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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
魔王の改革

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78 乱入者

 ◇◇ 学院長 ◇◇


 いよいよ明日から冬休み。

 このまま何事もなく過ぎることを願っていたが、世の中そんなに甘くはなかった。面倒ごとがキラキラの派手な服を着て高学院にやってきた。


 今年最後の講義である妖精学講座が始まった時間、魔法省の副大臣ヘイズ侯爵(52歳)と、軍務大臣のデミル公爵(56歳)が、学院長に直談判に来たのだ。


「学院長! 勝手に妖精学講座など開いているそうだが、どういうことかな?

 魔法省には事前報告もなければ、講師の派遣要請もなかったが?」


つい最近まで最大派閥だったヘイズ侯爵派を率いているヘイズ侯爵本人が、まともな挨拶をすることもなく、学院長に不平というか文句を言う。


「ヘイズ侯爵のご子息カルタス君(魔法部3年・ヘイズ侯爵の次男・女子寮侵入で停学していた)と、うちのイスデン(貴族部3年・デミル公爵の六男・アコルに闇討ちをして停学していた)は、光適性を持っているのに妖精学講座を受けられないのは何故だ?


 確かに停学にはなったが既に罰を受け復学しているのに、学院長の横暴だと息子たちから聞いた。納得のいく説明をして貰おう」


同じヘイズ侯爵派のデミル公爵は、息子が不当な扱いを受けていると、開口一番怒りの形相で怒鳴った。




 実はこの二人、学院長とトーマス王子を心底恨んでいた。

 恨まれるきっかけとなったのが、二人の息子の退学騒動だった。


 学院長はトーマス王子との連名で、カルタスとイスデンを領主の子息として許されないことをしたとして、退学処分が妥当だと王様に承認を求めた。


 本来なら承認など必要ないのだが、レイム公爵から政治的取引に利用するから、王様の承認を求めるように指示が出たのだ。


 そこで王様は、ヘイズ侯爵とデミル公爵を呼んで、二人の息子を退学処分にし、領主の子息としてあるまじき行為をしたことを王宮で公表することにしたと告げ(脅し)た。


 当然そんなことをされては家の恥になるばかりか、第一王子マロウ様の側近として働くことができなくなる。

 それ以前に高学院を卒業していないと、恥ずかしくて社交界に出られないし、まともな嫁は望めなくなる。


「王様、ここはお二人の顔を立てて、魔獣討伐に関する権限を、軍と魔法省から切り離し、国務大臣であるワイコリーム公爵(39歳・ラリエス君の父)に一任すると確約……いえ、お願いして頂くことで目を瞑られては? 


 そうすれば、度重なる魔獣討伐の失敗による損失を、財務大臣としてお二人に負っていただく予定でしたが、私財まで・・・とは、私も口にしにくくなります。


 ああ、でも、ここは最後までお二人に責任を取って頂いてから辞職願った方が、他の大臣や領主たちも納得するでしょう」


レイム公爵はこの機会に、魔獣大氾濫に備えた膨大な予算を、軍と魔法省から奪い返そうと考えた。


 無能に大金を任せていては、国金が底をつく。来年度の予算決定は1月なので、それまでにこの二人から大きな利権を取り上げる方法を、レイム公爵派は思案していたのだ。

 アコルのお陰で、大きなチャンスが得られたレイム公爵だった。


「そのようなこと・・・」


「いやいや、こちらはご子息の将来と、お二人が王都の屋敷を手放すようなことになってはと、余計な心配をしたまでですデミル公爵。

 差し出口だとお思いでしたら、今の提案は取り下げましょう」


 利権は渡したくないが、息子を退学にしたくない。そして、魔獣討伐失敗の責任も取りたくないデミル公爵は、怒りと損得を天秤にかけながらレイム公爵を睨む。


 王都の屋敷を処分する事態に追い込まれるなんて、全く予想をしていなかったが、他の大臣や領主たちがそれを王様や財務大臣に要望しているのであれば、かなり不味いことになるとデミル公爵は考え、天秤を個人の損得の方に傾けた。


 ヘイズ侯爵は、怒りと憎しみの感情を隠すこともなく、王弟であるレイム公爵を睨みながら、両手を強く握りしめ奥歯を嚙み締める。


 魔獣討伐の失敗は、魔法師と軍の兵士が無能だったからだ! と叫びそうになったが、ドラゴンが襲撃してくる直前まで、これからはA級作業魔法師が討伐に向かうので、何の問題もないと自信満々に全大臣の前で見栄を張ったばかりだったことを思い出した。


「若いワイコリーム公爵が苦労されると思うと申し訳ないが、本人がやりたいと望むのであれば、経験を積むためにも良いかもしれませんな。

 私は魔法省の責任者として、ワイコリーム公爵を応援することにしましょう」


ヘイズ侯爵的には精一杯の負け惜しみを言いながら、レイム公爵の提案を飲むことにした。


 どうせ魔法師や軍の兵士たちは、ワイコリーム公爵の命令なんかには従わないだろうと、妨害工作を瞬時に考えながらニヤリと笑う悪人顔のヘイズ侯爵だった。




 それ以来、なんとか学院長とトーマス王子に復讐する機会を狙っていたのだが、先日帰ってきた息子から妖精学講座を受講させて貰えなかったことを聞き、ここぞとばかりに乗り込んできたのだった。


 高学院で妖精学講座が開講されていることを、魔法省と軍には報告さえされておらず、そのことにも激怒していたのだ。

 ヘイズ侯爵は、妖精を使役するのは魔術師だから、妖精と契約できる者を管理監督するのは魔法省だと勝手に考えていた。


「これはおかしなことを・・・妖精と契約できる者の管轄は、魔法省でも軍でもありませんよ。

私が各部署に確認したので間違いありません。


  強いて言えば、サナへ侯爵家とレイム公爵家が専門とするところでしょう?

 この国に居る妖精と契約できる者を、魔法省が全員把握していますか?


 魔法省に登録する義務もなければ、届け出る必要もないのに、なんの権利があってレイム公爵家とサナへ侯爵家に喧嘩を売るんです?」


学院長は、余裕の態度でヘイズ侯爵に反論というか正論を返す。

 

 魔法省に権限があると勘違いしていたヘイズ侯爵は、「グゥ」と悔しそうに言葉を嚙み殺し、何も反撃できない状況に益々怒りが増す。


「妖精学講座を受講できるのは、妖精が契約出来そうだと判断した者であって、私が決めた訳ではありません。

 文句があるのなら、魔法省でも講座を開けばいいじゃないですか。


 先程、講師派遣の要請もなかったと仰っていましたよね。

 高学院で講師をしているのは学生です。魔法省の講師の方が優秀だと思われませんか?」


今日の学院長には余裕があった。この事態は想定済みであり、言われる文句の受け答えもトーマス王子と一緒に考えてあった。


「なに?! 学生が教えているだと! なんと無責任な。

 これは由々しき問題だ。王族ともあろうものが、そのような愚行を!


 至急在校生の父兄に連絡して辞めさせねばなりません。

 学生や親をバカにしているとしか思えない。早急に対処しましょうヘイズ侯爵」


やっと学院長を追い詰める題材を見付けたと、デミル公爵は大声で学院長の行いを批判し、ヘイズ侯爵の腕を掴んで学院長の執務室を出ていった。




 ◇◇ 図書館 ◇◇


 同時刻、魔法省の役人と思われる四人が学院長の許可も得ず、妖精学講座が行われている図書館に乗り込んでいた。


「ここが妖精学講座なるものを教えている教室か!」


四人の役人のうちの一人が、高圧的な態度で図書館に入るなり怒鳴った。


「君たちは、誰の許しを得てこの場に来た?」


「はあ? 誰の許しだと? 我々は魔法省の高官だ。当然副大臣ヘイズ侯爵様の命令で動いている」


目の前の学生が誰なのかも知らない自称高官は、悪びれることもなく断言した。


 魔法省は現在、王立高学院を卒業した優秀な魔法師が閑職に飛ばされたり、研究所に押し込められていた。

 副大臣であるヘイズ侯爵の周囲は、全て自分の派閥の人間で固められており、地方の高学院を卒業した事務官が多かった。


「へえ、ここは王立高学院。政治や軍が介入してはならない場所だ。

 ヘイズ侯爵は、そのような常識も知らないのか・・・フン、これが魔法省の現状だ諸君」


ルフナ王子はよく通る声で、懐疑的な視線を魔法省の役人に向けている同胞に向かって言った。


「なるほど、妖精と契約した学生を、高学院が保護する意味がよく分かるな」


ルフナ王子の隣にやって来て意見したのは、ワイコリーム公爵家のラリエス君だった。


「学生のくせに生意気な態度だな。貴族とは言え、そのような反抗的な態度の者は、魔法省には就職できないぞ!」


 ヘイズ領の高学院を卒業していた男は、魔法省というエリート集団で働いている自分を、常日頃から偉い役人だと豪語するような人間だった。

 しかしながら爵位は低く、王子や領主の子息と謁見できるような立場ではなかった。


「嫌だなあ、別に私たちは魔法省に就職したいなんて思ってないから。

 それで、魔法省の役人が、何の権限で大事な講義を邪魔するんだ?」


【麗しの三騎士】のエイト君は、役人より偉そうな態度で腕を組み、完全に喧嘩を買う気だ。


「な、生意気な!

 我々は魔法省に届け出されてない講義を辞めさせるために来た。


 誰が教えているのか知らんが、素人が妖精と契約できる方法を知っている訳がない! 

 我々魔法省には、騙されている学生を正しく導く義務がある。責任者は誰だ!」


 3年前まで採用担当として地方の高学院に出向いていた役人の一人は、学生やその家族からもてなされる側の人間だった。

 下級貴族の子息には、自分に逆らったら魔法省では働けないぞと脅し、賄賂を要求することも・・・いわゆる美味しい役職に就いていた。


 こんな風に学生から反抗的な態度を取られることなんて一度もなかった。

 彼がこれまで面接してきたのは、地方の下級貴族の学生であり、高位貴族の子息は、役人に頭を下げて就職する必要などなかったのだ。


「うわーっ、今の魔法省の役人って、怖いもの知らずだな」


「講義に乱入してくるなんてあり得ないよな。バカなの?」


「信じられない。ここが王立高学院で学生は貴族だって知らないのか?」


「俺も今の魔法省には就職したくないな。こんなんじゃ、アコル君の言う通り使い捨てにされそうだ」


学生たちは、王子と領主の子息に向かって暴言を吐く魔法省の役人に違和感を感じた。

 そして同時に、今の魔法省の役人のレベルの低さを知ることになった。

 迷惑そうな視線を向け、あり得ないと囁き合う。


「責任者? それは当然学院長だろう? そんなことも知らないのか?」


今日のルフナ王子は絶好調だった。少しでもいい格好をしようと頑張っていた。

 だって、自分の肩に可愛い妖精のアラビカちゃんが座っていたのだ。


「どうやら高学院の教育レベルが落ちているようだ。魔法省の役人に敬意も払えないとは。

 ヘイズ侯爵様の仰る通り、今の学院長の教育・・・」


「黙りなさい! 貴方こそここを何処だと思っているの?

 魔法省の役人は、王子や領主の子息に礼も取らず暴言を吐くよう指示されているのかしら?


 あら、その顔は何?

 確かに魔法省の副大臣はヘイズ侯爵ですが、大臣はわたくしの祖父であるマリード侯爵だったはずですわ。

 大臣の孫を睨み付けるとは、今の魔法省はどうなっているのかしら?」


「信じられませんわねノエル様。

 ただの役人が、ルフナ王子やワイコリーム公爵家のラリエス様、マギ公爵子息であるわたくしの弟エイトを見下すなんて。

 魔法省は、いえ、ヘイズ侯爵は王家に対し謀反でも考えているのかしら!」


日頃は温厚なエイト君の姉であるミレーヌ様が、ノエル様の隣に進み出て、逆に役人を睨み付けた。

 執行部のメンバーは、なんて頼もしいんだろう!と、アコルは成り行きを傍観していて嬉しくなった。


「な、なんだと・・・大臣の孫? お、王子だと・・・」


強気の態度だった役人たちは、急に顔色が悪く……いや真っ青になっていく。

 魔法省大臣は3年前から病気療養中で、ヘイズ侯爵派の役人は、王宮では怖いものなしだった。


「ここは王立高学院。王族や高位貴族も学んでいる誇り高き神聖な場所です。

 何故王子の前で礼をとっていないのです?


 ルフナ王子、折角ですからアラビカちゃんを見せて差し上げれば?

 魔法省と高学院の教育の差を教えてあげた方が、二度と王族に反意を、いえ、高学院に足を踏み入れることもなくなるでしょうから」


ガタガタと震え始めた四人の役人に向かって、アコルは穏やかな口調でルフナ王子にお願いする。

 とどめを刺しに現れたアコルに、その場にいた学生も教師たちも賛同し、一斉に立ち上がって胸を張る。


「仕方ないな。僕の可愛いアラビカちゃんが穢れそうだけど、妖精学講座の素晴らしさを教えた方がいいだろうね。アラビカちゃん」


ルフナ王子は、嬉しそうに自分の契約妖精の名を呼んだ。


 すると、それはそれは可愛い姿で、5色の羽根を優雅に羽ばたかせて、ルフナ王子の周りをふわふわと飛ぶ女の子の妖精が姿を現した。

 途端に「キャー可愛い!」とか「俺も早く妖精と契約したい!」と、あちらこちらから声が上がる。


『王子であるルフナに対して暴言を吐くとは、ねえルフナ、この人たちって不敬罪よね。このまま生かしておいていいの? 妖精仲間を呼んで、懲らしめてもいい?』


とても可愛い顔をして、アラビカちゃんは容赦なくはっきりと言い放った。


 図書館の古い本に宿っていたアラビカちゃんは、まだ若い妖精だけど知識が豊富で頭がきれた。

 可愛いけどご主人様の敵には容赦なかった。


 口癖が『私がルフナを守るわ』だったので、学生たちは妖精と契約できれば、自分を守ってくれる存在にもなるのだと信じることができた。


「よ、妖精・・・」と目を見開いたまま、役人たちは茫然とアラビカちゃんを見つめる。


 そして、図書館内に居る全員から敵意を向けられていると気付き、アラビカちゃんの言葉に恐怖した四人は、「ヒーッ!」と震えあがって逃げだした。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

更新遅くなりました。次話更新は、月曜日の予定です。

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