第四十二話 過保護
第四十二話 過保護
すずの懐妊を知ってからというもの、長政の“すず保護体制”は想像以上だった。
「すず、その段差を踏むな。危ない」
「台所の煙が身体に悪い。今日は休め」
「外は陽が強い、部屋で過ごせ」
家中の侍女たちは苦笑しつつも、“殿が嬉しさのあまり壊れた”と密かに噂していた。
すずはというと――
「殿……そんなに守られてばかりでは、病人みたいになってしまいます……」
困ったように笑って言った。
だが長政は、すずの手を取って真剣な顔で返す。
「病人ではない、宝だ。
俺とすずの……我らの命だぞ。
大切にせずにどうする」
その言葉に、すずは胸が温かくなり、何も言えなくなった。
お市もそれを見て、ため息まじりに笑う。
「殿、あまりすず様を締めつけすぎると逆に身体に悪いものですよ」
「……気を付ける」
と返したものの、長政が“気を付けた”姿は、以前より少し落ち着いた“過保護”になっただけだった。
◆
八月が近づき、暑さも増してきた。
すずは廊下を歩きながら、遠くから聞こえる戦支度の気配に足を止める。
「……また、戦……」
胎の奥で脈打つ、まだ小さな命。
すずはそっとお腹に触れた。
『殿は……無事に戻ってこれるだろうか』
思わず、指で衣を握る。
その時、背後から静かな声がした。
「すず」
振り返ると長政が立っていた。
すずの強ばる表情に気づいたのか、そっと近づき、すずの肩に手を置く。
「そなたが案じてくれるのは、嬉しい。
だが……俺はそう易々と死なん。
すずと、この子が待っているのだからな」
すずは小さく頷きつつも、涙がつい滲んでしまう。
長政はすずの背を支え、肩を寄せるようにそっと抱いた。
「すず、俺は必ず戻る。
そなたが笑って迎えてくれるまで……この命、断ちはしない」
すずはその胸に額を預け、小さく返す。
「……お待ちしております。殿が帰るその時まで……」
長政は、すずの頭を優しく撫でた。
◆
すずには悪阻らしい悪阻は来ず、落ち着いて過ごすことができた。
初を妊娠していた頃お市は悪阻により、褥から出られない日もあった、とお市本人から聞いたため、内心は不安に駆られていたすずであったが、今まで通り普通に長政の政務をこなせたし、家事だって長政に止められない限りある程度自分でしていた。
城中の人々がすずに驚いたが、心配しつつも温かく見守ってくれた。
長政一人を除き。
たまには過保護な長政がいてもいいですよね。
猛将とのギャップが。
史実でも長政は家族思い(愛妻家、子煩悩)の優しい男です。
家族だけじゃなくて、家臣も蔑ろにしたりはしません。
でも正直に言うと天下を治める器はないです笑。




