五百六十二章 焼き討ち その3
五百六十二章 焼き討ち その3
イェルマ城門前広場での大精霊バトルから三日が経過した。
南の一段目の祭事間では大精霊バトルでの負傷者を数多く収容し、その対応にてんてこ舞いしていたが、それもようやく落ち着いた。
そんな祭事館にお腹を大きくした大柄の女性と小さな少女が突然現れた。
「おぉ〜〜い、アナはいるかい?」
「はぁ〜〜い。あっ、ルカ師範…どこか具合でも…まさか、陣痛?」
「いやぁ〜〜、北の一段目の槍手房が人っこひとりいなくてなぁ…寂しいからやって来た。」
「そこの女の子がいるじゃないですかぁ…。」
「ん、テルマか?…まだ十一歳でな、私の身の回りの世話をしてもらってるんだが…もうしりとりも飽きたぁ…。」
「あはははは…!」
すると、目ざといセイラムがテルマを見つけてリグレットとフィアナを引き連れてやって来た。テルマは三人に驚いて、はにかんでルカの後ろに隠れた。
「あたしはセイラムだよぉ〜〜っ!お名前、教えてぇ〜〜っ‼︎」
「あたしはリグレットォ〜〜ッ!」
「…フィアナ。」
ルカがテルマの背中をポンと軽く叩いて前に押し出した。
「…テルマ。」
「テルマ、みんなでかくれんぼしよぉ〜〜っ!」
「…!」
セイラムはテルマの腕を取って無理やり引っ張っていった。テルマは…まんざらでもないようだった。
テルマは孤児で、十歳でイェルマにやって来た。槍手房の十二歳班で他の同じ年頃の少女たちと毎日厳しい訓練に明け暮れていた。イェルマで生まれ育った少女、または幼児の頃にイェルマにやって来た少女とは違って、テルマはイェルマという慣れない環境で頑張っていた。
なので、テルマにとって「遊ぶ」ことは、忘れかけていた記憶なのだった。
四人はジャンケンをしてセイラムが鬼になった。三十を数えてセイラムがみんなを探し始めるとものの30秒でみんなを見つけてしまった。妖精は「探し物」が大得意だ。
セイラムたち四人がキャァキャァ叫んで祭事館を走り回っているので、アナが大声で嗜めた。
「こらこら、患者さんが寝てるんですよ。静かにしなさぁ〜〜い!」
…無理な相談だった。
ルカは毛布を一枚持ってくると、床に敷いてそこに寝そべった。
それを見てアナは言った。
「あらまぁ、ルカ師範…椅子をご用意いたしますのに…。」
「いや、これでいい。私はこの戦争に参加できずにむしゃくしゃしていたんだ…せめて、こうやって頑張った仲間たちと一緒にいて、彼女たちを眺めていた方が心が落ち着くってもんだ。」
大変なお荷物を抱え込んでしまったなぁ…アナはちょっとそう思ってしまった。
「何っ!…援軍が伏兵に襲われただとっ⁉︎」
ガルディン公爵は憤慨していた。軍務尚書は続けた。
「確認できたのは…魔導士が二人と、他に腕利きの前衛職が数人です…。」
「うむむ…山賊の類か?」
「まさか…。2000のティアーク王国軍を狙う山賊などおりませんでしょう…。それに、食糧を奪うでもなく、ただ焼き尽くして山賊に何の得がありましょう…。」
「では、イェルマの別動隊か?…しかし、現在イェルマは交戦中…城塞都市からコッペリ村のエステリック軍を抜いて別動隊など出せるはずがない。とすると…ヴィオレッタが逃亡した際に手助けした輩か…まだこの辺りに潜んでいたのか⁉︎」
「…分かりません。しかし、今回の襲撃での死者は騎士兵18、義勇兵7と軽微です。奴らの目的は食糧の強奪やエステリック軍の撃滅ではなく…ただ単に、エステリック軍への援軍の阻止ではないでしょうか?」
「すると、やっぱりイェルマの手の者かっ!」
「宰相、いかがいたしますか?」
「もう一度、2000の隊を再編成してコッペリ村へ送れ。それでまた、同じようなことが起これば…その時は、その不埒者に目に物見せてくれるっ!」
「かしこまりました。」
結果から言うと…次の早朝に遠征の途に着いたティアークの援軍は夜に再び襲撃された。それで、ガルディン公爵は今度は2500の援軍を組織して出兵させた。
ベンジャミンはティアーク城下町の東門付近に張り付いているベロニカとヒラリーから「念話」を受けた。
「…今度は2500か…怪しいな…。エビータ、どう思う?」
エビータは言った。
「500は直接こっちに来るんじゃないか?」
「俺もそう思う。500で俺たちの襲撃を阻止して、その間に残りの2000を通すつもりだな。」
「どうする?」
「ふふふ、襲撃ポイントをずらすまでさ。」
そう言うと、ベンジャミンは母屋のみんなに命令した。
「すぐにここを引き払って、拠点を変える。みんなは手分けして食糧を買い漁って来いっ!」
カールが言った。
「なぁ、ベンジャミン。俺たちは何をやってるんだ?東の街道を通る連中を襲って、金品を強奪するでもなく、食糧を奪って転売するでもなく…?」
「…そのうち分かるさ。」
ベンジャミンやベロニカは傭兵たちには盗賊とだけ言って、今回の目的を明確に教えてはいなかった。それを教えてしまうと…ほとんどが逃げ出してしまうからだ。実際にこれまでの実行部隊はベンジャミンやベロニカ、そしてエビータとその仲間だけだったので、彼らがティアークの騎士兵を見る機会はなかった。
案の定、ベンジャミンたちが立ち去った二時間後、500の騎士兵がオリゴ村に大挙して押し寄せた。
ベンジャミンたちはオリゴ村から林の中を約100kmほど街道沿いに東進した。そして、林の中に潜んで街道を進むティアーク軍の援軍を出迎えようとしていた。
そこで、ベンジャミンたちは二個小隊のティアーク軍と遭遇した。それはガルディン公爵が東の街道に配置した「見張り」だった。
「ん…何だ、お前たちは?」
傭兵たちは初めて金属鎧を身に纏った敵の姿を見た。すぐにベンジャミンは命を下した。
「レンド、ピック、ティモシーッ!」
三人は即座に木陰に隠れて…次の瞬間には十人の騎士兵と義勇兵を倒していた。
「ちょうど良かった。こいつらの拠点を使わせてもらうか…。」
ティモシーが街道沿いにあったいくつかの幕屋をすぐに発見した。
「ベンジャミンさん、テントがありましたよぉ〜〜。食糧と馬も結構ありました…ただ…」
「ただ…?」
「…変な人が縛られて拘束されてました。」
「む?」
ベンジャミンがひとつの幕屋に入ってみると…二人はお互いの顔を見合わせて驚いた。
「…ベンジャミンじゃないか!」
「おっ、お前…キールか⁉こんなところで何やってるんだ?」
「コッペリ村から逃げて来た…酷い戦争だった。一万近く死んだ。俺の仲間も全滅した…。逃げたは良いが…こうやってティアークの兵隊に捕まってしまって踏んだり蹴ったりだ…。」
「…そうか。相手はイェルメイドだからなぁ…」
ベンジャミンとキールはエステリック王国の傭兵ギルドで顔見知りだった。ただ、ベンジャミンは有象無象を束ねて東奔西走していたのに対し、キールは特定の仲間たちだけで腰を据えた活動をしていたので、二人はギルド会館でたまに顔を合わせるだけでこれといった交流があった訳ではない。
ベンジャミンはキールの縄を解きながら言った。
「どうだ、俺たちを手伝わないか?飯は食わせてやるぞ。」
「そうか…ありがたい。コッペリ村から食い物も持たず、命からがら逃げて来たからな…」
「今からすぐ、ティアークの食糧馬車を襲う。傭兵の前衛を指揮して欲しい。」
「えっ…ティアークの食糧馬車を襲うだって⁉…お前、何やってるんだよっ、正気の沙汰じゃないっ‼︎」
「俺もそう思う。だがな、お前同様…イェルメイドには勝てないって事さ。」
「…?」




