最終章 ホイットニー一族への報償
新連載、「デボラの見る風景」は近日中にアップする予定でございます。
しばしの間、お待ちくださいませ。
最終章 ホイットニー一族への報償
お昼前、ヴィオレッタは自分の寝室の円形家屋でやっと目を覚ました。太陽の位置で、ヴィオレッタは寝過ごしてしまった事に気づいた。
ヴィオレッタは飛び起きるとすぐに服を着て、「水渡り」でセコイアの御神木を駆け下りた。
一番下のダイニングの円形家屋では、エヴェレットが朝食の準備をしていた。
「おはようございます、セレスティシア様。」
「…どうして起こしてくれないんですかぁ〜〜?」
「長旅でお疲れのようだったので…。そろそろ起きていらっしゃると思っておりました。すぐに朝食ができますよ。」
ヴィオレッタがテーブルに着いて待っていると、すぐに小麦粉のパンとスープが出てきた。スープをひと口飲んでみると…ドルイン港でお土産にもらった魚の塩漬けが入っていて良い出汁が出て美味しかった。ヴィオレッタはしみじみと思った…
(ああ…エヴェレットさんの質素だけど美味しい手料理。私はリーンに帰って来たんだなぁ…。)
パンを半分食べて、残りをスープに浸して口に運んでいる時に…ヴィオレッタは思い出した。
「あっ…サプライズはどうなってますか⁉︎」
「大工さんですか?もう、スクルたちもホイットニー家に行ってますよ。」
「…うはぁ〜〜っ、大遅刻だぁ〜〜…。」
ヴィオレッタは大急ぎでパンを口に詰め込んだ。
ホイットニー家の周辺は人と資材でごった返していた。高く積まれた木材と、それを加工している大工職人たち。そしてまた、草刈りをするセコイアの懐の村の村人たちと、草を刈った後の地面に穴を掘るホイットニーの一族。
大工の棟梁がスクルと共に設計図を睨んで、大工職人たちにテキパキと指示を出していた。そこに遅まきながらヴィオレッタが駆けつけて来た。
「おはようございます、セレスティシア様。」
「スクルさん…寝坊しちゃいました!」
「もっとゆっくりしていても良かったのに。ここは大丈夫ですから。」
「いえいえいえ…」
ヴィオレッタを見つけたエビータとナンシーがやって来て、片膝を折った。
「セレスティシア様、住居と牛舎を増築していただけるそうで…本当にありがとうございます!」
「いえいえ、此度、ホイットニーの一族はよく働いてくれました。何か報償をと思ってまして…昨日、牛乳をいただいた時に『あっ、一族みんなが集まると、この家は狭いな』と思ったんですよ。牛が増えれば人手もいるだろうし、住居を広くする必要があります。それで、この際ついでに牛舎も立派なものにしようかなって…。」
「しかし、設計図を見ると…ダイニングが倍の広さになって、部屋も三つも増えます。牛舎も牛百頭を収容できるみたいで…」
「だから、報償なのですよ。気にしないで受け取ってください。」
「あ…ありがとうございます…!」
ヴィオレッタは大工の棟梁に叫んだ。
「どのくらいで完成しますか?」
「セレスティシア様の肝入りだ…突貫工事で一週間で終わらせてやるよ!」
「一週間だそうですよ。」
「あ…ありがとうございます!」
増築中のホイットニー家の回りではシーラとクロエ、そしてその友達の女の子のグループがはしゃぎ回っていた。彼女たちはシーラの家に何か大変な事が起こっているとお祭り騒ぎになっていた。
ヴィオレッタのそばにやって来てシーラが言った。
「セレチチア様ぁ〜〜っ、あんね、あんね…チーラのお家がね、おっきくなるんだってよ!」
「それは良かったねぇ。」
すると、クロエが言った。
「シーラはおバカだねぇ。セレスティシア様がおっきくするんだから、セレスティシア様はとっくにご存知よ。ねぇ〜〜、セレスティシア様?」
「うん…これはね、シーラのお家の人たちが私の期待に応えて、しっかりお仕事をしてくれたご褒美なんだよ。」
「そっかぁ〜〜…じゃ、チーラがしっかりお仕事をしたらウチを1匹…食べていい?」
すると、他の女の子たちが騒ぎ出した。
「ひとりで全部食べたらダメなんだよぉ〜〜!」
「そうそう、ちゃんとお裾分けしなきゃだよ!」
「お裾分け、あたしンちにも持ってきな!」
「当たり前じゃん!ウチはおっきいから、チーラひとりじゃ食べれないもん…みんなに持ってくってば。」
この会話を聞いて…みんな牛肉を食べたがっているんだなぁとヴィオレッタは思った。自分は遠慮するとしても、リーンの住民みんなが牛肉を食べることができるようにしたいなぁ…でも、そうなると肉食用の牛を何千頭も飼う事になってしまう。…とりあえず保留にしておこう。
大工職人たちが掘った溝に基礎となる石を設置し始めると、ホイットニー一族、そして村人総出で石を運んだ。これも、ナンシーやルルブがまめに「セコイアの懐」の村人たちにお裾分けをしたりして、気を遣ってきた成果だ。
また厳しい冬がやって来る。しかし、同盟三国との交易もできるようになって食糧が不足しても輸入ができるので、今年の冬は比較的楽に過ごせそうだ。少しずつではあるけれど、未来に明るい展望が持てるようになってきた。去年より今年、今年より来年と…少しずつ少しずつ、リーンが良い方向に向かっているのではないかとヴィオレッタは思った。
シーラとクロエが仲間の女の子を引き連れて、増築中の工事現場をキャーキャー叫びながらぐるぐると回っていた。そんな騒がしいシーラを母親のナンシーが捕まえて、父親のガレルに引き渡していた。ルルブはスタリーをあやしながら、石を運んで汗をかいているダスティンに笑みを浮かべて手拭いを差し出していた。村人たちはホイットニー家のために惜しみのない労力を提供していた。
そんな光景を見て、ヴィオレッタはこの光景がずっとずっと続いて行ったら良いな、そして、この光景を守って行くのが自分の責務なのだなと思った。しかしその一方で…
(シーグアさんの著書「人魔大戦」シリーズによると、人魔大戦は約50〜100年毎に起こっている。「第九次人魔大戦」が勃発するのは、あと十年か二十年先じゃないだろうか?…まぁ、今は考えないでおこう。)
リーンの草原に穏やかな風が吹き渡って行った。




