とんでもないや
スーパーへ向かう道すがら。
世界ちゃんの言葉を思い出す。
『ハンバーグ特盛ね』
出費が拡大する事件に発展した。
「買い物に付いて来もしない……」
世界ちゃんは完全に御客様と化していた。
「下弦くん、この前のショッピングモールまで行くん?」
「今からだと遅いから近くのスーパーにしようか」
「スーパーなの、凄いの」
「凄いぞー、スーパーだからな!」
「最近の買い物は大体あそこで買ってるぞ」
「あの総菜もそうなん?」
よく食卓に並ぶ総菜の話だ。
「御礼言うとかななー」
必要無いと思うけど……。
「言うのー」
「言うデー」
言う日だった。
スーパーは歩いて十五分ぐらいの所にあった。
”とんでもマート”と書かれた看板が強い光を放っている。
「いつも思うけど、面白い名前だ……」
とんでもなかった。
まだまだ車が多い、気を付けながら入り口を目指す。
「急がないと世界ちゃんが怒りそうだ」
「急ぐの」
「えぇー」
「何でぐずるんだろう!?」
不死ちゃんが不満そうな声をあげていた。
「せやてー、折角皆で遊びに来たのに、勿体ないやんー」
「遊びに来た訳じゃないんですけどね!?」
田舎は娯楽が少ない、簡単なショッピングすらちょっとした楽しみになる。
気持ちは分かるけどな。
「ぶーぶー」
「はいはい、入りますよー」
「入るのー」
先に入っていく沁ちゃん、その後を追うように明るい店内に入っていった。
「あ、店員さんやー」
入ってすぐのところに、仕事をしている従業員の方を見つける。
何故か不死ちゃんは駆けて行った。
「いつもありがとうございますー」
そして御辞儀をする。
「え、いえ、こちらこそ?」
店員さんが戸惑っていた。
そのままこちらに帰ってくると。
「えへへー」
何て笑っていた。
「てい!」
「痛ーっ、何でデコピンするんー!?」
「ちょっと恥ずかしかったから」
「えー、でも御礼は言うた方が気持ちええでー」
「うん。その心根を差し引いてデコピンで我慢したんだ」
「差し引いてこれなん!?」
スーパーの中は賑わっている、家族連れが楽しそうに買い物をしていた。
俺達は店の導線に従うように、右回りで店内を歩いていく。
「ハンバーグの材料はっと、取り合えずミンチで」
「あんなー、ウチはパンを入れとったよー」
「それカサ増しあるあるだよ!?」
「美味しかったでー?」
「確かに、量も必要だし買っておきましょ」
「明太子も買うの」
「ええなー、マヨネーズと混ぜてから投入や!」
「ソースとしても使えるの!」
沁ちゃんが自信有り気に言っていた。
明太子マヨは確かに強そうだなー。
「あ、そうか。ソースのことを考えて無かった」
「デミグラスソースもええなー」
「ゆずポン酢も良いの!」
「はいはい、取り合えず買っておくか」
いずれ使うだろうと適当に買いこんでいく。
気が付けばコンモリと買い物カゴからはみ出ていた。
「一体いくらになるんだ……」
必要経費とはいえ、最近財布がちょっと弱っていた。
『ま、まだ闘える……』
やせ我慢してるな財布のヤツ。
全て俺の妄想である。
「あー、フルーツ缶積んどるー」
缶に入ったフルーツが特売なのか、天高く積み上げられていた。
「見て見て下弦くん! ジミちゃん! めっちゃ積んどるで!」
フルーツ缶の前で、手を挙げて飛び跳ねる不死ちゃん。
「楽しそうで何より」
「なの」
「えへへー」
その時、ペシッと音がした。
何かをはたくようなペシッと言う音がした。
「あっ」
不死ちゃんが振り向くと、フルーツ缶の壁が斜めに傾いていた。
「……あかん」
不死ちゃんが素の声で言っていた。
フルーツ缶の群れが不死ちゃんに襲い掛かる!
「ぎょにーっくぅーっ!?」
「不死ちゃーん!?」
謎の掛け声と共にフルーツ缶に埋め尽くされた不死ちゃん。
「大丈夫か! 魚肉缶じゃなくてフルーツ缶だぞ!?」
慌てて不死ちゃんを助けに向かう。
姿が見えない程の缶が覆いかぶさっていた。
「ぷはぁっ」
すぐに飛び出てきたけど。
「死ぬかと思った……。ウチ、死なへんけど!」
「怪我してない?」
「平気やー、内出血しても直ぐ治んねん」
「不死ちゃんは危なっかしいの」
「まぁ、無事で良かった」
「お客様大丈夫ですか!?」
音を聞きつけた店員さんが走ってくる。
「大丈夫です。丈夫なのが取柄ですので」
「あー、その言い方傷付くよー」
「あ、ごめん思わず」
「ええよー」
あっさり許してくれた。
「でも心の傷は治らんの、覚えとってなぁー」
「覚えとくの」
沁ちゃんも同意している。
確かに死なないとしても記憶はある。
辛い記憶はドンドン蓄積されているのだろう。
何故か、とても大事なことのような気がした。
様子を見ていた、店員さんが口を開いた。
「あの、お客様……」
店員さんと目が合う。
泣きそうな顔をしている。
何て悲しそうな顔なんだ。
何故か、とても大事なことのような気がした。
「今日の担当僕一人なんです……」
店員さんは悲しいことを言った。
いっぱいいっぱいの様相である。
俺は惨状を確認する。
おびただしい程に飛び散ったフルーツ缶。
怪我人が出なかったことが幸いだ。
他に選択肢は無い。
「も、勿論手伝いますんで!?」
「ウチも手伝うでー!」
「アタシも手伝うの!」
その言葉は聞いた店員さんは、とても嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。
それから俺達はフルーツ缶を片づけるのに奔走した。
「数はあってるのかな……」
一応目についた分は回収できた。
他のお客さんも手伝ってくれて、感謝しかない。
滅茶苦茶謝っておいた。
「もうすぐ棚卸があるので大丈夫です。ありがとうございました」
「いえいえー、元はと言えば、この子が悪いんで」
「ウチなん!?」
他に誰が居ると言うんだ……。
手伝ってくれたお客さん達にも改めてお礼を言うと、買い物を続けることにした。
俺達は買い残したものが無いかフラフラと店内を回っていた。
「もう無いかなぁ」
「ウチはもう御腹いっぱいや」
これから晩御飯なのですが……。
「ちょっとあっちに行ってみるの」
「あ、待ってぇジミちゃん」
二人は店の中をトテトテと駆けて行く。
楽しそうな二人を見て思う。
俺に子供でも居たらこんな気分なのだろうか。
中年になると、そんなことを考えてしまうのだ。
「まぁ、二人とも俺より年上何だけどな」
俺は流れのまま歩を進める。
「あれ……」
不意に視界に入った”金色の髪”に目を奪われた。
瞬間、何故か再会を謳ったあの少女だと確信したのだった。




