると男の出番だ。デイブとサムは馬車を川辺まで牽いて行くと、四つの樽に水を満たし、そして四頭の馬の金具を外して水を飲ませた。
女達は幌の中で服を脱ぎ、沐浴着に着替えていた。そんな中で、「やめろぉ〜〜っ!」というダフネの制止の声を無視して、案の定、オリヴィアがパンツ一枚で幌から飛び出していった。すぐそばを駆けていくオリヴィアの揺れる乳房を、デイブはまじまじと見つめて眼福を味わっていたが、サムは赤面してそっぽを向いていた。ダフネは…誰であろうと、サムに他の女の裸を見せるのは嫌だったのだ。
以前であれば、ダフネやアンネリも男の目など気にせず裸で水浴びをするのだが、今のダフネはサムの目を、アンネリはアナの目を意識して着慣れない沐浴着をつけていた。
バシャァァッ!
「ひえぇ〜〜っ…ちべたいっ!」
川面にフライングボディアタックを敢行したオリヴィアは水の冷たさに絶叫した。秋の足音はもうそこまで来ていた。
アンネリは一緒に体を洗っているダフネに声を掛けた。
「ここって…前にもきたよねぇ…。」
「そうか…?」
「ヘラって女の人がゴブリンに襲われてさぁ…ここに寄ったじゃん。オリヴィアさんが兵隊から鶏の串焼きぶんどってきてさぁ…」
「あ…あったな、そんなことが…!そうかぁ、あたし達来た道を逆に辿ってたから気がつかなかったけど…これって…コッペリ村に向かってるのか…。」
「ねぇねぇ…ヘラって誰⁉︎」
最近、アナはアンネリの口から出る女の名前に敏感だった。
「コッペリ村って、オリヴィア…さんの駆け落ちの場所じゃなかったっけ…?」
「ああ…本当だっ!ヒラリーさん、私達コッペリ村に向かってるんですか?」
ジェニの言葉で、ヘラという名前はアナの頭から吹き飛んだ。
ひしゃくでじゃぶじゃぶと頭に水を掛けて洗っているヒラリーがぽつりと言った。
「うん…コッペリ村に向かってるよ。」
アナとジェニは川の真ん中でクロールをしているオリヴィアを見つめて、今後の展開を二人で占った。
ダフネとアンネリは全く違うことを考えていた。コッペリ村から城塞都市イェルマは目と鼻の先だ。このままイェルマに帰還してしまうのもアリではないか…?
女達の動揺をよそに、デイブとサムはようやく冷たい川の水の中にパンツ一枚になって飛び込んだ。
その日の夜には、ヒラリー達の馬車はコッペリ村に到着した。
「あれぇ〜〜?ここって…コッペリ村じゃないのぉっ⁉︎」
呑気なオリヴィアがそう叫んだ。
「そうだよ。オリヴィア、コッペリ村に宿屋はあるかい?」
「あるあるぅ〜〜、一軒だけだけど…。まっすぐ行って…あ、そこそこっ!」
ヒラリーは馬と大型馬車を宿屋の馬屋に預けると、みんなに言った。
「四、五日ここに逗留するよ!」
ヒラリーの言葉を不思議に思ったサムが念押しするように言った。
「ユニテ村でのクエストのための準備をコッペリ村でするってことですね?」
「…それは…分からない。これからみんなで決める。」
「…え、どういうことですか?」
「それは…今から話すよ。」
コッペリ村の宿屋の一階で、七人はひとつのテーブルを囲んでいた。今から、ヒラリーが重大な発表をするらしい。
その前に、ダフネが言った。
「オリヴィアさんがオーレリィさんのところにすっ飛んで行きました…。コッペリ村にいるオリヴィアさんの肉親みたいな人です…。」
「まぁいいか…オリヴィアがいない方が話がスムーズに進むかもしれない。」
ヒラリーはひと呼吸置いて、話し始めた。
「…このコッペリ村は、ある意味このヒラリーパーティーのクエストの終着点だ。私がギルマスから託されたクエストは…イェルメイドであるオリヴィア、ダフネ、アンネリをコッペリ村まで連れ帰ることだった…」
みんなは一様に驚いた顔をしていた。だが、その胸中はそれぞれに全く違うものだった。
何も知らないデイブ、サム、ジェニは、ここで準備をして当然このままユニテ村に向かいアンデッド討伐クエストをするものだと思っていた。
ダフネとアンネリは、ヒラリーが自分達がイェルメイドであることを知っていることに驚いた。
アナは以前、イェルマについてアンネリから聞いていて多少知ってはいたものの、ここがもうイェルマなんだとちょっとびっくりだった。
「…ここから東にちょっと行くと城塞都市イェルマがある。城塞都市イェルマは…オリヴィア、ダフネ、アンネリの故郷だ。知っての通り、彼女達はお尋ね者だ。このままイェルマに帰還してもらうことが最善ではないかというのがギルマスの考えだ。」
ジェニが苦言を呈した。
「それで大丈夫なんですかぁ?ティアークの憲兵が軍隊を連れて…そのイェルマに攻めてきたら大変でしょう。…むしろ、私達と一緒にいた方が安全なんじゃ…?」
ジェニはイェルマを小規模な町ぐらいに思っているようだ。
「それは大丈夫。…だろ?ダフネ。」
「うん…ティアークの軍隊だろうとエステリックの軍隊だろうとイェルマはびくともしないよ。」
そう言って…ダフネはサムをチラッと見た。サムはダフネに熱い視線を送り続けていた。ダフネとサムは視線を外すことなく、ずっと見つめ合った。
ヒラリーは続けた。
「…私も詳しくは知らないけど、城塞都市イェルマは女だけの国だ。イェルマの軍隊は小さい頃から厳しい訓練を受けていて…オリヴィアやダフネ、アンネリみたいなスキル持ちの強い女兵士がごろごろいるらしいぞ…」
そのヒラリーの言葉を聞いて色めきだったのは…ジェニだった。
(スキル持ちがごろごろ…本当だったら凄いっ!スキル持ちのアーチャーもいっぱいいるんだろうか…⁉︎)
冒険者や兵士の中でもアーチャーは少ない。弓は極めないと一撃必殺の武器にはならないので、集団戦における牽制射撃が主流となっている。そうなると、他の職種でも弓は撃てるのでアーチャーである必要はない。それに、アーチャーは接近戦では全く役に立たない職種だ。
「女だけの国っていうことは…男子禁制ということですか?」
「…そういうことだな。」
サムはヒラリーの言葉を聞いて考え込んでしまった。
「今日はもうこのまま寝るけど…明日いっぱい、みんなそれぞれよく考えて、夜に…ここで解散か、その先に行くか決めよう。」




