70 不正疑惑
新章スタートしました。
リーダー対決戦の二日後、クラス対抗戦の結果が掲示板に張り出された。
高学院の改革が開始されて初めての定期試験は、これまでのように上位成績者10人だけが貼りだされるのではなく、全科目全員の得点が全て公開され、最高点から最低点取得者まで一目瞭然となった。
それだけではなく今回から変わったのが、平均点の半分以下の得点を欠点とし、欠点を取った学生の名前の下に朱色の線が引かれていたことである。
しかも、欠点が3教科以上あった学生は親に通知が届けられ、長期休暇が短縮されることになった。
学院長の完全実力主義は、緩んでいた一部の学生たちに大きな恐怖を与え、同時に担任教授にも優劣がつけられることになった。
これまでと違って、下位の成績者は自分が無能であると知られてしまい、誰がクラスの平均点を下げたのか分かるので、身分で大きな顔をしていた学生が、皆から白い目で見られることになってしまった。
「凄いですねルフナ王子。全ての教科で平均点以上です」
「うん、アコルのお陰だよ。でも、高得点には手が届かないよエイト」
「まさに奇跡ですねルフナ王子。おっ、やった! アコルにひと科目だけ勝ってる」
「いや、でもアコルはその魔法部の科目の授業は受けてないよなラリエス」
「エイト、親友として、そこは黙っておいてやれよ」
【麗しの三騎士】は、掲示板の前でルフナ王子が欠点にならなくて良かったと喜んでいたが、後ろから聞こえてきた不穏な声に気付き表情を曇らせた。
「無能な学生のせいで、この私を不当に評価して貶めるとは、学院長でも許せない。平民ごときが評価されるなどあってはならない。生意気な平民め!」
1年A組の担任であり貴族部のリベルノ教授(数学)は、目の前にルフナ王子がいると分かっていて呟いたのか、それとも知らずに呟いたのか、どちらにしても容認はできないと【麗しの三騎士】は頷き合った。
学院改革を、理解していたようで出来ていなかったのは担任教授たちだった。
学生たちの成績表の隣に、全学年、全9クラスのクラス対抗戦三種目の其々の得点と、三種目合計得点による順位表が貼り出されていたのだ。
クラス対抗戦の一種目である、定期試験のクラス順位表の一番上に書かれた教授の名前は、1年D組のパドロール教授(特務部)で、2位をぶっちぎっての1位だった。
1年D組は、アコルが受けた20科目中18科目で最高点を取り、魔法部の科目でラリエス君が最高点を取っていたので、合計19科目で最高点を獲得していた。
全学年で行われた試験科目数は約65科目で、ちなみに2位のクラスの最高得点取得数は5科目だった。
高得点を多く取得したためクラスの平均点を大きく上げ、最低点を取った学生もいたが、結果的に1年D組がトップとなった。
そして不正がないよう、上位10番までの学生の答案用紙はそのまま貼り出されていた。
クラス対抗戦の他の結果はというと、魔力量の増加対決は1位・2年A組、2位・1年C組、3位・1年D組だった。
やはり魔法部の伸びが良かったが、今年の1年には王子が在籍している。だから良いところを見せようと同期生は頑張った。
それと【麗しの三騎士】が女子学生の魔法の練習を指導したこともあり、1年の頑張りが目立つ結果になった。
そしてリーダー対決戦は、言うまでもなくトップは1年D組で、2位は3年A組、3位は2年B組だった。
全ての結果から、クラス対抗戦で勝利したのは1年D組となった。
総評として、3年生は、魔法部の頑張りは大きかったのだが、貴族部の男子が定期試験と魔力量増加で、貴族部の女子も魔力量増加で足を引っ張った。
2年生は、貴族部の男子と特務部の学生が定期試験で足を引っ張り、魔力量増加では貴族部の男子が足を引っ張った。
「がっかりですわねエリザーテ。これでは、執行部に入りたいと仰っていた方々の入部は難しいですわ」
「ええノエル様。救済活動ではあれだけ頑張ってくださったのに・・・」
「自分よりも弱い殿方というのはどうなのかしら?」
「まあチェルシー、まだ12月になったばかりでしてよ。皆さんこれからですわ。次のクラス対抗戦の1月を楽しみに、執行部のお仕事を頑張りましょう」
「「はい、ノエル様」」
掲示板の前で、いつものように新聞部の皆さんの小芝居が始まる。
それはそれは悲しそうに、学院ナンバーワン美少女で、学院筆頭の演技力を誇るエリザーテさんは、ゆっくりと胸を押さえて息を吐く。残念そうな表情も美しい。
ノエル様とチェルシーさんは、優しいのか容赦ないのか、絶妙な表現力で貴族部の男子を落としにかかる。
俺の応援隊の皆さんは、本当に頼もしいし、とても優秀だった。
貴族部男子の半数は、完全に無能を晒した形になり、貴族部女子から冷たい目で見られている。
貴族部1・2年の女子は、救済活動で新聞部のチェルシーさんが魔獣を倒したことに触発されて、魔法の練習を始めたので、魔力量増加でとても貢献していた。
商学部に限って言うと、欠点を取るような学生は……ほぼいない。
大多数が勤勉であり、就職することを前提に入学しているので、余程の貴族のボンボンを除いて努力している。
しかも今年の1年は、アコルが何気に喧嘩を売っていたので、平民に負けるものかと魔力量増加も頑張っていた。
気落ちが激しいのは特務部である。
クラス編成が大きく変わったので、女子と同じクラスで過ごすことが増え、体力自慢や魔獣退治自慢をして女子にアピールしていたのに、定期試験の順位張り出しでメンツが潰れ、リーダー対決戦でも【麗しの三騎士】の大技を見せられ自慢の鼻をへし折られてしまった。
* * * * *
特務部と魔法部の教授に関して言えば、リーダー対決戦で披露された【麗しの三騎士】の魔法攻撃に衝撃を受けていた。
自分の持つ最大攻撃魔法よりも、強力な攻撃魔法を操る学生が、しかも1年生に現れてしまったのだ。これからの学生の指導をどうしたらいいんだ!と頭を悩ませることになった。
アコルの攻撃魔法に関しては、恐らくエアーカッターだろうと結論が出ているが、誰もそれを信じようとしないし、記憶の真ん中で惑わされるのを避け、記憶の片隅に追いやっている教授が殆どだった。
「商学部のアコル君が攻撃した的は、少し大きさが違っていたが、強度も違っていたのではないか?」
特務部で魔獣対戦担当講師をしているヨーグル(33歳・男爵家三男)は、特務部の教員室でふと疑問を口にした。
ヨーグルは冒険者ギルド本部から派遣されているAランク冒険者で、高学院の特務部で、軍志望者の指導を始めて3年目だった。
「ああ、学生たちも疑問視していたな。魔法部も明らかに分かる汚い手まで使ったのに、逆にアコルの優秀さを際立たせてしまった」
ちょっとニヤニヤしながら嬉しそうに話すのは、アコルの担任であるパドロール教授(47歳)だ。
特務部では珍しくA級作業魔法師の資格も持っている。
基本的に特務部と魔法部は仲が悪い。それは魔法部が特務部をバカにしているからだ。
「これは驚きだ。パドロール教授は、魔法部のデントール教授がなにがしかの小細工をしたかのように言われるのですね」
不敵な笑みを浮かべて二人の会話に割って入ったのは、特務部で軍幹部を育成するハイサ教授(55歳)である。
彼は軍から派遣されているヘイズ侯爵派の準男爵で、同じくヘイズ侯爵派であるデントール教授とは仲良しだった。
「誰の目にも違って見えたと言っているだけですよハイサ教授」とヨーグルは挑むように言う。
「そうですな。そうでなければ、別の魔法陣を間違えて使ったというところでしょうか?」
余裕の笑みを浮かべ、挑戦するような瞳でパドロール教授は返答する。
これまでヘイズ侯爵派は軍では絶大な力を持っていた。だからハイサ教授の態度は部長教授であるパドロールよりもデカかった。
しかし今の学院長になってから、ヘイズ侯爵派を抑え込もうとしていることは、誰の目にも明らかだった。だからパドロールにも余裕があった。
「フッ、暢気なものですな。1年D組の平民……いや、商学部のアコルは、リーダー対決戦で不正を働いた可能性があると、魔法部や貴族部の学生の間で噂になっているようですよ。
担任であるパドロール教授の責任問題となるのでは?」
「これは驚きだ。無能な軍の……失礼、無能な学生たちは、あれが巨大エアーカッターだと分からないのでしょう。
Cランク以上の冒険者であれば、アコルの実力は一目瞭然ですが、それを不正という者は無知なだけです。基本から教え直さねばなりませんね」
日頃から冒険者風情がとバカにされていたヨーグルは、ここぞとばかりにケンカを買う。
「それでは、もう一度他の教授が魔法陣を使って的を作り、再びアコルが破壊するか首を落とせば、不正などなかったと証明できるでしょう?
ああ、デントール教授の不正がなかったことも証明しなければ・・・的は二つ作るべきでしょう」
今度はパドロールもケンカを買って、ヨーグルとデントールにどちらが正しいのか証明するための再競技を、学院長にお願いしてみようと言って腕を組んだ。
負け惜しみとも取れるけど、貴族部と魔法部と特務部の一部の学生が、アコルの攻撃は何か仕掛けがあったとか、見えないところから他の誰かが攻撃したのだろうとか、アコルの的は隣のホルヘンの的と違っていたから、強度が低かったのだろうなどと、噂をバラ撒いていた。
アコルの攻撃終了後に、数人の教授が現場を検証していたことも、学生には異様な光景に見えていたようだ。
* * * * *
夕食時間の学食、クラス対抗戦の結果で優遇された1年D組の学生が、早速メニューを選んでいた。
選ぶと言ってもメニューは二つしかないのだが、一番に注文できるということは、間違いなく食べたい方を食べれるのだ。学食くらいと侮ることはできない。
座る席も、これまでは高位貴族が陣取っていた席に堂々と座っていく。
これぞ完全実力主義による結果であり、下剋上の始まりとなる光景だった。
いつもならポツンと隅っこで食べているアコルだが、今日はクラスメートに囲まれていた。今夜は1年D組完全勝利を祝した祝勝会なのだ。
当然主役はアコルとラリエス君だ。
特に魔法部と特務部の学生が向ける視線は熱く、二人の近くの席に座って、リーダー対決戦で使った攻撃魔法について質問したり、自分も練習したらできるのだろうかと質問している。
「私の使った魔法陣による攻撃魔法を使うには、魔力量が80以上必要だ。足らなければ魔力量を上げることを優先しなければならないぞ」
「80かぁ・・・今の俺じゃ無理だな。でも、3年になるまでにはきっと」と、魔法部の学生が拳を握って自分に誓っている。
「アコルのエアーカッターはどうなんだ? あれはどのくらい魔力量が必要なんだ?
お前はDランク冒険者として入学していたらしいけど、エアーカッターはCランク以上じゃないと使えないだろう?」
魔法省の推薦で特務部に入学していた学生が、キラキラした瞳でアコルに質問する。
他の特務部の学生も一斉に視線をアコルに向ける。
「俺はもうDランクじゃないよ。でも、あの巨大エアーカッターが使えるようになったら、アナコンダとかアースドラゴンを倒すのに便利だから、ぜひ頑張って使えるようになったらいいよ。魔力量が65を超えたら教えるよ」
今日からアコルは、【私】ではなく、【俺】と自分のことを言うことにした。
魔王らしく君臨するのに、上品ぶる必要はないと考えてのことだ。
「アナコンダやアースドラゴン? ええぇっ! それって上位種だろう? お前、冗談は止めておいた方がいいぞ。冒険者ギルドから正式に講師として、Aランク冒険者の人たちが明日から来るらしいぞ」
冒険者ギルドの推薦で入学していたゲイル君ではない他の学生が、疑わしそうに眉を寄せ俺に注意してきた。
「ああ、俺が前に所属してたAランクパーティー【宵闇の狼】のメンバーだろう?
全然問題ないよ。俺はモンブラン商会で働いているから、冒険者はバイトなんだ。
だから、時々しか冒険者ギルドに行けなかったから、ランク上げを待ってもらっていたんだ」
「はあ?! Aランク冒険者パーティーに所属していただと!」と数人の学生が驚いて声を上げた。
「ああ、私が数年前にお世話になった冒険者の先輩方だね。確かにあの時、アコルも一緒に居たよね。あの頃から、土魔法を無詠唱で使う化け物だったなアコルは」
ラリエス君が、昔から俺と【宵闇の狼】を知っていると嬉しそうに証言し、新たな事実に魔法部と特務部の学生が目を見開いて絶句した。
「何を話しているんだ? おいアコル、お前、リーダー対決戦で不正を働いたそうだな。
貴族部2年の先輩たちが間違いないって言っていたぞ。
モンブラン商会は、こんな噓つきを入学させるとは、フン!世も末だな。そうまでして目立ちたいのかよ平民のくせに」
ニヤニヤと勝ち誇ったような顔をして、会話に割り込んできたのは、モンブラン商会とトップ商会の座を争っている、フロランタン商会の御曹司イバレンだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
次話から、アコルの容赦ない指導が始まります。




