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竜のオーブと、異世界生姜焼き

巨竜が倒れ、静まり返った洞窟。

ジンとシルバが、竜が守っていたかのような最奥の台座に近づくと、そこには赤く脈打つように輝くソフトボール大の宝玉が安置されていた。


「これって……ただの宝石じゃないよな。魔力の密度が異常だ」

ジンが手を伸ばすと、宝玉は心地よい温かさを持って掌に収まった。


「……それは、『竜のオーブ』かもしれない」

シルバが宝玉を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「幼い頃、おとぎ話で聞いたことがある。かつてこの世界を救った勇者は、世界各地の過酷なダンジョンから『4つのオーブ』を集め、その力で魔王を打ち倒したと」

「4つのオーブ……じゃあ、これがその一つ?」

「恐らく。伝承によれば、オーブを集めて魔王を倒した者は、神にも等しい奇跡の力を得て『どんな願い事でも一つだけ叶えられる』らしい」


どんな願い事でも。

その言葉に、ジンの目がハッと見開かれた。

「……ってことは、俺が元の世界に帰ることもできるのか?」


「ああ。奇跡の力なら、異世界への扉を開くことも造作ないだろう。だが……」

シルバは少しだけ眉をひそめた。

「おかしいんだ。おとぎ話では、魔王は勇者によって完全に滅ぼされたはず。なのに、今も北の果てには魔王がいて、お前のような異邦人を呼び寄せていると言われている。なぜ、かつて倒されたはずの魔王が現代にも存在しているのか……」


「……確かに不自然だな。誰かが魔王を名乗ってるのか、それとも別の何かなのか」

ジンも腕を組んで考えるが、いくら考えても今は答えが出ない。

「まあ、ここで悩んでも仕方ない。とりあえず、元の世界に帰る手掛かりができたのはデカいよ。このままオーブを集めに行こうぜ!」

ジンの前向きな言葉に、シルバは「そうだな」と頷きつつも、その瞳にはわずかな陰りが落ちていた。


ダンジョンから帰還した二人は、すぐさま冒険者ギルドへ向かった。

未知のダンジョンの踏破、しかも最下層での竜討伐という報告は、ギルドをひっくり返すほどの大騒ぎになった。


「竜、竜を二人のパーティーで!? 信じられません……!」


ギルドマスター直々に手渡されたのは、皮袋に入りきらないほどの多額の金貨と、一通の立派な封筒だった。

「これは、帝都にある本部ギルドへの紹介状です。あなた方ほどの腕があれば、より重要な依頼……他のダンジョンの調査も任せられるはず。ぜひ、帝都へ向かっていただきたい」


思わぬ形でのステップアップ。

ジンはシルバと顔を見合わせ、力強く頷いた。

目標は決まった。帝都へ行き、他のダンジョンの情報を集めてオーブを揃え、魔王を倒す。


しかし、街を出発し、帝都へと続く街道を歩き始めても、シルバの口数はどこか少なかった。


(ジンは……魔王を倒せば、元の世界に帰ってしまう)


横を歩くジンの横顔をこっそり見つめる。

自分の命を救い、一緒に戦うと誓い合った相手。彼の隣にずっといたいと、初めて心から思えた人。なのに、二人の旅の目的は「彼がこの世界からいなくなること」に直結しているのだ。

一匹狼だった時には感じたこともない、胸の奥がギュッと締め付けられるようなモヤモヤとした感情。それがシルバを無口にさせていた。


その日の夕方。

帝都への道中、森の開けた場所で二人は初めての野営の準備を始めた。


「シルバ、火起こしサンキュ! 俺、ちょっと飯作ってみるわ」


ジンは街で買い込んでいた食材――オークの肉と、不思議と元の世界と似たような野菜たちを取り出した。

「料理ができるのか? 冒険者の野営食など、干し肉と固いパンを水で流し込むくらいのものだが……」

「まあ見ててよ。魔法って便利だからさ」


ジンは『武器召喚』の要領で薄く平らな鉄板を空中に創り出し、焚き火の上にセット。さらに水魔法で食材を洗い、風魔法をカッター代わりに使って器用に食材を刻んでいく。

そして、オークの肉を焼き始めると……ジューッ! という食欲をそそる音と共に、醤油と生姜に似た香辛料の甘辛い匂いが森いっぱいに広がった。


「なっ……この、暴力的なまでに良い匂いは……!?」


木の幹に寄りかかってクールに振る舞っていたシルバだったが、その匂いを嗅いだ瞬間、ピクッと犬耳ないけどが立ち上がるような反応を見せた。

視線はもう、鉄板の上でタレと絡み合う肉に釘付け。もし彼女に尻尾が生えていたら、間違いなくちぎれるほどの勢いでパタパタと振り回していただろう。


「お待たせ! 特製・異世界生姜焼きの完成だ!」


ジンが木の皿にたっぷりの肉と野菜を盛り付けて差し出すと、シルバはゴクリと喉を鳴らした。

「……美味そうだな。だが、私だけこんなに……」

素直に手を伸ばしたいけれど、一匹狼のプライド(?)が少しだけ邪魔をして躊躇してしまうシルバ。


そんな彼女の葛藤を見透かしたように、ジンはニカッと笑った。

「俺一人じゃ、絶対食べきれないんだよ。だから手伝ってくれない?」

「……お前がそこまで言うなら、仕方ないな。手伝ってやろう」


シルバはコホンと一つ咳払いをしてから皿を受け取ると、我慢しきれない様子で肉を口に運んだ。


「――っ!!」


瞬間、シルバの瞳が見開かれた。

オークの肉の旨味に、甘辛くてパンチの効いたタレが絶妙に絡み合い、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出す。干し肉とは次元が違う、暴力的なほどの美味しさ。

「……美味しい。なんだこれ、本当に美味しい……!」

気づけば、クールな表情はどこへやら、シルバは両手で皿を持ち、無我夢中で生姜焼きを頬張っていた。口の周りに少しタレがついているのも気にしていない。


「ははっ、ゆっくり食えよ。おかわりもあるからさ」


ジンが優しく微笑みながら自分の分の肉を焼いているのを見て、シルバはふと、動きを止めた。

焚き火の光に照らされる、優しくて頼りになる横顔。彼が作ってくれた、温かくて美味しいご飯。


(……ズルい男だ。私の胃袋まで、完全に掴んでしまうなんて)


元の世界に帰ってしまうかもしれないという不安は、まだ消えていない。

けれど、今はただ、この温かい時間をもっと一緒に過ごしたい。


「ジン」

「ん?」

「……おかわり、もらえるか?」

「おう! ちょっと待ってな!」


ほんのり頬を赤くして皿を差し出すシルバに、ジンは山盛りの肉を乗せてあげた。

満天の星空の下、二人の距離がまた少しだけ近づいた、初めての野営の夜だった。

次回更新03/24昼

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