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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百六十八章 最終決戦 その2

五百六十八章 最終決戦 その2


 レンブラント将軍がまだ夢の中にいた時、宿屋の将軍の扉がけたたましくノックされ、その音で将軍は目を覚ました。

「…何事だ⁉︎」

 それは伝令の騎士兵だった。

「将軍閣下、イェルマ軍が…攻撃を開始しました…!」

「…何じゃとっ⁉︎」

 将軍はすぐに身支度をして、宿屋の一階に降りていった。そこにはすでに、幕僚たちと司祭、司祭長がテーブルに着いていた。しかし…カイルの姿はなかった。

「ディラン参謀はどうした…?」

「それが…ノックをいたしましたが、返事がなく…」

「もう一度、見て参れ!」

「はっ…!」

 将軍は出されたお茶を啜って、思った。

(しばらくキャシィズカフェに行っておらんな…あのハーブティーが恋しいのぉ…。)

 その時…

「将軍閣下、一大事でございます…ディラン参謀が…!」

「…ん?」

「…ベッドの上で…亡くなっておりました…!首を…掻っ切られて…」

 その場にいた幕僚たちは顔色を変え、騒然とした。

「うううっ…まさか、カイル君が…謀殺されたか…‼︎」

 もちろん…レイモンドの仕業である。戦争において暗殺は珍しい事ではない。しかし、レンブラント将軍はイェルマを数を集めて群れをなした女蛮族と高を括っていて…こんな巧妙な真似をしてくるとは思いもしていなかった。

 レンブラント将軍は伝令の騎士兵に言った。

「とにかく…あと一週間保たせるのだ!一週間すれば…ラクスマンの援軍が到着する‼︎」

 すると宿屋に…再び鳩屋のクラインがやって来た、凶報を携えて…。

「将軍閣下、再び鳩がやって参りました…。」

「な…何ぃ…?」

 将軍は震える手で、その文を受け取り…読んだ。

「…ラクスマン王国で反乱が勃発…これにより、援軍あたわず…う…うくっ!」

 テーブルに着いていた幕僚や司祭たちが一斉に立ち上がった。

「将軍閣下…!」

「…みな、落ち着いて座ってくれ。」

 レンブラント将軍の言葉で、みんなは今一度椅子に座った。

「もはや、これまでだ…。ディラン参謀は勇敢にも軍の先頭に立ち、指揮を執って…惜しくも殉職した…そう言うことだ。」

「…?」

「今回の大遠征はディラン参謀の発案であった。我らは彼の指揮に従い、奮戦したにも拘らず…敗れた。これは全て…ディラン参謀の責にるものである。そうだな…?」

「あ…ああ…!」

 要するに…レンブラント将軍はカイルに今回のイェルマ大侵攻の敗戦の責任の全てを押し付けたのだ。死人は弁明しないのだから。

 カイルの死は将軍にとって、ある意味で「渡りに船」だった。カイルは勝利に拘って退くことを知らない…将軍としては、最初に連れてきた騎士兵、義勇兵一万が全滅した時点で、本国や同盟国に「援軍」など要求せずに本国に戻って軍の再編成をし、半年後か一年後に「捲土重来」を図るべきだと思っていた。しかし、カイルの父、ディラン軍務尚書の手前…それができなかったのである。

「我々は今より本国へ帰還するっ!良いか、査問会での証言では充分注意されたいっ!…すぐに馬車の用意をいたせっ‼︎…それから、追っ手が掛からないようコッペリ村とイェルマに架かるあの橋を…落とせっ‼︎」


 イェルマ回廊出口からイェルマ橋を挟んだコッペリ村端までの距離は約10mで、まずは両軍のボウガンの射ち合いから始まった。

 この段階では広い場所に布陣するエステリック軍に地の利があったが、左右の絶壁の上から射ち下ろす矢がその地の利を覆した。絶壁の高さは約15m…射角約50度で、イェルマのアーチャーたちはエステリック軍に矢を射ち込んだ。イェルマ軍のアーチャーの布陣する位置だと、エステリック軍の矢は射ち上げとなって命中することはまずなく、もちろん魔法攻撃は届かない。

 エステリック軍はタワーシールドを50度上に傾ければ矢は防ぐことができるが、お互いに射ち合っているボウガンのボルトを防ぐことは難しくなる。

 その不利を挽回しようと、時折イェルマ回廊出口に「ファイヤーボール」が投げ込まれたが、「ファイヤーボール」それ自体も射程は10m程しかない。

 アーチャーたちの矢は着実にエステリック軍の数を減らしていった。

 アルテミスは大声で下にいるボタンに合図を送った。それは、敵の魔導士を殲滅したという合図だった。

「全軍、出撃して横陣隊形を作れっ!」

 ボタンの命令で、タワーシールドを構えたイェルメイドたちがイェルマ回廊出口から出てきて、横に長く並んで布陣し少しずつその陣を厚くしていった。

 その時、エステリック軍の伝令の騎士兵が自陣に駆け込んできて…叫んだ。

「橋を…橋を落とせえぇ〜〜っ‼︎」

「ううっ…!イェルマ橋を落とさせるなぁ〜〜っ、射て射て、射ちまくれぇ〜〜っ‼︎」

 ボタンは全軍に檄を飛ばした。

 その檄を聞いて…ヴィオレッタはイェルメイドをかき分けかき分け、馬を進めた。

(あっ、まずい!早く行って…イェルマ橋崩落を阻止しないと…‼︎)

 不幸な事故が起きた…エステリック軍にまだ魔導士が残っていた。

 橋さえ燃やせば、自分たちはこの地獄から解放されて、エステリック本国に帰ることができる!そう思い余った敵の魔導士ひとりが危険を犯して自陣のタワーシールドの列から出てきて…「ファイヤーボール」の呪文を唱え始めた。

 アーチャーの矢やボウガンのボルトが彼に集中した。だが…これは偶然なのか…幾本もの矢が魔道士の体に突き刺さったが致命傷を与えることができず、虫の息の魔道士は呪文を完成させてしまった。

(あっ…「ファイヤーボール」で橋を焼き落とす気だ、まずいっ!)

 布陣していたイェルメイドたちはみなそう思った。

 「ファイヤーボール」が放たれたと同時に…イェルマ橋に一番近いイェルマ軍大隊の中からひとりのイェルメイドが飛び出した。武闘家房の師範ペトラだった。

 ペトラは「飛毛脚」「鉄砂掌」「鉄線拳」を発動させて猛然とイェルマ橋に駆け寄り…飛んで来る火球をタワーシールドで思い切り左側に弾いた。火球はタワーシールドに直撃して…爆炎がタワーシールドごとペトラも包み込んだ。

 ペトラは火だるまとなって…イェルマ橋から自ら投身していった。ペトラの機転で「ファイヤーボール」の破片のほとんどは左側の川の下に落ちていって…イェルマ橋はほぼ無傷だった。

 隣の大隊にいたタマラが叫んだ。

「ペトラッ…‼︎」

 ペトラの武勇を目撃したイェルメイドたちは闘争心に火が点き、イェルマ橋に殺到し、橋を渡り…対岸の騎士兵団と交戦状態となった。

 ボタンは斥候職のバレンティーナを探した。

「バレンティーナはいるかっ⁉︎」

「ここに…!」

「まだペトラは助かるかもしれん…!」

「…御意っ!」

 バレンティーナは全てを察して、すぐに斥候一個小隊を集めて…ランサーの馬を借りて回廊を逆方向に向かって走り出した。

 実は、イェルマ橋の下の渓谷の川に至る道がある。それはイェルマ城門前広場を囲む絶壁の一箇所にある抜け道だ。一度、絶壁を登り大回りしてそれから降る…そのため、ボタンは移動速度が最も早く機敏に動ける斥候職を選んだ。時間との勝負だった。

 イェルメイドは十八歳になると、「サバイバル訓練」と同じく年に一度、「イェルマ橋飛び込み訓練」を体験しなければならない。イェルマ橋駐屯地で敵と戦闘となった場合を想定して…より安全に約15m下の川に足から飛び込む訓練をする。約15mの高低差…足を揃え脇を締めて、正しい姿勢で川に飛び込まないと、肩関節や股関節を脱臼する。下流には何本もの「命綱」が渡されていて、飛び込んで流されたイェルメイドはその「命綱」に引っ掛かる。飛び込み方が悪くて失神して「命綱」を掴めなかった者は、抜け道を通ってあらかじめ川下に待機していた仲間によって救い出される。

 もし、ペトラの運が良ければ…その「命綱」に引っ掛かっているかもしれない…。

 イェルマ軍は苦戦していた。イェルマ橋は狭く、その上足元が不安定なので、なかなか騎士兵のタワーシールドを抜くことができなかった。

 突然…エステリック軍の背後にイェルマ軍の予期せぬ「援軍」が出現した。それは…ダフネ、サム、ダン、そしてレイモンドだった。

 ダフネは敵軍の背中を「鬼殺し」で攻撃した。

「パワークラッシュッ‼︎」

ドドドドドンッ!

 深度2の「パワークラッシュ」の横薙ぎが五人の騎士兵の胴体を金属鎧ごと真っ二つにした。

 レイモンドの「セカンドラッシュ」が一瞬にして四人の騎士兵の脇腹を抉った。

 ダンは負傷した騎士兵のロングソードでひとりずつ騎士兵の頭をかち割っていった。

 サムはみんなに「ヒール」を回しつつ、「チェインライトニング」を放った。

「うわあぁっ、奇襲だぁ…伏兵がいた…!」

 意表を突かれた騎士兵たちは混乱し…軍列の一部が薄くなった。そこにイェルマ軍が押し寄せた。

 まず、タワーシールドを抜けたのはタマラだった。タマラはすぐに騎士兵の後方に回って…「大震脚」を見舞った。

ドドォ〜〜ンッ!

 数人の騎士兵が脳震盪を起こして崩れ落ち、数人が意識朦朧となって立ちすくんでいた。空いた穴にイェルマ橋を渡ってイェルマ軍が殺到し、騎士兵たちを殲滅していった。

 ボタンは「ドウタヌキ」を抜き、近接する騎士兵をどんどん両断した。それに倣ってアルフォンスも「ヒコシロウサダムネ」で騎士兵たちを切り刻んでいった。

 ライヤはモーニングスターの鉄球を自由自在に操って、騎士兵の頭を砕いた。

 マーゴットは…出る幕なしと断じたのか、仲間の「ヒール」に徹した。

 同じ条件であれば100対2000…あっという間だった。

 イェルマ回廊出口から、ベレッタ率いるランサー騎馬隊が現れた。それを見たボタンは叫んだ。

「司令官たちを逃すなっ!生捕りにして来いっ‼︎」

「御意いいぃ〜〜っ‼︎」

 ベレッタ騎馬隊はイェルマ橋を渡り、コッペリ村大通りを早駆けしていった。

 ベレッタはコッペリ村の入り口で梁に吊るされた三十余りの死体を見た。一番端の死体はすでに腐り切ってほとんど骸骨だった。

「義勇兵か。…一体、何のまじないだぁ?…気色悪いっ!」

 ベレッタの常識では、どんなとががあったにせよ、仲間を殺してその死体を晒し物にするなど…想像の域を遥かに超えて、思いつきもしなかった。

 後からトコトコ馬でやって来たヴィオレッタはセイラムの頭を撫でながら戦局を見て…思った。

(出番はなかったけど…終わったな。)

 ボタンの下に斥候のデボラがやって来て、報告した。

「んと…ペトラは『命綱』に引っ掛かってた。あたしたちで引き上げた時には息をしてた…その後は知らんけど。」

「そうか…。」

 それを聞いていたタマラは、イェルマ橋を渡ってイェルマ回廊を逆戻りしていった。

 ペトラの勇猛果敢な行動をオリヴィアももちろん見ていた。それで、タマラがイェルマ回廊に入って行くのを見て…ペトラの安否が気になって、タマラの後を追った。

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