五百六十三章 焼き討ち その4
五百六十三章 焼き討ち その4
騎士兵500によるオリゴ村付近での「盗賊狩り」は空振りに終わった。その一方で、ベロニカとヒラリーはベンジャミンたちと合流すべく、馬を飛ばしていた。
2000のティアークの援軍が東の街道を並足で進み、夜を徹しての行軍を続けていた。ベンジャミンたちはそれを林の中に隠れて見ていた。
「ベロニカめ、遅いな…。魔導士ひとりじゃ…これはちょっと難しいな。」
前回、前々回の教訓により、食糧馬車の回りは騎士兵たちによってベッタリと護衛され、その前後を義勇兵たちが挟み込むという軍列だった。
ベンジャミンたちは林の中で隠れたままティアークの軍列と並走する形となっていて…このままだと、駆け足をしているティアークの援軍にどんどん引き離されて置いてけぼりを食らわされることになる。
ベロニカとヒラリーが追いついて来た。
「お待たせぇ〜〜っ!どんな感じぃ〜〜?」
「どうもこうもない、見ての通りだ!」
ベロニカはキールを見て言った。
「そいつは?」
「…俺の友人だ。ティアーク軍に捕まっていたところを助けた。期待していいぞ、キールは凄腕の剣士だ。」
「ほうほう、それは頼もしいねぇっ!」
それを聞いていたヒラリーは言った。
「…それなら、前衛職を二手に分けよう。そして、前と後ろで同時に襲う。注意がそちらに向いたら、ベロニカとベンジャミンで食糧馬車を燃やしてくれ。」
「成功するかな…?」
「前方襲撃の指揮は私が執る。レンドと傭兵五人をくれ。後方襲撃は…キール、あんたに任せていいか?」
「…おう。」
「エビータとティモシーはベンジャミンとベロニカの援護…残りはキールに着いて行け。」
「分かった。」
ガスが腰を抜かした。
「えっ⁉︎…まさか、この軍列を襲うのか…?ウソだろっ‼︎」
キールが凄んだ。
「ぐだぐだ言うなっ!」
「ひぃ…」
傭兵たちはキールをよく知っていた。そして、キールが傭兵仲間では腕利きで唯一成功していたグループのリーダーであった事も…。
ヒラリーたちは必死に走って先回りをして…そして、ティアークの軍列の先頭の前に躍り出た。すぐに義勇兵たちが騒ぎ始めた。
「で…出たっ!敵襲うぅ〜〜っ‼︎」
ヒラリーは自慢のレイピアで「遠当て:牙突」を打ち込み、6人の仲間と一緒に500以上の義勇兵に戦いを仕掛けた。
ヒラリーは全面戦争をするつもりはない…7対500で勝てる訳がない。軍列の先端をチョンと突ついて、その後はひたすら逃げる算段だ。
後方でも、キールが仕掛けて…軍列の両端で戦闘を起こした。
「よし、頃合いだ…みんな、林の中へ逃げ込めっ!」
ヒラリーやキールたちが逃走を開始すると、ティアークの軍列は長く横に伸び食糧馬車を護衛する騎士兵たちもそれに引き摺られて左右に割れた。食糧馬車の警備が手薄になった。
ドドォォ〜〜ンッ‼︎
ベロニカとベンジャミンが近距離から「ファイヤーボール」を食糧馬車に向かって同時に放ち、二台を焼失せしめた。
「食糧馬車がやられたぁ〜〜っ!」
騎士兵の隊長の叫びで、左右に割れていた兵隊たちは、敵を追うべきか食糧馬車を守るかしばし迷い混乱した。
「…魔導士を見つけて殺せぇ〜〜っ!」
その命令で、左右に割れていた兵隊たちは中央に集まり始めた。
エビータとティモシーは「シャドウハイド」で隠れて、ベロニカとベンジャミンに接近する兵隊たちをことごとく処理し…リキャストタイムを稼いだ。
そして再び、三台目を含めた軍列の中央を二人の「ファイヤーボール」が襲った。
ズドドドォォ〜〜ンッ‼︎
三台の馬車は集結しつつあった騎士兵、義勇兵もろともに夜空を焦がして炎上した。
大混乱のティアーク軍の追手をあしらいながら…ベロニカたちは林の中を遁走し、街道沿いに東100km先を目指した。そこが新しい集結地点だ。
運が良い事に…騎士兵たちが中央に寄っていて、その多くが「ファイヤーボール」の餌食になり残った追手のほとんどは義勇兵だったので、あまり追跡に執着しなかったため引き剥がすのにはそれほど苦労はしなかった。
集結地点にベロニカたちが集まった時には、空が白み始めていた。
ヒラリーは、ベロニカやベンジャミン、エビータといった主たる面々と顔を見合わせながら言った。
「…他は無事か?」
キールが言った。
「こっちは…二人行方不明だ…。」
レンドが言った。
「…ひとり、傭兵がやられるのを見た…。」
「…そうか。」
結局、傭兵の三人が欠けてしまったが、それでも…ベロニカは成功だと言った。
「…今回はかなりヤバかったねぇ。でも…何とかなった。これで私たちはティアークの援軍を四日の間、足止めすることができた。多分、これで充分だと思う…皆の者、ご苦労っ!」
キールは隣にいるベンジャミンに小さい声で耳打ちした。
「何なんだ、あのリーダー気取りの女は…⁉︎お前、女の下で働いてたのか?」
「よせ、死にたくなければ…余計な事は言うな。あいつも…お前が辛酸を舐めた相手、イェルメイドだ。」
「え…」
キールは青ざめて、それ以降無口になった。もし、自分が今までイェルマ攻略に一枚噛んでいた事をベロニカに知られれば…逆鱗に触れて粛清されるかもしれない…多分。キールはそう理解した。
その後、みんなは近くにあるプリム村へと拠点を移した。




